第82話「さすがに目立ってしまった」
「おお! ワイバーンを一人で倒したヤツだ!」
「バカ! やつなんて言ったら失礼だろ!」
「そうだぞ! たった一人で倒したんだから俺たちなんて軽く倒せるだろ!」
俺はその声を聞きながら受付に向かった。
「グラーニャさん……秘密って言いましたよねえ?」
ひっと怖じ気づきながら俺に当たり障りのない回答をする。
「ギルドでも報酬を誰に払ったかは内部で知られてしまうので、やはりどこからかは漏れてしまいまして……」
くっ……情報を秘匿するだけのことがここまで難しいとは……
「俺なんて大したことありませんよ! もっと強い人がたくさんいますって! 大体ワイバーンだって俺の力ではなく爆薬を発明した人のおかげですし……」
「ホントかよ……」
「分からないぜ……実は魔力がすごいとかよくあるし」
「あの人、実力についての噂をなにも聞かないのよね、弱いなら弱いで知られているはずなのに……」
「隠してるんだろ。そっとしておいてやれ」
周囲から好奇の視線が大量に降り注いだので俺はギルドを出て酒場に直行した。やってられるかっての……なんだよ皆して……俺が何をしたっていうんだよ……
「マスター、強いやつを出してくれ」
「出すには出せるが……真っ昼間から飲むようなものじゃないぞ?」
「いいんだ……もういい、この町で平凡な生活なんて不可能なんだ……俺は底辺の暮らしをしてやる!」
「何があったか知らんが、悩みはあるようだな」
マスターも分かってくれたようで一杯の酒をさしだしてきた。
「火酒だ。元々割って飲むものだが……あんたはストレートを欲しがっているようだな。飲むといい」
「感謝する」
出された酒を飲むと喉の奥が刺激で熱くなり燃えるような刺激が腹の方へ落ちていった。ああ……心地よい刺激だ。蒸留酒特有の酒の香りが強く、体を弛緩させていく。
「その辺にしときな。あんたは酒飲みに向いてないよ」
「なんですか? 俺が酒飲みにすらなれないと言うんですか!」
自分でも悪酔いしているのは分かる。しかし感情がぐだぐだになってしまっており、俺の心と考えていること、それと行動がまったく同調してくれない。
「だいたい……ギルドが悪いんですよ……なんであんなに人の気持ちを考えないんだよ……」
「ほら、水だ。もうそれ以外はあんたに出さない。さっさと宿に帰って寝てしまえ。時間が経てば大抵のことは許せるものだ」
「うぃー……ひっ……」
水を飲むと頭が冷えてしまい、この醜態がバレてしまうことが怖くなり宿へ帰ることにした。せっかく酔っていたのに考えが悪い方向に向かっていた。
宿に帰ると主人も俺の酔い加減を理解したようで、黙って水を出してくれた。水をどんどん飲むと今度は本日のギルドのことがはっきり思い出されてきた。恥ずかしい話だがギルドも大概悪いんじゃないかと思える。
報酬についてだってギルド内だけで済ませることが出来るはずなのにわざわざ流出させたのかと考えると、嫌がらせなのではないかと思える。詮索好きがいるのは世の常だが、あまりにも流出スピードが速い。ワイバーン倒したのは昨日だぞ!
はぁ……考えてもしょうがない。言われたとおり寝てしまおう。考えてばかりいるとロクなことが出てこない。酒も飲んだし、もう寝るくらいのことしか出来ない。
部屋に戻るとその場に倒れ込んだ。ベッドまでたどり着く気力すらわかなかった。意識が落ちる中でこのやりようのない気持ちをその場にぶちまけた。
――翌日
自分がぶちまけた
ギルドに嫌々ながら向かった。いずれは顔を出す必要があるところだしな。
「申し訳ありませんでした! クロノさんには深いお詫びを……」
「いや、いいですよ。正直もう手遅れ感が強いですし……俺が大したことないって言うのはその内皆分かるんじゃないですかね」
グラーニャさんに文句をつけてもしょうがない、これはギルドの構造的にどうしようもないことなのだろう。正直言ってどうしようもないし、幸い噂程度にしか流れていないので静かにしていれば噂も流れていくだろう。ここはしばらく簡易な依頼を受けてやり過ごそう。
「ところで最近町の近辺にグリフォンが出没しているという噂が……」
「嫌です!」
俺は断言した。なお数日後、グリフォンは実際に見つかったのだが、老衰していた個体であり見つかったころには永遠の眠りについていた。
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