第81話「ワイバーン討伐依頼」

「近所にワイバーンが出たんですか?」


 俺はクエストボードに大きく貼られた紙を見ながらグラーニャさんに聞いた。


「ええ、困っているんですよ! 町の蝗害に巣を作ろうとしていまして、駆除したいんですが亜竜種くらいで国軍は動かせないと言われました」


 一応ドラゴンの亜種なんだから国も責任を持って討伐してほしいものだな。税金をいくら吸い上げていると思っているんだ。


「正直あまりやりたくない依頼ですね……」


「危ないのは分かります! そこを何とか!」


 グラーニャさんが必死に頼み込むのを見てなんだか断るのが悪いような気がしてきた。しかし目立つよなあ……


「分かりましたよ……その代わり条件があります」


「なんでしょう? 大抵のことなら出来ますよ!」


「討伐は一人でやるので決して誰も近づけないでください」


「え……大人数で討伐するものだと思っていたんですが」


「俺は一人で大丈夫なので、戦闘の様子を見られたくないんですよ、ダメなら受けません」


 グラーニャさんは首をブンブン振って同意してくれた。


「人払いは任せてください! ギルドから通達を出しておきます! もっとも、ワイバーンに近づこうなんて物好きはほぼいませんが……」


 それもそうか、わざわざ危険な場所に近寄ろうなんてやつもいないだろう。


「ワイバーンが出たのはどこですか?」


「町の近くの丘ですね。町を出てすぐです。だから討伐を頼んだんですけどねぇ……」


「分かりました、じゃあ明日討伐してきます」


「いいんですか? 頼んでおいてなんですがそんなに軽いノリで受けられると不安なんですが……」


「俺の安寧な生活を脅かされてはたまりませんからね」


「たぶんクロノさんには平凡や安寧は似合わないと思いますよ」


 その言葉を聞きながらギルドを後にした。翌日のために宿に帰り、俺は錬金を始めた。あまり一般的では無い方法、爆薬の制作だ。何かの役に立つか多くの人は理解してくれなかった。なにしろ爆発させるだけなら魔法を使えばいい。そっち方面の魔法を使える人間は珍しくない。貴重な素材を使って爆薬を作る必要があるのは俺のようなソロ冒険者のみだ。


 調合は比較的簡単だが、爆薬を持ち歩く危険性を考えると魔法で爆発させた方がいいという意見にも一理あるのだが、魔力を持たない人間にはそれが無理な話である。


 そして多めの爆薬を作成して、誤爆の無いように『ストップ』をかけておいた。これで火の中に放り込もうと一切火が出ない安全なものの完成だ。


 爆薬をストレージに入れてベッドに寝転んだ。ストレージに入れた時点で衝撃で爆発するようなことはないのだが、まあその辺は気分の問題だ。微睡まどろみながら翌日哀れにも討伐されるワイバーンの事を気の毒に思いながらも、これが人と人以外の差なのだと受け入れた。


 翌日、目が覚めると面倒な仕事を受けてしまったなと昨日のことを後悔していた。とはいえ、今更どうしようもないのでワイバーンとは戦う以外の方法が残されていなかった。


 朝から気分がよくないが、生き物を殺すのに気分がいい奴はいないだろう。感傷的といっても良いかも知れないが、人間を襲ったでもないワイバーンを倒すことに正義があるのだろうか?


 いや、考えるのはやめておこう。きっと人間ではないというだけで倒すには十分な理由なのだろう。嫌なことは早すくませてしまおう。


 町を出てすぐの丘にそれは巨体をのっそりと横たえていた。朝早い時間はまだ気温が低いので竜種を倒すにはタイミングがよい。


 まあ『ストップ』で動きを止めるから時間帯など関係ないのではあるが……早朝なら人が少ないだろうという大きな理由がある。むしろそちらがメインだ。


 そこそこ近寄ってから……


『ストップ』


 ワイバーンは永久に目覚めないことが確定した瞬間だった。俺は丘に登っていき、ワイバーンの足元にたどり着く。


 着々と爆薬を置いていき、手持ちの全てを置いたところで離れた場所からそれを解放した。


『リリース』


 爆轟がかなり離れていたはずの俺の場所まで届き突風が俺を撫でて過ぎ去って、同時に地面が揺れる。それが過ぎ去り爆発が起こった場所にはもはやなにも残っていなかった。


 今回は空間圧縮を使っていないので目立つことはないはずだ。あくまでも誰にでも作れて誰でも使える爆薬というものが優秀だっただけだ。


 丘の上部は削られており、跡形もないそこを確認してから町に戻った。町ではザワザワ先ほどの爆発に動揺していたが、ギルドにつく頃にはもう平生の状態に戻っていた。


 ギルドに入るなりグラーニャさんが俺に微笑みかけてくれた。


「さすがですね! ワイバーンが跡形もないですよ!」


「ちょ!? あんまり大声で言わないでくださいよ!」


「失礼……以来の成功は町の衛兵が確認済みですので報酬はこちらになります」


「どうも」


 結構な金額の入った革袋を渡され、俺はその日贅沢ができると嬉しくなった。ワイバーンには気の毒だが俺の生活費になってくれたのだから竜として誇っていいと思う。


 言うまでもない事だが、明くる日の朝は頭痛と出会うことを予感しつつ酒に金を変換した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る