第73話「良い杖が欲しい」

 俺は現在金を持て余している。結構な金額なのでこの村から持ち出して良いのか悩むくらいだ。せっかくなのでこの村でロッドの新調をしようかと思い立ったので武器屋へと向かう。


 これだけの金額があれば魔道士用の装備を調えることが可能だ。それはそれとして杖無しでもスキルの使用に支障は無いのだが、まあ見栄という物は案外大事な物だ。高級なロッドを持っているということはそれなりの戦力だと見なされるはずだ。そんなわけなので戦力には関係ないが見栄えの良いロッドを持っておくにはそれなりの意味がある。


 俺は武器屋にいくことに決めた。魔道士の武器と戦士の武器は別で売られていることもあるが、そこは大きいと言っても村だ、武器の種類で分離などしておらず当然ながら武器屋はロッドもソードも平等に売っている。いや、ロッドはソードより需要が少ないので幾らか少ないのが大方のところではある。


 武器屋にいくと店主のおっさんが「買い物かね? その様子だと魔道士用が欲しいようだな」と言ってきたので「はい、そうです」と答える。


 この村で売っている武器の種類は多くなかった。ブロードソードやロングソード、レイピア等の主なところは売っているもののロッドの数はとても少ない。ロッド用の魔石が不足しているのかクズ魔石を寄せ集めて固めたものをコアにした安物が並んでいる。


「なあ……お前さんもしかしてこの間山を消し飛ばさなかったか?」


「え!? その話を知ってるんですか!」


 店主は深く頷いて諦めた様子で俺に言う。


「まあ確かに俺のせいですがアレはしょうがないですよ」


「いや、まあ魔物の駆除をしてくれたのは感謝しているんだがな……ただ……」


「なんですか?」


 店主は言いにくいことを言いたい様子で俺に語りかけた。


「アンタみたいな魔道士がウチなんぞに来てくれたことには感謝するんだがな……はっきり言ってあんたほどの魔道士に役立つ武器はないと思うぞ、一番の高級品でもあんなバケモノじみた魔法を使ったら破損するぞ。というかどんな杖を使ってるんだ? 一目見てみたいものだな」


 ああ、あの時は急いでいたので見ていないと知らないな。


「あの時はロッドを使ってないんですよ。とにかく急いで魔法を使う必要があったんでね」


「嘘だろ!? あんな魔法をロッド無しで使ったら反動で体の方が壊れるぞ!?」


 そんな大層なものではないような気がする。ベースは収納魔法の応用だし、収納魔法でものをしまったり出したりするときに一々ロッドを用意して使う奴など見たことが無い。


「誰でも出来るんじゃないですかね? たぶん皆試していないだけでやってみたら出来ると思いますよ?」


 収納魔法を使えるなら空間圧縮もするだろうし、その使い手は多いのではないかと思う。そこまで出来るなら魔力をまとめてぶち込むだけであの破壊力が出るのではないかと思っている。あえて言うなら魔法を使える人でないとそれが無理という程度だろう。


「誰でもだと! そんなはずないだろう! 大規模な破壊魔法を使える魔道士は国のお抱えがほとんどなんだぞ!」


「えっ!? 宮仕えが随分と多いんですね?」


「お前さんがおかしいだけだろ……あんたが望むなら貴族のお抱えにだってなれるだろうよ」


 俺はその言葉にいやな予感がしたので店主に念を押しておく。


「あの破壊魔法を使ったのが俺だというのは秘密にしていてくださいね?」


「どうせ信じられんよ、あんな魔法を使うやつがこんな村に誰に雇われたわけでもなくたまたま居ただなんて誰が信じると言うんだよ?」


 まるで野良のドラゴンにでも出会ったような話しになっている。そんな大事になるなんて思うはずがないだろうが……


 そもそも、魔道士って誰でもできないの?


「俺のことを信じられないという顔をしているな、この杖を使ってみるといい、銅貨一枚で売ってやる、奥の試射をする権利代込みだな」


「俺のことを買いかぶりすぎですよ……まあ杖くらい買ってみましょうか」


 俺は銅貨を一枚出して杖と交換する。「使ってみろ」という店主に促され店の奥に向かう。その部屋には試し打ち用の木偶が置いてあった。


「あの勢いで使うのは勘弁してくれよ? あの人形相手に打ってみるといい」


「は、はあ……?」


 少しだけ魔力を込めて空間を圧縮する。部屋一つすら潰せない程度の小規模な魔法だ。


 ぺし……メキッ……


 木の人形は僅かに形を歪めただけで壊れるようなことはなかった。やはり大したことではないのだろう。


「見てくださいよ、所詮この程度の魔法ですよ?」


「ほう、確かに魔法は加減が出来ているようだが……杖を見てみろ」


 俺が手に持っていた杖に目をやると、コアになっている魔石を中心に木が破裂したような感じに歪み弾けていた。この杖あんまり使えないんだな……


「言っておくが杖のせいではないからな? そのウィザードロッドは一般的な魔法には耐える設計だぞ」


 嘘だろ! あんな初級魔法に耐えられないとかあり得ないぞ?


「というわけでこの店にはあんたが使うほどのロッドは無い、もっと大きな町にでも行って買うんだな」


 いくらなんでも品揃えが悪いだけだと思うのだが、店主を見るに売る気はさらさら無いようなので諦めるか……


「俺の魔法ってそんなに凄いですかね?」


「少なくともあの木偶人形を歪めたのはお前さんが初めてだよ。加減してくれたんだろうがな」


 使えるロッドが無いとは思わなかった。初級魔道士程度の装備でいいだろうと思っていたのだが……残念だがまともに使えるものはここに置いていないらしい。


「ところでアンタ、素手で魔法を使えるのか?」


「え? 普通じゃないですか? 金がないときはロッドなんて後回しですしいつもそうしていましたよ?」


「自覚が無いというのは恐ろしいものだな……あんたにはロッドより一般的な知識が必要なんじゃないか?」


「そういうものですかね?」


「ああ、そもそもアレだけの魔法を素手で打てるんだからロッドなんて要らないだろう?」


 とりつく島もないので俺は武器屋を後にした。結局ロッドは買えなかったが、俺の実力については隠しておいた方がいいとは気づかされた。

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