スキル「時間遡行」でPTを救ってきましたが、記憶に残らないので無能扱いされて追い出されました。しょうがないのでスローライフ始めました。誰も知らないチート日記!
第273話「グレートアリゲーターの討伐」
第273話「グレートアリゲーターの討伐」
「美味い!」
朝飯を食べながら今日こそは平穏無事な日々を目指すぞと心に決める。面倒なことを持ち出されたり英雄視されたりはた迷惑なことばかりだったからな。
「クロノさんは美味しそうに食べてくれますねえ、父さんも作りがいがあるって喜んでますよ」
「実際美味しいんだからしょうがないでしょう? 旅の途中なんて美味しいものはあまり無いですからね」
「そうでした、クロノさんは旅人でしたね。ついつい忘れそうになっちゃいますよ」
給仕の娘さんはそう言って厨房にもどっていった。宿で食事をしている人たちも連日酒で潰れた俺を見て、『英雄でも所詮は人間』という認識が浸透して、特別視するような人はいない。それが健全というものだろう。
そう考えているとステーキがなくなったのでパンでステーキ皿の肉汁を拭き取って口に入れ、肉を最後の一口まで味わって宿を出た。
幸い町は平和そのもので不穏な気配は漂ってこない。これなら大した依頼は出てこないだろうな。
そう、薬草採集をそれなりにこなして、日々小さな生活をするのが俺の目標だ、決してドラゴンをぶっ倒して目立ちまくるのが目的ではないのだ。
安心してギルドに入るとロールさんがこちらに依頼票を持ってきた。絶対面倒なやつだと思いクエストボードで他の依頼を受けようとするとガシッと俺の腕を掴まれた。
「クロノさん、おいしい依頼が来ているんですよ! 是非この依頼を受けて頂けませんかねえ?」
「俺は薬草採集でもしようかと思ってたんですがね、そんな強い敵と戦うような依頼なら無理ですよ? どんな依頼なんですか?」
内容くらい聞いておかないとダダをこねて話が進まないのは知っているので初めから受ける気があまりないと言うことを表に出しつつ、内容を聞くだけ聞くという姿勢を見せた。
「なんと! グレートアリゲーターを倒すだけで金貨二十枚! おいしい依頼でしょう!」
「何を勢いだけで押し切ろうとしているんですか! どう考えても下手すりゃ死ぬ依頼じゃないですか!」
俺が文句をつけるとロールさんはダダをこねた。
「だって昔にワニ掬いで掬った子ワニが川に逃がされて成長しちゃったんですよ! 文句を言うなら逃がした現村長に言ってくださいよ!」
俺は依頼票を取ってみると『依頼者、村長』となっていた。どうやら昔の軽はずみな行為のツケが回ってきたようだが、それだけの年代を重ねたツケを金貨二十枚で解決しようとする根性は気に入らないぞ。
「もう少し報酬がいいなら考えるんですけどねえ……」
そこで猛禽類のような目でロールさんは俺に視線を向けてきた。
「なんと! グレートアリゲーターはお肉も美味しいですがなんと言ってもワニ皮の素材として高額取り引きされているんですよ! 綺麗に倒して頂ければこのギルドでちゃんとした金額で買い取りますよ! おいしい依頼ですよね?」
「近い近い! 高額報酬なんだったら受ける人くらいいるでしょう? 何で俺にこだわるんですか?」
するとロールさんは『聞かれなかった』部分について説明を始めた。
「実はですね……討伐自体は危険ですができるんですよ……でもワニをボロボロにして回収すると皮としての価値がほとんど無くなっちゃうんですよね……そこで無傷同然で討伐出来そうなクロノさんに白羽の矢が立ったわけですよ!」
どうやらワニ皮も慎重に採取しなければならないもののようだ。俺ならサクリと一撃だろうがこの村の人間が育たないような気がするんだがな……
「誰か他に受注希望者はいないんですか?」
俺はギルドをぐるりと見渡したが、全員が俺から目をそらした。ワニ程度倒せないと苦労するぞ、多少は実戦経験を積んでおいた方がいい気がするんだがな。まあ受ける人が皆無ならしょうがない。
「分かりましたよ、受けますけどね、ワニ掬いなんて言う危なっかし行事はやめてくださいね?」
「もう何年も前に禁止されました、村長の時代はセーフだったみたいですね」
昔の皆は随分と無茶をするのが好きなようだ。動物の権利などと言うつもりはないが育ったら絶対面倒を見きれなくなるのは分かっているのにその場限りの商売をする奴は滅んで欲しい、いや、規則でもう滅んだのか。
「それで、どこにグレートアリゲーターがいるんですか?」
「はい! 南の森の湖ですね、食料が多いので湖の主になっているとか……」
まったく……面倒なことばかりだ。
「さっさと片付けちゃうので行ってきますね」
「あ! ちょっと待ってください!」
そう言ったロールさんはカウンターに紙を一枚おきそこにさらさらと文字を書いた。
「どうぞ!」
俺に手渡されたその紙には『南の湖での薬草採取依頼受注書』と書かれていた。
「なんですかこれ? 俺はワニ退治に行くんですけど……」
「その……逃がしたのが村長ということで……不必要に噂が広まって欲しくないそうなので、門兵には適当な理由をでっち上げておいてくれと頼まれまして……」
「分かりました『薬草採集』に行ってきます」
「はい! 査定場で待ってますね!」
そして俺はギルドを出た。歩いていった出口で門兵にロールさんの書いた書類を見せる。
「なんだ、クロノさんも普通の依頼を受けるんだな!」
そう言って少し微笑んで通してくれた。親近感でも感じてくれたのだろうか?
門が開き、村を出て南の方に向かった。
『クイック』
『サイレント』
静音魔法と加速魔法でコソコソと素早く湖までたどり着いた。そこにグレートアリゲーターはいた。隠れているかと思ったのだが、よく考えてみれば村長が逃がしたと言うことはかなり昔のことになるだろう。ワニは大層すくすく育ったらしく、でっぷりした身体を水に漬けていた。
『ストップ』
ピタリと時間を止めてワニ皮の取りやすいしめ方を考えた。結局、ワニの目玉部分にナイフを突き刺し腕をそのまま突っ込んでワニの頭をぐちゃぐちゃに潰した。
潰したのは内部だけなので皮部分には一切傷がついていない。これでケチをつけるなら買い叩こうとするセコいやつくらいのものだろう。手を引き抜いて時間停止を解除したところズゥンと動きを止めて絶命した。ここまでは余裕だ。
『リバース』
これで腕についたワニの血液や細かい肉を綺麗にする、時間遡行は便利だな。
ドスン
ワニを時間停止させてストレージに突っ込んだ。村長はもう少し早く懺悔していればここまで大きくはならなかっただろうに……
村に帰ると門兵が『あれ? ああ収納魔法が使えるんだったな』と薬草採集に出たと勘違いしてくれて素直に中に入れてくれた。
ギルドに向かってドアを開けると飲んだくれている男が『ロールが奥の査定場で待ってるぞ』と言伝を伝えてくれた。待っているそうなのでカウンターの奥に入りそこそこ広い屋外査定場に向かった。
「クロノさん! やはり無事でしたね、絶対無事だと思ってましたよ!」
「それは光栄なことなんですがね……もう少しギルドのメンバーを育てた方がいいですよ?」
「まあまあ、それはさておき村長の昔の恥部はちゃんと倒してくれましたか?」
「ええ、こんな感じで」
ドスンとストレージから大きなワニの死体を取り出す。大人二人分くらいのサイズのあるワニを見て少しビビりつつロールさんは俺に聞いた。
「目が潰れているだけですけど、これはちゃんと死んでいるんですか?」
「ええ、間違いなく死んでいるので安心してください」
それを聞くとロールさんはワニの検分を始めた。商品になる部分に一切傷がついていないのに驚きつつも俺の方を向いてニッコリ笑った。どうやら満足のいく成果を出したようだ。
「それではクロノさん、報酬の金貨二十枚とワニ皮の金貨五十枚になります! それではカウンターでお待ちください!」
ワニ皮の方が価値が高いのかよ……なんとなく釈然としないものを感じながらも俺はカウンターで待っているとロールさんが袋を持って帰ってきた。
「こちら報酬になります。ありがとうございました!」
そう言って頭を下げるロールさん。俺はできれば村長が頭を下げて欲しいなあなどと責任を追及したくなったのだった
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