ブレイズ町編

第38話「ブレイズ町にて」

「さて、町へはこちらの方向であってるよな……」


 荒れ地が続いたため目印らしい目印は無く、星と太陽で進行方向を決めていたため少し不安になっていた。幸い水は魔法で出せるし、肉は大量に買い込んだので多少の遭難で困ることは無いのだが、やはり一人きりというのは少し不安だ。


 一つの方向に向けて歩くこと二日、遠くの方に山が見えた。あそこが次に行こうと思っていた目的地であることは明らかだ。


「やっと見えた」


 どっと疲労が出てきた気がした。今まで気を張っていた分、目的地が見えると脱力感に襲われる。


「あそこにブレイズ町があるのか……」


 火山の麓に村を作って怖くはないのだろうかとは思うのだが、作ってしまったものはしょうがない。幸いなのは山を登る必要はないというところだろうか、麓に作ってくれたのは初代町長のせめてもの慈悲なのではないかと思えてくる。


 そうしてしばらく歩いていると町の入り口になっている門が見えてきた。でかでかと『ブレイズ町へようこそ』と書かれているので入場拒否とか言う悲劇に遭う心配は無いだろう。


 町へ近づくとそこには大きな石造りの建物が多いことに気がついた。植物は火山性のものばかりで、熱いところに生える植物が多めになっている。このあたりでは珍しい薬草が多めに自生しているのでこれを使って商売が出来るかも知れない。


 そんなことを考えながら町へ入ると俺はいきなり歓迎を受けた。


「お! 新しい観光客だぞ! みんな! 歓迎の準備だ!」


 そんな声が聞こえたかと思うと集団で俺を取り囲んで花束を渡してくれた。


「いやあ、旅人とは珍しいですなあ! めでたいことです」


 この町ではそんなに旅人を歓迎する風習でもあるのだろうか?


「旅人さん、是非ウチの宿に泊まっていってください」


「いやいや、ウチにお願いします!」


「ここは一番建物が立派なウチに泊まるべきでしょう」


「料理の腕ならウチが一番ですよ!」


「なんだと!」


「なんですか!」


 俺がどこに泊まるかで議論になってしまったが、肝心の本人の意向が尊重されていないことに疑問を挟む人は誰一人いなかった。


「お前達! 旅人さんに失礼じゃろう! すまんの、若い者達が失礼したようじゃ」


 老人が前に進み出てきて俺に頭を下げた。状況的にこの人が町長だろうか? 皆この人には頭が上がらないようで議論が沈静化しているところを見るに偉い人には間違いなさそうだ。


「とりあえずワシの家でもてなしますじゃ、ついて来てくだされ」


 そう言われ老人の後をついていく。町ではどこかピリピリとした空気が漂っているがそんなことは町長からすればどうでもいいことのようだった。


 そしてたどり着いた町長の家は自信満々に言うだけあって立派なものだった。応接室に俺を入れると葡萄酒を持ってきて二人分のグラスに注いで一杯どうぞと俺に勧めた。


「すまんの、若い連中が」


「いえ、歓迎されただけなので別に構わないのですが、なんでこんなに歓迎されてるんですか?」


 町長は少し考えてから答えてくれた。


「一言で言えば金のためですな」


「金……ですか? 今までもがめつい人はみたことがありますが旅人一人にそこまでせびる人は見たことがないですよ?」


「それについては現状のこの山の状況を説明する必要があるでしょうな」


 その時カタカタとグラスが揺れた、僅かな地震の後町長は一息ついてから現状について語り出した。


「この地震ですがな……増えとるんですじゃ、明確に、人の感覚で理解できるほどはっきりと増えとるんですじゃな」


 俺は嫌な予感がした。火山で地震、しかも最近になって増えている、その答えは……


「頭のいい連中は噴火が近いと言っておる。今までも何度かあったことなんですがな……噴火すると財産がマグマの中に沈んでしまう。それで持ち運べる金貨のようなものを集めておるんじゃが……もちろんそんなものが無限にわいて出るはずもないじゃろう、じゃから旅人さんに求めておるんじゃよ」


「しかし、噴火をしたら町が危険でそれどころではないのでは?」


「ふぉふぉふぉ……我々も歴史に学んでおるんですよ。噴火後の処理まできちんと昔から伝達されておるんですじゃ。例えばこの町の建物が石造りなのも木造だと燃え尽きた後が面倒じゃという理由じゃったりな」


 なるほど、石造りの方が金がかかるが燃え尽きたときの危険性まで考慮しているのか。


「しかしまあ、復興には金がかかるというわけでの、皆金の匂いに敏感になっておる。あまりいいことではないんですがのう……」


 そう言って町長は深い深いため息をついた。俺はその話を聞いてどうするべきか悩んだ。そして『困っている人がいれば助けても損はない』と思ったので町長に質問をした。


「前回の噴火はいつだったんですか?」


「そうじゃのう……ワシのじいさんのじいさんくらいが経験したと聞いたのう……それがどうかしたのか?」


「いえ、だったら『向こう百年は噴火しなければ』町の人たちも安心できますねと思いまして」


 町長の顔に驚きの色が浮かぶがすぐに絵空事だと俺に冷めた目を向ける。


「昔腕利きの魔道士を百人連れて火山に凍結魔法を放ったと記録には残っておりますな……無事噴火したそうじゃよ」


 凍結魔法では無理だろう。だが俺のスキルを使えば。


「まあちょっと見ていてください、火山をなんとかしてみようじゃないですか」


「まあ旅人さんが挑戦する分には自由ですからの……」


 期待はされていないようだが俺は表に出て火山を見上げる。そして集中して効果範囲を広げていく。このスキルなら火山くらいは全部効果範囲に含めるのは簡単だ。


 そして町と火山の境目から山全てを範囲にとらえてスキルを使う。


『リバース』


 ゴゴゴと地鳴りがしてから火山は見た目こそその姿を変えなかったものの、周囲の気温が僅かに下がったような気がした。


 後ろにいた町長が思わず俺に問いかけた。


「旅人さん、一体何をしたんじゃ?」


「火山の時間を百年ほど逆行させました。ここ百年で噴火をしていないなら向こう百年は噴火しないでしょうね」


 町長は訝しげに俺を見てから村でも大きな建物のギルドへ向かっていった。老人とは思えない走り方だったな……


 その場で待っていると町長が息を切らせながら帰ってきた。


「旅人さん、少しこの町に滞在してくれますかの、効果のほどを判定したいんですじゃ、ギルドには調査依頼を出しておいたんでのう……」


「ええ、構いませんよ」


 こうして俺はしばらくこの町に滞在することになった。ギルドの調査結果が出るまで町長の家に滞在することになった。町の人たちには俺のスキルが効かなかったときに失望させないために結果が出るまで伏せておくそうだ。


 俺は町で一番偉い人の家だけ合って結構な居心地のいい家に数日間、無料で泊まれることになったのだった。

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