第112話「ゴーレム計画への協力」

「魔導実験の立ち会いですか?」


 俺はギルドでジェニーさんから話を聞いていた。この前のドラゴンの件で名前が知られたので指名依頼が入ってきたらしい。


「はい、町の防衛にゴーレムを使用する案が出ていまして、その起動実験に立ち会って頂けないかとのことです」


「めんどくさい……」


「報酬は……」


「この前の事でお金には余裕があるんですが?」


 そう、この前のドラゴン討伐で金には当分困らない。わざわざ厄介ごとに首を突っ込む理由は無いのだ。


「ま、まあまあ……手付金が金貨百枚ですよ? 滞りなく終われば追加で金貨百枚ですよ!」


「そこそこ美味しいですけど、その額なら優秀な人を雇えるんじゃないですか? 俺がやる必要あります?」


 俺が出るまでもない。手付金だけで金貨百枚なら受けるやつは大勢いる、指名しなくてもよりどりみどりだろう。


「この前のドラゴンの件でクロノさんでないとダメだって言われたんですよ! お願いします!」


 土下座で頼んでくるジェニーさん。ギルドに入る度に土下座をされても煩わしいので話くらい聞くか。


「それで、危険な実験なんですか?」


 ゴーレムの研究は進んでいるが俺はその道については素人だ、独自研究に口を出せといわれても困るぞ。


「いえ、九割方完成しているのですが、ドラゴンからの防衛を目標に作られたものなので戦闘試験をクロノさんにお願いしたいということです。ドラゴンは当分来なくなっちゃいましたからね……」


 そう言われると俺も耳が痛い。ドラゴンを倒したのは俺なので責任を感じないこともない。


「でも俺がやったらゴーレムが壊れる可能性もありますよ? 手間をかけて作ったものが壊れたらマズいのでは?」


 ジェニーさんはそれについて答えてくれた。


「問題ありません! 敵になるドラゴンは当面来ないですし、量産体制を整えるのも課題の一つですから壊せるなら壊してもらっても耐久試験としては合格だそうです!」


「まあ……好き放題やっていいんでしたら構いませんけど……ゴーレムとか簡単に壊れますよ?」


「普通は壊せないんですよねぇ……」


「何か言いましたか?」


「いえ、クロノさんはお強いんですねと思いまして」


 まあ引っかかることはあるが、協力しないと顰蹙を買いそうだし手付金だけはもらえるのだから構わないか。


「分かりましたよ、引き受けます。ゴーレムの安全の保証はしませんがね」


「ありがとうございます!! では準備が出来たので明日町立研究所を訪ねてくださいね」


「準備って……そんなに簡単にできるんですか?」


「ああ、クロノさんの参加だけが終わっていなかったのでたった今完了したということですね」


「見切り発車も程々にしておいた方がいいですよ?」


 俺の参加で準備が終わったということか。俺が参加しないといったらドラゴンが来るまで待ったのだろうか? ご苦労なことだ。


「では準備をしておいてくださいね?」


「ええ、町立研究所っていうとあの広い建物ですよね?」


「そうです、あそこで試運転をするそうですね。あ! そうそう、これが手付金です!」


 そう言って革袋を置くジェニーさん。結構な金額を支払えるのだからこの町は恵まれているようだ。


 それをもらってさっさと宿に帰った。ゴーレムだかなんだか知らないがよほど強くないと相手にならないと思うんだがな。念のため明日の準備をしておくか。


 錬金用のフラスコをストレージから出してっと……


 俺は対金属用の液体を合成しておいた。最悪これを使えば負けは無い。少し卑怯な気もするが負けるわけにもいかないしな。


 いくつかガラス管に金属溶解剤を詰め込んで寝た。まあこれでゴーレムくらいならなんとかなるだろ。


 翌日、町立研究所に行った。でかい建物になっているのでおそらく結構な額の税金が入っているのだろう。これに反発がないということは町の防衛に関心が集まっているということか。


「あなたがクロノさんですな?」


 髭を蓄えたじいさんが出てきた。俺を値踏みするような視線を向けてからゴーレムの素晴らしさについて語り始めた。


「今回のゴーレムは素材を鉄にしてコストを抑え、その上で魔法の付与で耐久性をつけた素晴らしい発明ですよ! クロノさんは実力があるとは聞きましたが新型には勝てないでしょうなあ!」


「ふーん……」


 客のごきげんを損ねる必要も無いので語らせておいた。話が長かったがその大半は自分たちの発明の素晴らしさを語っていたので聞き流して適当な相づちを打っておいた。こちらが全く聞いていないことを無視して語るだけ語って満足したようなので試験場に向かった。


「この扉の向こうに試作ゴーレムがありますので存分に戦ってください、なあに、ゴーレムが壊れる心配はいらんですよ」


「そうですか、ゴーレムの方の準備はいいんですか?」


「もちろん! クロノさんが来ると即座に動かせるように準備をしておりますからな!」


 俺に頼った計画はやめて欲しいのだが、さっさと終わらせて金をもらって帰りたい。


「じゃあいってきますね」


 俺はそう告げて鉄の扉を押し開けて試験場の中に入る。目についたのは球体の体に球体を繋げた手足のついた金属の塊で、それにケーブルが繋がっていた。どうやらあれがゴーレムらしい。


 全体的に丸いのは作りやすいという理由だろうか? 量産すると聞いたし、凝った作りにすると大量生産が難しいからだろう。


「ゴーレムを解放します。戦闘を開始してください」


 そんな言葉が魔力拡声器から響いた。それと共にゴーレムに繋がっていたケーブルが外される。鉄の体で俺の方へと向かってきた。


『スロウ』


 ゴーレムの動きはその一撃で亀のように遅くなる。自信満々だったが魔法耐性はまったく付与していないらしい。


 呆れながら近寄って遅いパンチをかわす。ゴーレムに金属溶解剤を投げると、ガラスが割れて液体がかかる。一つをぶつけただけでゴーレムの体が溶けた。


『勝負あり! 速やかに実験は中止!』


 そう声が響いてゴーレムは完全に動きを止めた。まだまだ動けそうだが随分早めの降参だな……


 入り口のドアが開いたのでそこを出ると青い顔をした研究者が待っていた。


「あの……一体何をやったんです?」


「ただの遅延魔法ですよ? あのゴーレムには魔法耐性をもっと付与するべきですね。あとあんな急造の金属溶解剤でダメージを負うのは作りが雑ですね。それはともかくまだあのゴーレムは戦えそうでしたよ?」


「壊されては困るので……戦闘データは取れましたし……」


「あなた方が満足したなら構いませんがね……あのゴーレムにはかなり改善の余地がありますよ」


「そうですね、いずれあなたに勝てるものを作って見せますよ!」


 その研究者はまだまだがんばるらしい。やる気があるのはいいことだ。俺に勝てるとは思えないががんばることは悪いことではない。


「成功を祈ってますよ」


 そう言って俺は研究所から出てギルドに向かった。話は通っていたらしくジェニーさんはもうすでに金貨を用意していてくれた。


「お疲れ様です。やっぱりゴーレムは負けたようですね」


「ええ、ハッキリ言って弱かったですよ」


「ウチから一番実力のある人間を出せ、それ以上であることを証明してやるってこの依頼をしてきたんですがね、ギルドとしてもメンツがありますのでクロノさんに頼んだわけですが……上手くいったようですね」


「指名依頼じゃなかったんですね……」


「ギルドにも威厳というものがありますから」


 したたかな人だ。


「研究所の人が少し気の毒でしたよ」


「我々を舐めるのが悪いんですよ」


 ジェニーさん、案外怒らせると怖いのかもしれない。


 そうして気の毒な研究者は研究をほぼやり直しになり、ギルドの実力は示されたわけだ。この町のギルドの地位も見直されるだろう。


 俺は敢えて俺が抜けたあとのこのギルドについては考えないようにした。

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