第272話「盗賊を捕縛した」

 いつも通り美味しい肉料理を食べてからギルドに向かうと、なんだか妙にザワザワしていた。


「クロノさん!」


 ロールさんが俺を見つけるなり依頼票を持って駆け寄ってきた。あ、これ絶対面倒なやつだ。逃げたい、ものすごく逃げたい。


「なんですか……」


 断れない俺の馬鹿げた性格のせいでまた何か一つトラブルに巻き込まれそうだった。


「実はですね、商隊が来てからちょいちょい盗みが起きているんですよ、それもそこそこの値段のモノが! 同一犯っぽいのでクロノさんが捕まえてくれないかなーって……」


 依頼票を受け取って見る。


『盗賊の討伐及び盗難品の奪還、報酬金貨百枚」


 おお、この村にしては結構な報酬じゃないか、なんでこんな依頼を余らせているんだ? 受けたい人なら何人も居るだろう。


「報酬、結構いいですね」


 ロールさんは自慢気に説明した。


「そうです! この村だって報酬を出せるときは出せるんですよ! 何しろ結構な高級品が盗まれていますからね、被害がなくなるなら安いモノだと、この村のお金持ち達が共同で出した依頼ですからね!」


 自慢気に言うロールさんだがそこそこの報酬であって少し大きな町ならこのくらいの依頼は普通にころがっているぞ? この村では高額なのかもしれないがな。


「それでクロノさん! もちろん受けて頂けますよね?」


「え? 面倒くさいんですけど……」


「は!? うちがこれだけ出すことなんてまず無いんですよ? これを逃していいんですか?」


 いや、金には困っていないしなあ……


「俺は探偵や治安維持部隊ではないですし、こういう事は自警団の仕事じゃないんですか?」


「クロノさんが一番強いって評判になりましたからねえ……一番強い人間に頼みたいと依頼者がおっしゃっているんですよ、他の方も受けたいとは言っているんですがね」


 指名依頼みたいなものって事か。俺以外にも盗賊くらい倒せそうなやつがいそうなものだがな。


「それで、是非クロノさんに受注して頂きたいのですが」


「分かりましたよ……実質は俺以外受けられないようなものなんでしょう? 盗賊退治くらいなら簡単ですしね」


「ありがとうございます! 盗賊は夜間に活動しているそうなので捕縛をお願いしますね? まあ依頼者は生死問わずと言っていましたが……」


「できるだけ生かして捕獲しますよ、安心してください」


 そうしてギルドを出て宿に帰った。受注も終わったことだし、盗賊の活動する夜まで寝るとするか。


 ギルドに帰るなり『夕食はいらないです』とだけ伝えて自室のベッドに飛び込んだ。食事代も請求しておけば良かったななどと思った。


 そしていい感じに太陽が山に隠れる頃に目が覚めた。さて、始めますかね……


『サーチ』


 探索魔法を村一杯の範囲で起動する。これで怪しい動きをしている奴がいればすぐに分かる。


『クイック』


 これで加速魔法もかけたので逃げ切れるやつはいない。この村のこそ泥ごときにおくれを取ることはあり得ないわけだ。


 しかしこの魔法、村全体を無差別に探索にかけているので燃費が非常に悪い、割と早めに身体への負担がかかる。特に頭への負担は最たるもので、情報が流れ込むのを処理するのはものすごく疲れる。


「おっと、引っかかったな……」


 村の屋敷に入ろうとする反応があった。邸宅内に家族全員の反応があるのでコイツが不審者で間違いないだろう。俺はさっさとこの面倒な事件を片付けるために、窓から金持ちの屋敷に向けて飛び出した。


 屋敷に近づいたので消音魔法を使って音を消し、間違いがないかどうか確認する。


「へへへ……商隊が来てから盗むものが増えて助かるぜ……ここは魔導書を買っていたな、ありがたく頂くぜ」


 おっと、どうやら思った以上のマヌケのようだ、誰も聞いていないと思って自白を始めた。


「ボス、周囲に人気はありやせんぜ!」


「おう、この村に俺たちを止められるやつなんているはずねえんだよ! さっさとお宝を奪って逃げるぜ」


「さすがボス! 手際がいい!」


 連中は門の鍵をカチャカチャとハリガネでいじって開けていた。門が開いたところで有罪と判断して時間停止を使った。


『ストップ』


 親分と子分はピタリと動きを止めた。俺はのんびりとロープを取りだして男達を簀巻きにして縛り上げた。収納魔法に二人を放り込んでギルドが開くまで連中はストレージの中で過ごして貰うことにした。時間停止は解除しておいた、こそ泥を快適な環境で過ごさせる気はないので精々ストレージ内で恐怖に怯えてほしいものだ。


 そして深夜だったので宿に帰り寝てしまうことにした。逃げられる心配は無いのでこんな事をしても全く問題は無い。


 ――――翌日


 ギルドをドアを開けるとロールさんが俺の方を見て声を上げた。


「クロノさん! 昨日は被害ゼロでしたよ! 何かやってくれたんでしょう?」


「ええ、こんなものを捕まえましてね」


 俺はストレージから盗賊二人組を取り出す。ガクガクとあごを鳴らして恐怖に歪んだ顔をしていた二人を見て、ちょっとやりすぎたかなと思った。


「はっ!? おい! どうなってやがる!?」


「アニキ! 助けてください! 縛られてます!」


「畜生! 何で俺達がこんな目に……」


 ロールさんが青筋を立てながら二人組に話しかける。


「余罪はたっぷりありそうですし……ぜーんぶ吐いてもらいますよ」


「姉ちゃんが俺を調べるってか? はっ! 喋るわけねえゴフゥ!」


「言葉には気をつけなさい、あなた方は犯罪者、私はそれを自由に捌けるんですよ?」


 笑いながら恐ろしいことを言うロールさん。その蹴りが一発盗賊の頭に直撃した。盗賊事件はこれにて完結……とはいかず、たっぷりと犯罪者達は追求をされなければならない。全部吐かせてからその後の処遇は知らないが、とにかくロクでもない未来が待っているであろう事は予想が付いた。盗賊なら死罪もあり得るが、それはこの町の処罰感情次第だろう。


 誰も怪我をしていないし盗難品が売り払われたという話も聞かない。処刑はされないのだろうな……俺はなんとなくそう考えてから、不規則な睡眠を取ったので眠気が今さら襲ってきた。


「ロールさん、その二人の後始末は任せますので報酬を頂けますか?」


「はい! もちろんです、しかしクロノさんは仕事が速いですねえ……その晩に捕まえるとか大変だったでしょう?」


「ええ、魔力の使いすぎで頭が痛いのでさっさと寝たいところですよ」


「では、こちらが報酬の金貨百枚です」


 そう言って袋を渡してもらい、中に金貨が入っているのを確認して、今度こそ依頼は終了となった。


 宿に帰って夕食を食べ、眠りにはいるところであのこそ泥どもが何故犯罪に手を染めたのかを考え、大した理由は無いのだろうなと納得して寝た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る