第69話「地酒を買った」
この村の名物を宿の近くの食堂で聞いてみた。そこそこ文化的に進んでいる村なので何かあるだろう。
「そりゃもう酒よ! この村の酒は評判がいいんだぜ!」
相席している男に聞いてみたのだが、どうやらここもご多分に漏れず地酒があるらしい。
「アンタも一杯飲んでみなよ? 美味いぞ、しかも丁度この食堂に卸してるんだよ」
「よく知ってるんですね」
「まあ俺の家が造っている酒だからな! ああ、でも本当に美味しいから心配しなくていいぜ! 贔屓目を無視してもちゃんと美味い酒だ」
酒を造っているところの人間だという点は加味するべきだろうが、酒は俺も嫌いじゃない、試しに一杯飲んでみるか。
「すいません、この『竜王』ってお酒を一杯貰えますか」
「はーい! ただいま持って行きます!」
注文を通してからどんな酒なのか気になってしまう。変わった酒は多く飲んできたがそれとは違うものなのだろうか? 出来れば斬新な酒であって欲しいとは思う。
「こちら! この村で作った『竜王』です!」
俺はこれを教えてくれた対面の若者に聞いた。
「変わった名前の酒なんだな」
「変わってるのは酒だけじゃないですよ! まあそれは飲んでのお楽しみって事で」
まあそうだな、小さめのジョッキ一杯になみなみと酒が注がれている。触ってみると常温だ、冷えている方が美味しい酒も、温めが美味しい酒もあるが、コイツは常温でいく酒なのか。
俺はジョッキを掴んでゴクリと一口飲んだ……瞬間喉が焼けるような痛みに俺は悶絶し、コップの水で口の中を洗い流す。
「何この酒……?」
俺は飲んだこともないほどキツい酒に驚愕する、蒸留酒にしたって限度があるぞ……
「まさか一気に飲むとは思わなかったので……ウチの酒はとにかく早く酔えることをコンセプトにしているんですよ」
「それにしたって上限があるだろう? 酒であること以外の情報が飲んだはずなのに何一つ分からなかったぞ」
「売り文句は『酒は全てを忘れさせる』ですからね」
この酒はあまり多くは仕入れない方がいいのかもしれない。下手にたくさん売ると治安を乱したと治安維持している連中につかまりかねない。
「すいませんね、この酒はこうやって飲むんですよ。こちらにオレンジジュースを一杯お願いします!」
そう言って注文して運ばれてきたオレンジジュースに俺の酒を僅かに注いでそれをごくごくと飲んでいた。
「このくらいのキツさなら我慢できるんですよ、そのまま飲む人なんてほとんどいません」
騙しやがったな……果汁で薄めるの前提の飲み物じゃないか。
「まあ言いたいことは分かりますよ。すいません! オレンジジュースもう一杯お願いします」
「どうぞ」
そして運ばれてきたオレンジジュースに俺は酒をジュースの十分の一くらい足した。
ゴクリ
「お!?」
ゴクゴク
「美味いじゃん!」
「そうでしょう、こうやって飲むととても美味しいんですよ。甘い酒は多くは無いですからね。これを使って自作すればいいんですよ!」
ふむ……これは確かに購入する価値が有るのかもしれない。
「販売所に案内してくれるか?」
「もちろんですよ!」
こうしてこの若者と一緒にしばし歩くと、大きめの工場の隣にある小さな販売所に案内された。
「なんだいキール、またお客さんを連れてきたのか?」
「そうです! ここの酒は飲んでもらえれば売れるんですって!」
どうやらこの青年はキールという名前で、ここの営業らしい。
「旅人さんだね? こいつは一本金貨二枚だけど買うかい?」
金貨二枚、高いな。
「大丈夫ですよ! 割って飲むものですから一瓶買えば大量の飲みやすいお酒が作れますよ!」
俺はキールの言葉を信じて購入することにした。
「一〇本くらいもらえるかな?」
「あんた……そんなに金を持ってるのか?」
店主はドン引きしているが、そのくらい買えるし、場所によってはそれ以上で売れるとの判断に基づいている。
「これ、金貨二十枚です」
「ほう……確かに本物の金貨だな……よし! 売った!」
「ありがとうございます」
もらった瓶にストップの魔法をかけストレージに収納した。
「収納魔法か……それなら確かにこの酒を運べるな」
「そういうことです!」
「まいどあり、また機会があったら買ってくれよ!」
「そうですね、これはいい酒だと思いますよ」
こうして俺は他所で売る商品を買い込むことに成功した。しかしこの酒はこの前の町では絶対に見せないようにしようとルールを決めた。
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