第101話「酒を飲む(観光地価格)」

 俺は翌日目が覚めると、宿の前で地酒の試飲会をやっているのに気がついた。宿を出るときに見送りまであるところが高級であるところの証拠だろう。


 宿の前でやっている試飲会では葡萄酒からエールまで様々なものが並んでいる。


「旅人さん! 一杯いかがですか?」


「では一杯もらいます、オススメは?」


「どういったものがお好みですか?」


「辛口のやつをお願いします」


「ではこちらをどうぞ」


 そう言って小さな杯一杯の透明な酒をさしだしてきた。俺はそれを受け取って舐めてみた。ピリッと舌に刺激が走り喉が熱を帯びる。熱がひいてくると酒を渡してくれた女の人が水を差しだしてくれた。それを飲むと口から鼻へ果実のような香りや、ハーブの香りが抜けていった。


「いかがでしたか、特製蒸留酒です!」


「いいですね、一瓶いただけますか?」


「はい! お買い上げありがとうございます!」


 そうして透明な瓶を一本もらい、金貨二枚をさしだした。俺は一瓶の酒を買ったのでストレージに放り込んでおいた。


「収納魔法を使えるんですね、すごいです!」


「ええまあ、このくらいは入りますね」


「でしたらもう少しお買いになりませんか? 収納魔法でしまっておけばかさばりませんよ?」


「そうですね! では飲みやすいものも一本頂きます」


「お買い上げありがとうございます!」


 ん? 気がつくと酒の量が二倍より多くなっているぞ? 一瓶だけ買う予定だったんだが……なぜ?


 ここに居るといくらでも買わされそうなので離れよう。


 俺は食べ物を買いにバザーへ向かった。比較的安いもので揃えたいところだ。思わぬ高額を酒に使ってしまったので肴の方は節約をしなくては……


 町の露店にはソーセージを焼いたものや、魚を揚げたもの、野菜を真っ黒になるまで出汁で煮込んだものなどお酒に合いそうなものが大量に並んでいる。


 俺は目に付いた美味しそうなものを片っ端から買って時間停止と収納魔法を使ってできたてのままストレージに放り込んだ。


 美味しそうなものが多すぎる! さすが観光で成り立っている町だ。町民がどういう生活をしているかあまり見せないので分からないところも観光客への配慮だろう。しかし俺が収納魔法を使えるとバレると次から次へと買わせようとしてくる人ばかりで戸惑う。しかもそれが見た感じ悪いものと直感で分かるものが少ないのでどれを買っていいか分からない。


 すこししてから買うべきものとの判断がなんとなく付いてきたがそれまでに大量の食品を買ってしまったので、その頃には宿に帰っていた。


 ストレージから酒を取り出す。まずは体に優しい薄めの酒を出す事にした、エールあたりがいいだろう。


 取りだした瓶から部屋に備え付けのグラスに注ぐ。その時に気づいたのだがこの宿は備品が非常に充実していた。グラスなんて盗難の危険があるのでたいていの宿では置いていない、精々木のカップくらいは置いてあれば御の字だというのにここでは透明なグラスだ。


 経済観の差を見せつけられるが景気のいい話だと思う。肴に魚のフライをストレージから出して串に刺さったそれをかじりエールをあおる。油と酒が身体に入り幸福感が出てきた。酒も揚げ物も美味しいというのに組み合わせたら美味しくないはずがない。


 次に肉の串焼きを出して初めに買った酒を飲むことにした。部屋を調べるとわざわざ食器一式が備品として揃っていたのでそれを使うことにして盛り付けた。酒の方は水で薄めるか悩んだところで、試しに一口舐めてみると意外と飲めると感じたのでストレートで飲むことにした。


 肉と酒を交互に口に含むと本当に酒が水のように飲めてしまい一瓶の三分の一ほどを飲んだところで目の前の景色がぼやけ、俺はベッドにいないはずなのに眠くなり倒れてしまった。


 翌日になって目が覚めると酒瓶の中身はかなり減っており、漂う酒の匂いから、明らかに飲んではいけない量を飲んでしまったようだ。


 俺はベッドに入り込んで一日中水を飲んでは寝るというループを繰り返していくことになる。酒は程々にと思い知ってストレージの奥の方に酒を押し込んで意識しないと取り出せないように一時封印をして寝転んだ。

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