第68話「害虫駆除」
「グレートバッタの駆除ですか?」
「はい、この時期は発生する頃なので出来れば参加を呼びかけています」
俺がギルドに行くとノースさんは俺に害虫駆除の依頼を現在町にいる冒険者全員にお願いしていると言った。
「そんなに面倒な相手なんですか? 虫でしょう?」
「とにかく数が多いんですよ……作物の保護のために協力を呼びかけているんです」
切実な事情があるようなので俺も『いやです』の一言を言うのは心苦しい。結局報酬は討伐したバッタの重量で金貨がちゃんと支払われるということなのでその依頼を受けた。
害虫の退治ねえ……虫なんだからそのくらいは農家でなんとかして欲しい気もするが、報酬を出してまで駆除して欲しい敵なのだろう。さぞや数が多いに違いない。あるいはとても大きいとか? いや、そんなに大きなバッタがいると聞いたことは無いな。
「ここから半日かかる観測所からバッタが迫っていると報告が来たので明日か明後日には来ると思うのでよろしくお願いします」
「はい、バッタくらいなら駆除できますよ」
どこまでいっても虫に過ぎない。一匹残らず駆除してやろうじゃないか、人間の強さという物を思い知らせてやろう。
そしてその日は依頼の前金をもらい宿で飲むことにした。懐に余裕があるという事は必死にその日暮らしをしなくていいという事だ。精神的な余裕がまったく違う。そして敵は虫ときている、これはツいてるとしか思えない話だった。
虫系の魔物は基本的に小さい、魔物ですらそうなのだから純粋な虫など恐れるはずがない、いくつもくぐった修羅場からすれば楽勝だ。
その油断で俺は深酒をしてしまい、よろよろと歩きながら自室に戻り泥のように寝た。
翌朝、少しの頭痛と共に目が覚めたのだが、窓の外には誰もいなかった。朝だからかと思ったのだが少ししてギルド職員が宿屋の通りを走りながら『グレートバッタ駆除依頼を受けた人は南門に向かってください!』と叫んでいる。どうやら敵が襲ってきたようだ。
俺は一応戦闘の準備をして呑気に南門へ向かった。たかが虫にビビりすぎだろう。
そう思って門にたどり着いたのだが、肝心の虫はどこにも見えなかった。黒い雲がこちらに向かってきているようなので雨に降られる前に用が無いなら帰りたい。
俺は案内をしているギルド職員に質問した。
「バッタが来るんじゃないんですか? どれだけ大きいのか知りませんけど見えませんよ?」
「いえ、向こうの方にしっかり見えているじゃないですか!」
そう言って指さす先は暗雲が立ちこめている。よく見ると雲と言うには黒すぎる気もする……まさか……
「まさかあの雲がバッタの集団なんですか?」
蝗害というのは聞いたことがあるが、話で聞いただけなので虫が大量発生したというくらいにしか知らなかった。
「ええ、アレが紛れもなくグレートバッタの群れです」
あんなもん一匹一匹潰していったらキリが無いな……得意じゃないが炎魔法で焼き尽くすか? あの無数の雲を? 俺の魔力では無理だな。
様々な案をシミュレーションしてみる。あまり上手い方法は思いつかない。いや、待てよ……俺は空間系の魔法も使えるわけだ、収納魔法を応用すればいけるんじゃないか?
ダメで元々! 試してみるか!
周囲で数の多さにおののいている参加者に俺は叫んだ。
「今から強力な魔法を使うので下がっていてください!」
その言葉で全員が下がる。俺は前方の広大な範囲に向けて『空間を圧縮した』。
いつもはストレージの中に余裕を持たせるために使う技だが、ストレージ内でしか使用できないというわけでもないはずだ。
前方の視界が歪んでただ一点に向けて大地も空気も削り取りながら空間が収斂していく。バッタたちはそれに抗うことは出来ず一点に向けて吸いこまれ押しつぶされていく。
全力で時空魔法を使った事は無かったのであの数を倒せるか不安だったが、パンと弾けた空間には土と混じり合ったバッタの死骸がぽろぽろと落ちていた。そして『前方の山が一つ無くなっていた』ここまで強力な魔法とは思っていなかった、これは不用意に使えないな。
そこで俺へ向いている視線に気がついた。
「あ、あの……今のはクロノさんがやったんですか?」
「ええ、そうですね。思ったより大事になりましたが……」
そう気まずそうに答えたのだが、参加者達からは歓声が上がった。
「すげえ! あの数をまとめて倒した!?」
「信じられない魔力だ!」
「何だよアレ? 見たこともない魔法だったぞ!」
各人それぞれ驚いているものの、俺にはバッタの駆除に成功したという事実が重要だった。
ギルド職員さんも呆れ顔で俺を見ているが遠慮なく聞いてみた。
「依頼はこれでいいですかね?」
「へ!? は、はい! 完璧に達成です!」
どうやら駆除には成功したということになるらしい。消し飛ばしてしまった諸々については……ごめんなさい……
ギルドに報酬をもらいに行くと注目の的になっていた。何しろ地形を変えるほどの技を使ったのだからしょうがないのだが、悪目立ちしている気がしてならない。
報酬はギルマスのリカードさんが直々に俺に手渡してくれた。
「凄い人材がきたものだな、来年もお願いしたいくらいだよ!」
来年も山が消えるのはマズいだろうと思ったが空気に流され頷きながら色をつけてもらった報酬を受け取った。
そして宿に帰ってきたのだが、自分の力をあんな風に使ったことはなかったのであらゆるスキルを総動員したらどんな結果がもたらされるか想像すると背筋に冷たい汗が伝った。
そしてしばらく目立たないように採集系の依頼を受けたいなと思った。
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