第422話「救助依頼」
本日は平和に朝食を食べている、平和なのはいいことだ。朝食の固形食料を食べながら考える。さすがに朝食に手を抜きすぎではないかと思うのだが、宿曰く『たまには休みをくれ』とのことなのでしょうがない、人間は休みなく働くようにできていないからな。
「不味い……」
それはそれとして不味いんだがな……どこか別の食堂で食べることはもちろんできるのだが、なんだか宿代に食事代が入っていると食事をしないと損をするという貧乏根性でついつい美味しくなくても食べてしまう。まあ金ならあるのだからこれを食べてから他の食堂に行けばいいだろう。
そうして不味い固形食料を食べた後でギルドに向かった。どうせギルドに顔を出すならギルドで食べておけと言うのは野暮な話だろう。
ギルドに入るとなんだかざわついていた。どうせまたくだらない話で騒いでいるのだろう。放っておいてクエストボードを見ようとしたところでリースさんに声を掛けられた。
「クロノさん! 緊急で一つクエストがあるのでお願いします!」
「えー……絶対急ぎじゃないやつじゃないですか。他の人に任せればいいでしょう」
そう答えると俺の肩をがっと掴まれた。
「冗談を言っている場合ではないんですよ! 本当に緊急なのです!」
いつも緊急だといっていたじゃないかと言い返したかったが、本人がそう主張しているのだからそうなのだろう。何よりリースさんの目が本気だったので無碍に断るのも気が引けた。
「わかりました、少し落ち着いてください。どういう依頼なんですか?」
はあはあと肩で息をしていたリースさんを少し落ち着かせて話を聞くことにした。
よく見れば髪がボサボサになっており、整えている時間もなかったのだろう、よほど緊急の依頼らしい。
「クロノさん、こちらへ」
俺は導かれてテーブルにつく。そのテーブルの上に村とその周辺の地図を広げられる。
「さて、クロノさん。このあたりの地域の地図は頭に入っていますね?」
「ええ、一応は」
そしてリースさんは熱っぽく口を開いた。
「ここです! この洞窟を調査に行った方たちが帰ってこないのです! 救援をお願いします!」
なるほど、依頼で帰還していない連中の救出か。確かに緊急だな、調査で引き際を見誤った連中の後始末ということだ。
「わかりました、急いだ方がいいですね。この洞窟に出る魔物は?」
「イビルバットや大ネズミ、後は強いところだとジャイアントスネークあたりでしょうか。基本的に危険なものはいなかったはずです」
そんな所で帰還不能になっていると……なんだかきな臭い香りがするな。
「いいでしょう。情報は十分です。では行ってきますね」
さっさと行って救出してこよう、時間は早い方が良いしな。まあ……十分死んでいる可能性はあるわけだが……
「申し訳ないですが急ぎの依頼なので報酬は事後相談でお願いします、それでは、お気をつけて」
それだけ聞いて俺はギルドを出た。目的の洞窟まで大急ぎで向かうことにしてダッシュで村を出てから加速魔法を使い大急ぎで洞窟までたどり着いた。洞窟はぽっかり暗い穴を開けており、まるで魔物の口のようだった。
「さて、何が出るやら……」
探索魔法を使用しようかと思ったが、中にいる魔物を刺激しないためにも穏当な方法で洞窟内を探索することにした。リースさん曰く、一本道だそうだから問題無いだろう。
灯りを用意して入ろうかと思ったのだが、なんと暗い場所でもしっかり目が見えるようになっていた、神様とはなかなかやるものだな。
そんなわけで身体能力を強化された俺は灯りも無いなか洞窟へ突入した。
内部はゴツゴツとした岩肌をしており、作りがしっかりしているので崩落の心配は無さそうだ。どうやら洞窟が崩れたせいで帰還不能になったというわけでもないらしい。
俺の直感が内部にオークの巣があることを告げてきた。勘によると三匹が集まってパーティを食料に加工しようとしている。俺は加速して大急ぎでそこへ向かった。
「た……たすけ……」
「いやあああああああああああ」
「たのむよ……やめ……」
三人にオークの石斧が振り下ろされそうなところで俺が間に合って三匹の石斧を殴りでたたき割った。
「ふご!? ふごおお!?」
「ぶひ!? ぶもおおおおおおおおおおお!」
「やかましいぞ」
頭をぶん殴って飛ばす。一匹が死んだところでオークは大混乱になった。夜目の利いているオークを追い回し、残りはナイフで切りつけて倒した。
真っ暗の中、ストレージにオークの死体をしまい込んで殺されそうだった三人に話しかける。
「ギルドの連中からの依頼で助けに来たぞ、次からはあんまり身の丈に合わない依頼は受けるなよー」
気の抜けた声で言ってやった。この程度の修羅場、なんでもないからな。このくらいを切りぬけられないなら才能が無いと言っていいだろう。
『ライト』
魔法で光源を作り出すとボロボロになったパーティが浮かび上がった。三人とも俺を見てポカンとしている。
「助けに……来てくれたのか?」
「そうだよ、さっさと帰るぞ」
それだけ言って三人を連れて洞窟を出た。灯りが見えたことで安心したのか三人ともため息をついていた。
「なんでオークに捕まってたんだ? みんなが受けたのはあの洞窟の調査だろう? オークに出会ったなら逃げれば良かったじゃないか?」
「簡単に言ってくれるな……俺たちだって逃げられるものなら逃げてたよ。オークの一匹が真っ先にたいまつを折って握りつぶして火を消されたんだ。そこから先はもう酷いものだったよ……」
それにしても夜目の利くオークとは珍しい個体だったな。知能の方は他より下をいっていたようだが。
「よし、じゃあギルドに帰るぞ」
「ありがとうございます~」
「ヤバかったな」
「助かったよ」
そうして三人を引き連れて俺は村に着き、ギルドに入った。
「クロノさん! 三人は……?」
ばつの悪そうにしている三人をギルドに入れるとみんな大騒ぎになった。
「死んでるかと思ったぞ」
「まさか生きてるとはな」
「クロノさんが助けにいったんだから俺は成功すると思っていたぞ」
「と言うわけで三人とも助けてきましたよ。問題ありませんね?」
「え、ええ……あの、三人ともお怪我はありませんか?」
「ああ、傷つく前にそこのクロノさんが助けてくれたんだ」
リーダーがそう言って俺を見る。この程度ならどうとでもなるだろう、別に俺が助ける必要もなかっただろう。
「クロノさん、報告お願いします」
「ああ、三人ともオークに捕まっているところを俺が助けた。三匹とも殺してしまったので次の被害者はいないはずです」
それだけ聞くとホッとした顔をするリースさん。さて、ギルマスのメンツを賭けた勝負をするか。
「さてリースさん、三人とも無事帰ってきたことですし報酬の方は……」
「ああ、どうぞ」
そう言ってカウンター裏からずっしりと重い袋を持ちだしてきた。俺に手渡してきたので中身を確かめると金貨が結構な量が入っていた。
「なかなかの豪気さですね」
「三人を生存させていただいただけで十分すぎますからね。本当にありがとうございました」
そうして俺は出て行った。報告はあの三人にさせればいいだろう。そもそも俺は報告するようなことは少ないからな。
そして収入で食堂に行って美味しい食事をしっかりと食べたのだった。やはり固形食料は野宿をしている時に食べるようなものだな。
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