第102話「エリクサーを卸した」
セレーネ町のギルドに顔を出すとジェニーさんがニコニコしながら出迎えてくれた。
「クロノさん、ごきげんよう」
「おはようございます、ジェニーさん」
クエストボードに目をやるが多くない紙が貼られており、眺めてみても不可能に近い依頼か、報酬の安いものしかなかった。その中の一枚に目が付いた。
『エリクサー買い取ります! 余らせている方は是非お売りください!』
「エリクサーって売れるんですか?」
「はい、お金を持っている方が風邪をひいたときとかに需要があるので商会が買い取っているんですよ。その関係でギルドにも貼られています。クロノさんがご覧になったのは依頼票ではなく商会の広告ですね」
ああ、これは広告だったのか。エリクサーなら余っているが、あまり品質がよくないんだよな……
薬草もストレージに大量に入っているので、さらに作ることも簡単だ。しかしこの町での商いはあまり気が進まない。通貨が外部に持ち出されるのを嫌っていそうな町で旅人が商売をするといい顔をされないだろう。
「クロノさん? その広告がそんなに気になるんですか?」
「ええまあ、エリクサーなら持っているので」
「ホントですか!? ギルドで買い取りますよ!」
え? 商会に売るんじゃないの?
「商会の方に売るのでは?」
「ギルドが買い取ってそれを流す感じですねー、多少安くなってしまいますがそれを条件にギルドにそれが貼られているわけです」
どうやらこの町から出て行く金を減らすためにギルドを介するようだ。販売に仲介人が多いほど安く買われ、マージンを載せて売られていく。一旦ギルドで買えばギルドから売るということでギルドも潤うのだろう。
「では買い取りをお願いしましょうか」
ジェニーさんはにっこりと笑って俺を奥の部屋に招いた。
「では検品しますね!」
そうしてギルドに複数ある部屋の中で、納品物の検査用の部屋に行き俺はストレージから数本のエリクサーを出した。
「ふむ……」
ジェニーさんは瓶を開けて匂いを嗅いだり、一滴を検査用具に落として判定をしたりしている。しばらくして驚いた顔のジェニーさんが俺に言った。
「すごいですね! ハイクラスな品がありますよ! これを全部買査定に出していいんですか?」
「ええ、売れるものは売っておきます」
俺のストレージから出てきた品を順に調べて値をつけていく。上位クラスの品も粗悪品もまとめてエリクサーとして放り込んでいたので、ジェニーさんが顔をしかめるようなものから、テンションを上げて楽しそうに査定をしていくものまである。一通りのものが検査されて俺に査定結果を見せてくれた。
「全部で金貨百五枚ですね」
「かなり中途半端な金額ですね……」
「これが一番高くて金貨百枚、残りはハッキリ言って有象無象で全部まとめて金貨五枚ですね。ハイクラスの品だけ売っておくことをオススメします。下級エリクサーは自分で持っておいた方がいいと思いますよ」
ハッキリものを言うジェニーさん。しかしあれはたまたまできた高品質品だがそこまで値が付くとは……
「いいんですか? 百枚ってギルドの一職員が決められる金額ではないような気がするんですが……」
「ここは職員一人が一取り引き金貨五百枚から上にお伺いを立てる決まりになってますからね。百枚くらい普通に買い取れますよ」
ところ変わればと言うやつだろうか? 一人の裁量がかなり大きいようだ。もちろん破格の値段なので答えは決まっている。
「では高品質のやつを一本だけ納品します」
「はい、ではこちらにサインをお願いします」
俺は買い取り用紙にサインをして金貨を受け取った。しかしかなりの高額なので大丈夫かなと思った。
「金貨を百枚も払って、ちゃんと利益が出るんですか? 確かにあれはハイクラス品ですけど他じゃあ金貨十枚くらいで買いたたかれることもある程ですよ?」
ジェニーさんは胸を張って言った。
「セレーネ町を舐めないで欲しいですね! この町の財政は極めて良好ですからこのくらい余裕で支払えますし、何より……」
「なんですか?」
「この品なら商業ギルドは金貨三百枚くらいの値段をつけますよ? ギルドからすれば美味しい商品ですよ」
経済格差も町や村のあいだでここまであるのか……裕福な町というのは随分と贅沢に金を使えるようだ。
ずしりと重い金貨の入った袋をストレージに入れてギルドを出た。俺はその辺の店で葡萄酒とステーキを注文して満足いくまで食べた。金貨一枚とそこそこの食事だったがまだまだ余裕はあるし、商材もあるので心の余裕が俺を満たしていた。
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