第103話「カジノで遊んだ」
俺は観光地らしいところに行こうと町をさまよったところでカジノを発見した。何故目立っていなかったかと言えば入り口に『観光客のみ入場可、町民立ち入り禁止』と貼り出されていたので町民は近寄っていかないため人がそれほど集まっていなかったのだ。
しかしカジノとは……これほど俺にとって有利な稼ぎ口はないだろう。無限に試行可能な俺のスキルと相性がよすぎる。
俺は入場金の金貨十枚を支払って中に入った。目に付いたのはルーレットとカードだ。様々なルールでカードがプレイされており、オーソドックスなルーレットがその近くで観客を集めているところだった。
俺はまずチップを購入した。時間遡行に不確定要素が入らないことを確認するために銀貨十枚を安いチップと交換してルーレットに向かう。一枚を赤に賭けてルーレットが始まる。
カラン……ことり
ボールは黒に入り俺のかけたチップが回収される。
『リバース』
久しぶりに広域で時間遡行を使う。ルーレットからボールが離れディーラーの手に戻った。誰も先ほどの結果を記憶していない、ここで俺は黒に賭けた。先ほどの結果がそのまま同じように再現されるならこれで間違いはないはずだ。
「皆さん、ベットは終わりましたか?」
ディーラーはそう言ってからルーレットを回す。投入されたボールはクルクル回ってマスに落ちた。結果は赤。再び俺のチップは回収される。
これで一つ分かった。時間を戻せばチップを減らすことはないが、確定で当たるというものでもないらしい。
俺はチップ十枚で百回ほど時間を戻して繰り返し試行した結果、何らかの要因で運というものに干渉しているものがあるということになった。もちろん時間遡行をした後でもう一度賭ければうまいこと当たる可能性ももちろんあるということも分かった。
結局チップは全て実験に使ったのだがどうやらルーレットには不確定要素が多いことが分かった。
そこで俺はカードの方で稼ぐことにした。こちらは何を引くか確定しているので時間を戻しても引くカードが変わることはない。必勝法に近いものだ。
金貨を十枚最高額のチップに変えてカードのコーナーに向かう。目的はアップオアダウン。始めに引かれたカードから次のカードの数字が大きいか小さいかをあてる単純なギャンブルだ。これなら時間遡行で確実に設けることができる。
俺は一枚のチップをベットするとディーラーは一枚のカードを引いた。数字は十九、デッキには五十枚まで入っているのでアップを狙うのが定石だ。それに倣って俺はアップの方に賭けた。それから引かれたカードは三十、無事チップが二枚に増えた。外れたときはチップは全て回収され、最低でも三回はゲームに挑戦しないとならないルールだ。言うまでもなく運営側が有利なゲームとなっている。
次もアップに賭けたのだが、出てきたカードは十、そこで俺は時間を戻す。
『リバース』
全てが逆に回っていき、俺は今度はダウンに賭けた。やはりこちらのカードゲームには純然たる運要素はほぼ無い。当然次も十が出てきて俺はチップを四枚に増やした。
しばらくの間俺は順調だった。アップオアダウンを繰り返し、何度も時間遡行を行い、チップはあっという間に二十枚を超え、五十枚に迫ろうとしていた。
もう一度挑戦しようとしたところでカジノの支配人が出てきて俺に声をかけてきた。
「お客様、申し訳ないがこれ以上はそのゲームを受けられません」
「なんでですか? 俺は一切イカサマなんてしていませんよ?」
そう、微塵も痕跡は残っていない。そうである以上俺が邪魔をされるいわれは無いはずなのだ。
「お客様が不正行為をしていないのはずっと見ており分かっております。ただ……」
言いにくそうにしている支配人は俺を隅の方に手を引き連れていって言った。
「お客様と同じ賭け方をする人が集まっているんですよ……あなたが神に選ばれたのか運命を司っているのかは知りませんが皆さんが同じ賭け方をして勝たれてしまうと我々の運営がなりたたんのです。お客様には申し訳ないですが、どうかご理解を。その代わり現在のチップは一割増しで換金させて頂きます。どうかそれでご容赦を」
見ると俺の見える範囲でほとんどの人が俺と同じ側に賭けていた。これではカジノが成り立たなくなってしまう。
悪銭身につかずと言ったところだろうか、俺は金貨三百三十枚を稼いだかわりにカジノからは追い出されてしまった。美味しい話はそうそう無いものだ、これだけ稼げただけでも上等だろう。俺は美味しい食事をして宿で心ゆくまで酒を浴びた。その日の酒は大層美味しかったことを理解して欲しい。
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