第413話「オーガ討伐戦」

 俺は朝食を宿でとって今日はどこへ行こうかと悩んでいた。普段ならギルド一択なのだが、何しろここは観光地だ、観光だってしたくなるってものだろう。


 しかしこの村、自然豊かなことをアピールしているのだが自然など腐るほど見たのでもう少しマシなものを見たい。なんで自然のど真ん中を旅し続けているやつが村でまで自然を感じなきゃならんのだ馬鹿馬鹿しい。


 退屈だったので店にも寄ってみたのだが、土産用の、工芸品のロッドのレプリカや刀剣のレプリカなどが展示してあった。ロッドと言っても魔石は使われておらず、作りも粗雑なので子供だましにしか仕えないだろう。刀剣に至っては木剣を銀色に着色した素朴なものとなっている。俺が力任せに振り回してもスライム一匹倒しただけでダメになりそうな代物だ。


 まあ展示品の脇に『お子様の冒険者ごっこに大好評!』と書かれているので実用性はお察しである。お子様のおもちゃに用は無いので店を出た。まあ看板に『土産物』と書かれていた時点でお察しというものだろう。この町に来るような金持ちにそういったものが必要になる事は無いだろう。安全地帯から眺めているような連中が大半だからな。


 結局、俺はギルドに向かうことになった習慣になっているのは恐ろしいというかなんというか、とにかく今まで行っていたことをサボれないだけだろう。


 ギルドに行くと酒を飲んで駄弁っている商人の護衛達がいた。彼らは特に依頼を受けるわけでもなく、安い酒場程度の認識でいるようだ。俺はクエストボードを眺めると目新しい依頼がないしギルドに顔を出したといういいわけはできるので食べ歩きでも使用か考えている時に声がかかった。


「クロノさん、依頼を受けに来たんですか? オススメの一枚を貼ろうと思っているんですがこの依頼を受けませんか?」


 リースさんがそう声を掛けてきた。大抵こういう依頼はろくでもないと相場が決まっているのだが、押しつけようという感じもないのでそれほど問題は無いだろう。


「見せていただけますか?」


「どうぞ」


 そう言って差し出された一枚の依頼票にはシンプルな内容が書かれていた。


『オーガ討伐、一匹から買い取ります! 金貨五十枚最低保証!』


 俺はこの依頼の意図を図りかねてリースさんに尋ねた。


「最低保証って言うとどんなに状態が悪くても最低この金額は出すってことですか?」


「はい、治安維持も兼ねた依頼なので食料にならないにしても討伐してくるだけでも報酬は出ますよ」


 なるほど、悪くない依頼だ。オーガは多少強いが所詮はデミのようなものだ。討伐するのに不自由するような相手ではない。とはいえ俺も自分を安売りするつもりはないので交渉は渋々と行ったように始める。


「しかしオーガとは穏やかではないですね。そうそう出てくるような魔物ではないでしょう?」


 それに頷いてから説明を始めた。


「実はオーガの目撃例はあるのですが証拠が挙がっていないんですよ。そこ含めて受けてもらうための報酬なんです」


 なるほど、いるかどうかも分からない相手に高い金を出せないということか。まあ至極当然のことではあるな。しかし貼り出すには勇み足ではないかと思うのだが、ギルドは調査などしないのだろうか?


「オーガなら襲われた人くらい出てきませんか? あれだけ力の強い相手なら多少は被害も出ているはずでしょう?」


 リースさんは苦々しく俺に答えた。


「それが出ていないんですよねえ……襲われることはありそうなんですが意外と無いんですよ。ただ……」


 何か含みを含んだ言葉を言いそうになって躊躇い、そもそもの話を始めた。


「オーガともなると多少の知恵はつきます。ここに来られる皆様は護衛でガッチガチに固めていますからね。強い相手とは戦わず逃げる程度の判断はできるようです」


 ふむふむ……なるほど、しかし強い相手とは戦わないということはこの村に来る一般的な商人の護衛でも相手として脅威に感じている証拠だろう。ならば俺がここに来る時にオーガと出会わなかった理由も説明がつく。つまりオーガは俺にさえ勝てない雑魚だということだ。


「ところで最低保証は書かれていますが素材としての報酬はどのくらいなんですか?」


 そこは肝心だ。いざ受けてみたら綺麗に倒すのに気をつかったのに最低保証しか出ないという可能性すらある。


「はい、上手に倒したものになりますけど、最低保証に金貨二百枚を加算します」


 なるほど、合計金貨二百五十枚か、そこそこの金額にはなるな。受けるとするか。


「分かりました、その依頼を受けましょう」


「ありがとうございます!」


 ワンオペでギルドを回しているせいか感動の涙を流すギルマス。いくらギルドが設置をされていなければならないからといって、ここまでギルマスに負担を掛けるのはどうなのだろうか? 運営に資金を回そうなどという気は無いのだろうか……


 ギルドでの受注処理はあっという間に終わった。ワンオペでいくらギルドが過酷な職場だとしても、そもそもここは観光地なのでこういう依頼を受けてくれる人は少ないらしい。この村にいる冒険者は皆商人の護衛みたいなもののようだからな。


「じゃあ行ってきますね、軽く片付けられるので待っていてください」


「お願いですから生きて帰ってきてくださいね!」


 俺はその気遣いに深く頷いてギルドを出た。


 柵も何も無い村から出て少し森に入ったところで探索魔法を使う。目的の相手はオーガだ、さぞや魔力も強力なのだろう。


 魔力を広げていった結果帰ってきたのはギリギリオーガに近い種が一体だけひっかかった。どうやらオーガといってもそれほどマズい相手ではないらしい。チョロすぎませんかね……


『クイック』


 加速魔法で木々の間を駆け回り、即座に目的の反応のところにたどり着く。そこにいたのは一匹のオーガの幼体だった。何の事は無い、ただ単に弱かったから誰かを襲えなかっただけだ。


「グルルル……ウガア!!」


「おっと」


 オーガのパンチを軽くかわすと腕は気にあたって気をへし折った。どうやら幼体であってもそれなりの力はあるらしい。


「ガアッ!」


 右ストレートをよけて後ろに回りこみ首にナイフを思い切り刺した。ぬるりという手応えと共にぐらりとオーガは倒れて死んだ。なんだ、チョロい相手じゃないか。


「さて、後始末は持ち帰るからギルドに任せればいいだろ」


 アンデッド化しないための処理だって無料ではない、死体ごと納品希望だそうなのでまとめてストレージにしまう。


 そして村に帰るとギルドに行って討伐報告をした。


「オーガは本当にいたんですね……」


「いましたよ、倒すのに苦労しましたよ」


 報酬をつり上げるためにいかに苦戦したかをでっち上げる。リースさんは納得しているようなのでこういう交渉ごとには慣れていないのだろう、他の悪質な連中につけ込まれないか心配になるくらいだ。


「では査定場にどうぞ」


 そして査定場に入りオーガの死体を収納魔法で取り出す。多少驚いたようだが一々収納魔法を珍しがられないのは有り難い。


「ふむ……オーガの子供ですね。親の方は見つかりませんでしたか?」


「いないようですね。根拠は示せませんが安心していいと思いますよ」


 探索魔法を使えるなどと話すと、ことが大きくなるからな。そこら辺は曖昧にしておいた方がいい。


「これは満額払えますね……よくここまで一撃で倒せましたね?」


「奇襲を掛けたんですよ」


 それだけいえば納得してくれるリースさん、少しチョロいのではないかと思う。


「では報酬はこちらになります」


 部屋の隅に積んである五個の袋から五個ともを取って俺に渡してきた。重さ的に一袋五十枚だな。


 そうして俺は満額もらって気ままに楽しんだのだった。

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