第423話「オークの巣の抹消」
「クロノさん、料理長からサービスです」
朝食時、そう言われてオーク肉の野菜炒めが頼んでいないのについて出てきた。奇妙に思って尋ねてみると意外な答えが返ってきた。
「クロノさんが助けていただいた方がですね、料理長の親戚でして……」
「おい! 余計なおしゃべりしてないで次の料理を持っていけ」
そう言われて給仕さんは大急ぎで厨房にすっこんでいった。どうやら私情を挟むこともある料理長のようだ、そういうのは嫌いじゃないぞ。
なんとなくだが人助けをして食べる食事は美味しいものがあった。通常時に比べて三割くらい美味しいような気がした。美味しいは正義である。料理長も良いところがあるじゃないか。
なんと食後にアイスクリームまで出てきたのでありがたく堪能して宿を出た。美味しかったな、うん、良い食事はいいことだ。
気分良くなったところで本日の行動予定を考える。ギルドに行けばまあ何かしらの依頼が待っているだろう。それが良いものか悪いものかは判断がつかないからなあ……
まあ……ギルドに行くかな。他に稼ぐ方法も思いつかないしな。商人に手持ちの素材を売却するという方法もあるが、売り払おうにも足元を見られても困るしな。ハッキリ言えば売却は栄えている町で売った方が金になるということだ。
そうしてギルドまでの道を歩くと道行く人の中にこの前助けた連中がいた。一人が商人に薬を買っていたので俺が声を掛けた。
「なあ、元気だったか?」
「ほわああああ!? クロノさんですか……突然話しかけないでくださいよ、この前のことが結構ショックだったんですよ」
そうは言うがなあ……
「元気そうにしているので何よりです、ところでエリクサーを買おうとしていたようですが?」
助けてやった女は無傷で助けてやったにもかかわらず回復薬を買おうとしていた。買う必要なんて無いだろうし、なぜこんなものを買おうとしているんだ?
「実は……お父さんが病気でして、回復薬が必要なので危険な依頼もお金を稼ぐためにしていたんですよ……」
はぁ……やりたくないけれど関わってしまったもんなあ……今さら放っておく訳にもいかないか。誰も彼もを助けるほど立派な人間じゃないんだがなあ……
「これ、回復薬だよ。持って帰れ、大抵の病気ならこれで治るから。ただし口外はしないように、いいな?」
「へ? いいんですか?」
キョトンとした顔をしているやつを放っておいて俺は黙っておけと釘を刺すだけにしてギルドへ向かった。
関わり合うとキリがないから俺は無償の助けはしない主義なんだがな……なんの気まぐれやら。
ギルドについてドアを開けるとギルドがざわついていた。クエストボードに群がっているが何か条件の良い依頼でも出たのだろうか?
俺もその波に乗ってクエストボードを見る。そこにはこう書いてあった。
『オークの巣破壊依頼、報酬金貨三十枚』
ふむ……この依頼に乗るべきだろうか? 場所はこの前の依頼で助けた連中がいたところだな。破壊することにしたのか。破壊工作ならもっと適任がいるような気もするな。誰も受けなかったら受ければいいや。
俺は席についてギルドで酒と肉のフライを頼んでそれが届くまで誰かが受けてくれるか待ってみた。結局、料理が運ばれてくるまでその依頼票が剥がされることはなかった。
「お待たせしました」
リースさんがメニューを運んできたので少し尋ねてみた。
「リースさん、あの依頼不人気なんですか?」
俺がオークの巣破壊依頼について訊いてみると静かに彼女は首を振った。
「ダメですね、受けてくださる方はいそうにないですね。この前ボロボロになって返ってきたので皆さんビビっているようです」
手間のかかる連中だな……
「クロノさん、受けてくれたりは……」
「これを食べてエールを飲み終わってまだ残ってたら受けますよ」
それだけ言って食事に戻った。正直片手間に作られた食事はあまり美味しいものではなかったが、それでも貼り出された依頼から逃避出来るだけマシなのでこちらに集中した。
肉をかじりエールで流し込む。どうやら酔い潰れていい感じに依頼から逃げられそうな気がしたのだが、肉と酒よりも依頼の方が俺の事を好きらしい、難儀な生き方だなと思う。だからこそ勇者連中との旅なんていう面倒なことをしていたのかもな。
食器を残して席を立つと依頼票を持ったリースさんが待っていた。
「現れませんでしたね」
「そのようですね。オークくらいサクサク倒してほしいものなのですが……」
ギルマスの顔になって少し渋い顔をしてからいつものリースさんの顔になって答えた。
「クロノさんがいるからなんとかなるってことでしょう、これもまた神の采配なのでしょう」
「本気でそう思ってますか?」
リースさんは吐き捨てるように答えた。
「そうとでも思わないとやってられないんですよここではね……」
心底うんざりした顔で言われたので断るのも悪いと思い俺はその依頼を受けることにした。どうせ誰かがやらないとダメなことだし、何よりオークは殲滅したが巣を残しておくとオークがまた増えかねないからな。
「リースさん、その依頼を受けますから受注処理しておいてもらえますか」
「え? あっさりですね!? いいんですか?」
「ええ、やりかかったことを途中でやめるとどうにも不安になりますからね」
「ありがとうございます! では受注処理しておきますので、先日の場所で巣の破壊をお願いしますね!」
「はーい」
適当なやりとりで俺はギルドを出てオークの巣へと向かった。今回の依頼は破壊依頼なので比較的簡単だ、大規模破壊は簡単に引き起こせる。
しばし歩いて行くとあのオーク共も気の毒なものだななどと思ってしまった。人間がこんな事を考えるのも良くないのだろうが、俺に目をつけられなければ平和に暮らしていた可能性が僅かにでもあるのかもしれない。まあ人間に喧嘩を売った時点で将来など決まったようなものだがな。
そうして現地に着いたので、探索魔法を全力で洞窟内部に向けて使った。人間がいると大変なことだからな。
ぶわっと魔力を放出して隅々に行き渡るように魔力を流して見たが、人間の反応は一切無かった。安心して破壊出来るということだ。
『圧縮』
洞窟のある丘がまとめて範囲に含まれ急速に一点に収束する。
『解放』
轟音とともに丘が消し飛んだ。これで破壊工作は完了だ。手間ではないが説明がほぼできないんだよな……まあ詮索は拒否出来るし問題無いだろう。
そしてのんびり歩きながらギルドに帰った。大分底上げされた力の使い方にも慣れてきたな。辺り一面を消し飛ばさない程度には使いこなせるようになってきたし、多少の無茶は効くようだ。
ギルドに帰るとリースさんが俺を見て無言で報酬の袋を渡してきて『ありがとうございます』とだけ言った。それ以上の言葉のやりとりはしなくても依頼が完了していることを確認はしないようだった。
そうして俺がギルドを出ると、朝に回復薬を渡した女が立っていた。
「クロノさん、ありがとうございます……父はすっかり良くなりました。ギルドはやめようと思います、家族からも危ないことはやめてくれと言われまして」
「いいんじゃないか? 実際危険だしな。俺がいなかったらヤバい場面だったろ? まともに生きていける人間が選ぶような生き方じゃないんだよ」
「もう……意地悪ですね、敵を増やしますよ?」
意地悪そうに言う彼女に対して俺は『敵ならたっぷり作ってるよ』と答えて二人して少し笑ってから俺は宿に帰った。その日の夕食が美味しかったことは言うまでもないだろう。
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