第370話「カクタスイーターの駆除」
俺はギルドに来ていた、習慣的なものだが様々な依頼を見て景気の良さを実感するのは良いものだ。クエストボードいっぱいに貼られた依頼を眺めながら報酬のよさそうなものを探していく。目立つものはこれといって無いが、目立っていないものでもそれなりに高額の報酬がついているのがこの町の魅力だ。
「ドラゴンの討伐は……無いな……」
流石にそうそうドラゴンは出てこないようだ。結構な稼ぎにはなるのだが討伐が少々手間だ、それに見合っただけの報酬と言ってしまえばそれだけなのではあるが……
まあ今日は平和な日だということなのだろう。それ自体は何ら悪いことではないのだ。依頼票に急ぎの依頼は……無いだろうな……ん?
『急募:カクタスイーターの駆除、報酬金貨二千枚』
ふむ、カクタスイーターがどのようなものかは知らないが報酬は良いものだな。名前からしてサボテンを食べる魔物なのだろう。割とどうとでもなりそうな依頼である。これを受けて無難に日銭を稼ぐかな。悪くない、草食の魔物は一般的に鋭い牙など持っていない。獲物を捕らえる必要が無いので鋭い爪も必要無い。だからこそ狩るには最適の相手と言える。
その依頼票を剥がして受付に持って行った。担当のネリネさんはそれを一瞥すると俺に切り出した。
「もう少しリスクのある依頼を受けませんか? 確かにこれはそれなりの報酬ですけど……クロノさんならもう少し上を狙っても……」
ギルドにもいろいろな事情があるのは分かるが受注する依頼を受ける自由は俺にあるだろう。確かに依頼は簡単なものかも知れないが、そこまで露骨に嫌わなくてもいいではないかと思ってしまう。
「別にいいじゃないですか、魔物の討伐はギルドの立派な仕事でしょう?」
俺が正論を返したのだが、ネリネさんは納得がいかないようだ。
「そういう問題ではないんですよ。クロノさんはこのギルドで当てにしている人なので、こういうしょうもない依頼で稼働をされてはこちらとしても……」
信頼は嬉しいのだがあてにされるのは困るんだよ、俺なんていずれ出て行く流れ者だぞ。そんな人間に全振りでかけるのはリスクでしかない。ネリネさんは俺が旅人だということをすっかり忘れているのではないだろうか?
「ネリネさん、俺だっていずれ出て行くんですよ? そういうことにはこの町に定住している人を使うべきだと思うんですよ」
ネリネさんの顔色がさーっと青くなった。
「待ってください! 話せば分かります! 出て行くのはもう少し待ちましょう!」
露骨に狼狽えるネリネさん、焦りすぎだろう。別に今日出ていくと言っているわけではないというのにここまで慌てなくてもいいだろうに。大体このギルドにはいつ顔を出しても見知った顔がいる。おそらく毎日来ているのだろう、そう言った人の方がよほどギルドの戦力としては当てに出来るはずだ。
「落ち着いてください、俺は
「分かりました……指名依頼が来ないかなあ……」
「何か言いましたか?」
「いえ、何でもありません。お気になさらないでください」
「ではカクタスイーターの駆除ですね」
ギルド印をポンと押して受注処理は完了した。なかなかスムースに進んでいったな。ギルドの権限で拒否などされては敵わないので無事完了したことに安心した。
「さて、サボテンの場所はどこですか?」
「南の砂漠ですね、この前にクロノさんが討伐依頼をこなしたところと同じ場所です」
「ああ、あそこですか。またいい加減な依頼を出したわけじゃないですよね?」
あのサボテン畑の持ち主にはいい加減な対応をされたことがあるからな、その辺が安心できないと安易に受けることは出来ない。
「大丈夫ですよ、ギルドとしてそうそう不祥事を起こすわけにはいきませんからね。この前の一件できっちり焼きを入れておきましたから情報管理や適切な報酬をたたき込みましたからね!」
少し怖いことを笑顔で言うネリネさん。一体どんな教育をしたのだろうか? あまり聞きたい話でもないな。
「そうですか、それを聞いて安心しました。では行ってきますね」
「早めに帰ってきてくださいよー!」
もはや負けるかどうかは心配をしていないネリネさんに送り出されて砂漠地帯へと向かった。
門番は経緯が伝わっていたのだろう、無言で通してくれた。警告すらもなかったので信頼はされていると言うことだろう。門をくぐって砂漠への道を歩き出した。
『クイック』
もちろんちんたら歩いて向かうつもりはない、カクタスイーターにサボテンを食い尽くされていたら大変だしな。さっさと向かうとしよう。
砂漠地帯へ着いたので討伐前にストレージから水筒を一本取りだし飲み干した。喉の渇きを癒やしたところで、目の前にいるのっしのっしと歩いている巨大なトカゲのような生き物を退治しなければならないな。
乾燥を防ぐようにジェル状の液体が皮膚を覆っている。触りたくはないな、空間圧縮で吹き飛ばすには少々まわりにサボテンが多すぎる。ここで炸裂させたら辺り一面が砂場になってしまう。
どんな戦略を採るべきか……ふむ、砂漠には夜も昼もある。そしてこの魔物は昼間に行動している。おそらくジェルで皮膚を守っているから出来る芸当だろう。ならば夜のウチに粘液を生成してそれを纏って昼間に行動していると推測できる。ならば……
『オールド』
時間加速を使用して直射日光が照りつける場所で時間経過を早くする。これをやると粘液が徐々に乾燥していってピキピキと皮膚がひび割れてきた。ここまで乾燥すれば触っても粘つかないだろう。
乾燥でろくに動かなくなったカクタスイーターの脳天にナイフを突き刺す。あっという間に死んでしまった。チョロい相手だったな。
そしてその死体をまとめてストレージに収納して完了だ。
依頼が一通り完了したので水を飲みながら気楽に帰っていった。
町の門をくぐりギルドに入る。簡単な依頼だったがきちんと報酬は出るのだろうか? それだけが心配だ、依頼者が依頼者だからな。
「あ、クロノさん、カクタスイーターの討伐は終わりましたか?」
「ええ、終わったので査定をお願いします」
「相変わらず早いですねえ……査定場へどうぞ」
俺は査定場に行って気怠げなネリネさんの前にカクタスイーターの巨体を丸々とりだした。驚くようなことでもないのだろうからネリネさんもなれた様子で査定を始める。
「あの……クロノさん? カクタスイーターってあまり触りたくない粘液に包まれていることが多いんですが……」
ああ、そういえばカチカチに乾燥させてから狩ったんだった。適当に誤魔化しておこう。
「熱波が凄いですからね、乾燥したんじゃないですか?」
「そうですか……あの粘液がお金になるんですけどね」
「え? そうなんですか?」
俺は思わず驚きの声を上げてしまった。あんな気持ちの悪いものが売れるのか!?
「肌にいいらしいですよ、私にはさっぱり理解できませんが」
そんな需要があるのか……さっぱり知らなかった。
「まあ死体の査定はほぼ値が付きませんね、多少は色をつけておきますがあまり期待しないでくださいね」
失敗したなあ……ネリネさんに詳しく情報を聞いておくべきだった。今さらそれを言ってもしょうがないか。
そんなことを考えていると査定が終わったらしく代金を提示してきた。
「金貨二百枚ですか……」
「綺麗な状態だったら千枚くらいは出すんですがねえ……今回はそれで納得してください」
「しょうがないですね」
俺は査定表にサインをしてカクタスイーターの売却を完了した。そこで依頼料と買い取り代金をもらってその日はそれなりに儲かった。そして世の中には案外好事家が多いことを理解したのだった。
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