第111話「装備を新調しよう」

「あ゛~~……暇だ……」


 この前のドラゴンで金が入って数日、俺は怠惰極まる生活をしていた。金に困っていないし退屈な依頼しかギルドには出ておらず、わざわざ受ける気が起きなかった。


「杖でも買うか……」


 この前買ってからどのくらいになっただろう、この町はそこそこの大きさなのでまともな杖が手に入りそうだ。


 宿を出て冒険者向けの装備を売っているところに向かう。幸いこの町には他所から来る人も多いのでそういったものはたくさん売っているようだ。


 驚いたのは露店で武器や防具が売っていたことだ。傍目に見ても品質がいいとは思えないものが並んでいるが、目を引くのは価格でブロードソードが銀貨数枚で売っている。その値段の装備に命を預けるのは怖いものがあるが、使い捨て感覚ならありかもしれない。


 懐が暖かいのでそこそこの値段のものを買えるし、少し高級店に行こうか。


 しかし、全体的に高そうな店が並んでいてどこにいいものが売っているのか分からない。端から見ていくとするか……


 始めに入った店ではきらびやかな装備が並んでいた。これだけ高級ならさぞや強力な装備だろうと思って各商品を眺めてみる。


『貴重なシルクを豊富に使用した……』


『アクセントのルビーが……』


 うん、これは装飾品だな。どれも防御力を考えるとほとんど役に立たない。俺からすれば攻撃を受けなければ問題無いのは確かなのだが、そんな運用をする理由も無いのでこの店で買うものは無いな。


 店を出て次の装備店に入った。ここもきらびやかなロッドやブレード、弓矢等まで売っている。それなりの商品だが、ここもやはり装飾性が高く、見た目重視の実用性無視商品ばかりだった。しかしロッドにはきちんと魔石が埋め込まれており、必要最低限度の実用性はあるようだ。それをよく見ると魔石はきらびやかだが、肝心の魔力の増幅機能がそれほど高くないようで実用性には欠けているようだ。


「この町ロクな装備が無いな……」


 気づけばそう愚痴っていた。とにかく実用性が無い。軒並み見た目に振った品といった印象だ。さっきから数店舗回ったが『今一番お洒落な品』とか『優美な戦闘をあなたに』とかの防御性や攻撃力について一切言及していないお遊び冒険者向けのおもちゃばかりで、褒められるところが無い。金持ちの道楽感が拭えないものばかりだ。


 最後の一店舗に入ったところで驚いた。箱に挿してある一本金貨一枚の杖に俺の目は釘付けになった。その杖は見た目こそただの木の棒なのだが、魔力を整流する刻印が彫り込んであり、驚くのは先端に埋め込まれた魔石だ。かなりの魔力が詰まっており、増幅力の強い高性能品だ。それが一本金貨一枚という値段で投げ売りされている。


 売り方からしていかにも価値を認めていないような扱いだ。そっとそれを引っこ抜いて俺は店主に買い取りたい旨を告げた。


「お客さん、もっと良いロッドはいくらでもありますぜ? もちろんそれもウチの立派な商品ですがね」


 この店主は杖の価値が分かっていないようだ。目利きがなっていないというか、価値観が違うのだろう。この町では豪奢な見た目をしていれば高額で売れ、見た目が質素ならば存在する価値もないのだろう。


「これで十分ですよ」


 俺は平静を装ってそう言う。


「ま、お客さんがいいならいいですがね……まいどあり」


 金貨一枚でこれを手放すなど愚行の極みだが、今回はそれに助けられた。いざというときに売ってもいいし、戦闘で魔力を流せばかなりの効果が見込める。思わぬ掘り出し物に俺は喜びを必死に隠して店を出た。


 思わぬ拾いものに感謝をしながら宿屋に帰ってその杖を見た。よく見ると杖にはマークが彫り込んであり、その筋では有名な武具屋の刻印だった。店主はこれを見逃したのか、あるいはこれがこの町では価値がないのか、とにかく思わぬ授かり物を得ることが出来た。


 しかし先端についている魔石は見たことの無いサイズのレア物だ。これだけ切り離しても金貨十枚くらいの値は付くだろう。原石から魔力を滞りなく流すように研磨加工がされている。


 そのロッドをストレージに入れていざというときの切り札として使おうと決めた。先のドラゴン程度であればロッドを使うまでも無かったが、時々出てくる上位の竜種では時間干渉魔法が通じにくいこともあるのでそういったときには役に立ちそうだ。


 俺はふと思い立って再び防具屋に向かった。目立つところに陳列されている高級装備は無視して一山いくらの箱にまとめて放り込んである商品を一つずつ検査してみた。


 破壊耐性の付与されたガントレットがその店には置いてあった。見た目は黒い無骨なものだが、魔力でガチガチに固められており、かなりの硬度を誇っているように見える。


 店主にこれは幾らかと聞くとやる気も無い答えが返ってきた。


「ああ……銀貨五枚でいいよ」


 マジかよ……高級品が銀貨五枚……破格にもほどがある。ありがたくそれを買い取って、俺はこの町には掘り出し物がたくさん眠っているのかもしれないと気づくことが出来た。


 武器と防具という貴重な装備を格安で揃えられたことに満足してその日は気持ちよく宿で酒を飲んだ。その時に宿の主人が『お客さん、貧乏くさい装備を集めているが代金は払えるんだろうね? 信用していないわけではないが……』と訝しんできたので、俺は『全く問題無い』と答えて高級料理を頼みチップも支払っておいた。主人も金払いはいいようだと判断して丁寧な接客をしてくれた。


 どこの町にも思わぬ幸運がころがっている。それを俺は思い知ったのだった。

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