セレーネ町編
第100話「セレーネ町の観光」
俺は次の目的地『セレーネ町』へたどり着いた。ここは定住者には厳しいものの観光客には優しいので旅人にもやさしく当たってくれる。そこそこ金も貯まったことだしこの町はほとんどを観光で過ごすことに決めた。しかし冒険者もやっているのでギルドに顔を出さないというのも問題か……
ギルドに行けば身分をハッキリさせてくれるのでその点だけでも行っておく価値はある。移住者でないと証明してもらうのも大切だ。
ギルドの場所はすぐ分かった、この町で観光資源らしきもののない隅の方に追いやられていたからだ。さすがは観光でなり立っているだけあって泥臭い仕事を押しつけるような機関は目に付かないようなところにあるらしい。
町の郊外に建っているレンガ造りの建物にたどり着くとドアを開けたのだが、内部は割と閑散としていた。クエストボードに目をやると依頼はそれほど多く貼られていない。
「いらっしゃいませ! 新人さんですか?」
受付の人が俺に挨拶をするので俺も挨拶を返す。
「はい、旅人のクロノといいます」
「私はここの受付をしているジェニーと申します。お見知りおきを」
「早速なんですけれどこの町では依頼が少ないんですか? あまり貼り出されていませんが……」
「そうですねえ……やはり皆さんお抱えの人材をお持ちですし、ギルドに回す依頼というのは少ないんですよねえ……」
おっとりとそう答えるジェニーさん。この町はそこそこ経済的に潤っているとは聞いたがギルドに頼ることがほぼ無いほど少ないとは……
「この町には観光メインで来たので構わないんですけどね、ギルドとしてはお仕事が少なくて大変そうですね?」
「いえ、むしろ楽ですね。観光で頂いたお金を回してくれていますし、この町も結構良いものですよ? 観光するなら尚更ね」
なるほど、普通に生きていく分には仕事の量は関係ないのか。確かにそんな町に移住者が大量に来たら大変だ。
「クロノさんは観光できたんですね? ではこのギルドにあまり用は無いかもしれませんが、緊急時に呼び出しに応じて頂く必要はありますが構いませんか?」
「ええ、構いませんよ。そんなことそうそう無いでしょう?」
「そうですね、今まで実際ギルドに要請が来たことは無いですね」
「じゃあそのシステム必要なんですかね……?」
「ギルドの立場というものもありますからね……知ってますか? この町で一番権力があるのは観光協会なんですよ」
ああ、観光地ならそういうこともあるのかな。郷に入っては郷に従えとは言うが、ギルドが権力をろくに持っていない地域というのも珍しいな。平和な地域でも薬草採取とかを請け負っているから多少の発言権はあるものだが、ここではとことん用が無いらしい。
「平和なんですね」
ジェニーさんは笑って答える。
「それが一番だと思いますけどね」
「それもそうですね」
「ああ、それと……」
「なんですか?」
「これを持っておいてくださいね」
そう言って一枚のカードを差し出された。受け取ってよく見ると『観光バス(ギルド発行)』と書かれていた。
「こんなものまで要るんですか……」
理由は想像がつくが……
「不法移民の方が隙あらば入ってきますからね、身分保障がない人にはこの町は厳しいですよ」
なんとも世知辛いことだ。経済的に豊かな町への移民は多い、しかし全員受け入れたら破綻するのは明らかだ。きっとこれもしょうがない措置なのだろう。
「身分証の提示を求められたらそれを出してくださいね」
「分かりました。オススメの観光ポイントってありますか?」
「そうですねえ……やはりご自分で見て回った方が楽しいと思いますよ」
「ははは……それもそうですね、ありがとうございます。あ、そういえば宿屋は……いえ、自分で探します」
「はい、どうぞこの町を楽しんでくださいね!」
そう言ってジェニーさんは笑顔で送り出してくれた。身分証も持ったし、観光を楽しむとするか。
大通りを通りながら露天を眺める。肉の串焼きや飴細工、魔力を使った玩具など、他の町ではお祭りの時くらいしか出ないような露店が当たり前のように出ている。どうやら毎日がお祭り状態らしい。観光客を楽しませるならそれが正解なのだろう。
とりあえず久しぶりに肉の串焼きを一本買って食べながら町を見て歩いた。コインを投げ込むと願いの叶う泉や、町の歴史館、劇場など観光客からお金を落としてもらおうという強い意志を感じる町並みだった。今まで稼いだ金額からして余裕で払えるが、一生滞在できるほどの金は無いなと感じた。
宿を決めるために俺は宿屋街を見て、どの宿もどうせ高いのだろうと思い、一番高級そうな宿に泊まることに決めた。
入るなり従業員が腰を九十度に曲げて出迎えてくれた。ちょっとビビりながらも『ソワレ』という宿に一泊金貨一枚で宿泊をすることに決めた。
部屋に通されると農村の一軒家のごとく広い部屋に一通りの家具が設置されていた。宿に入る度ストレージから生活用品を引っ張り出していた俺からすると少し衝撃だった。どうやら宿賃だけでしっかり生活ができるらしい。
俺は金を払っているかぎり丁重な扱いをしてくれるこの町にしばし滞在することを決めベッドに身を投げ出した。
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