カカオ村編

第31話「カカオ村に着いた」

 俺は数日間草原を歩き、ようやく新しい村にたどり着いた。アルト村に来る人が少ないと嘆いていたがこれだけ距離があれば交流が少なくなるのもむべなるかなと思う。


 村の入り口に『カカオ村』と書かれていたのでそれがこの村の名前だろう。アルト村ほど寂れてはいないが繁盛しているとも言いがたい微妙な村だった。


 とりあえず宿を取るか。ギルドに納品したいものはあるが、時間停止してストレージに放り込んでいるので急ぐ話でもない。


 ギルドに顔を出しておこうか。いくら金があるとはいえ収入源は多い方がいいしな。


 幸いギルドは大きめの建物で看板まででている、景気がいいのだろう、結構なことだと思う。あのでかい建物に行くとするかな。


 村を歩いて気が付いたのは治安がいいという事だった。道の脇で酔っぱらっているような人や、喧嘩を始めているようなグループもいない、悪い村ではないようだし大したクエストは出ていない可能性も高いな。


 もっとも、人の心など関係ない魔物とかは駆除依頼が出ているかも知れない。まあこの村に来るまでに大した魔物に会わなかったので報酬は安いだろうな。


 いくつか露店もでていて、中には無人販売所まである。それが成立する程度には平和らしい。


 なんにせよ悪くない。この村でしばらく時間を消費できそうだ。


 村で目立つ建物の前で耳を立ててみるがギルド特有の喧噪が聞こえない。考えててもしょうがないし入るか。


「こんにちはー」


「あら? 初めての人ですね?」


 受付の人は微笑みながら俺を迎えてくれた。


「はい、この村には着いたばかりです」


 おっとりした受付さんのようだ。


「初めまして、私はここで受付をしているシェールと申します。以後お見知りおきを」


「クロノです。しばらくこの村に滞在予定です」


 自己紹介をしてクエスト一覧の貼り出されているボードを見てみるが、はっきり言っておいしい依頼はなかった。ペットの捜索や害獣の駆除など手間の割に報酬が高くないものが並んでいる。


「あまり良い依頼はないでしょう」


 シェールさんははっきりそう言う。俺も口にはしないが無言をもって同意する。平和なのはいいことだがそのせいで荒事に乗って稼ぐような俺みたいな流れ者からすれば渋い町と言える。


「平和なんですね」


 俺は言葉を選んでそう言う、シェールさんはクスクスと笑って答える。


「そうね……とても退屈で平和な村よ」


「それは何より」


「時々物騒な依頼もでるからそれを待つ人が多いわね」


 時々はあり得るのか……なんにせよ今日は稼げそうにないな。


「待つとしますよ。この村の宿はどこですか?」


「近くに『金の卵』という宿がありますよ、この村に宿はその一軒……気にくわないでしょう?」


 俺はそれに答える。


「少なくとも野宿よりはマシですよ。ここまでしばらく壁も屋根もないところで寝てましたから」


「あらあら……意外と苦労人なんですね」


 俺は少しの会話の後ギルドを出た。近くにあるという宿はすぐに見つかった。大きさ自体は民家とそれほど変わらなかったが木造の家の中、よく見るとレンガ作りだったのですぐ目に付いた。看板が軒先に出ており『宿屋 金の卵』と書かれていた。


 ドアを開けると閑散とした受付がぽつんとあるだけで他の客は見当たらない。


「いらっしゃい……」


 厳めしい顔のおっさんが奥から出てきた。


「とりあえず三日ほど泊まりたいんですが……」


「朝夕食付で一日銀貨三枚だ」


 俺は財布から九枚銀貨を取り出して支払う。無愛想に受け取って部屋の鍵を渡してくれた。それを受け取って部屋に行くと隅の方に小さな部屋があった。そこを開くと排水口のあるタイル張りの部屋だった、どうやらここは浴室のようだ。


 隅にある小さな井戸から水を汲んで浴びろと言うことらしいがもちろんそんな面倒なことはしない。


 服を脱いで部屋で思い切り水を魔法で生成する。


「スッキリした……」


 やはり清浄魔法と水浴びでは爽快感が違う。


 着替えてから久しぶりに屋根と壁とベッドのある場所で眠れることに感謝しながら眠りに就いた。

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