第3話「運命に抗う」
宿に泊まって二日が経った、時間が十分に経ったのでそろそろギルドに行くとするか……
俺は気持ちよく起きて窓を開け陽光を浴びる。さわやかな目覚めはいいものだ。明日またこの光を浴びる予定なのでそういったことは重要だ。
服装を戦闘用にして宿を出る、これからしようとしている事の関係上、宿は荷物を収納魔法に入れてチェックアウトしておいた。どうせ時間は戻せるのだから一カ所にこだわりたくはない。
町を歩いて行き、王都だけあって立派な建物になっているギルドのドアを開けた。
いつもの喧噪を抜けて目的の依頼の再掲示区画を見る。そこには様々な理由で失敗して再発注されたクエストが貼られている。その中から『受注者死亡により再発注』となっているクエストを見つける。王都ともなるとその手のクエストが一つくらいは見つかるものだ。
丁度昨日失敗したクエストがあるので前任の詳細を覚えてギルドを出た。そして人目の無い路地裏で時間遡行を行う。
『リバース』
スキル使用と共に太陽が逆方向に沈み星が出て空が一回転したところで止めた。
『今日』はまだ『明日』失敗したクエストは受注されていない。俺はギルドに入って新規で貼られているクエストを受注する人が来るのを待つ。酒を飲みながらクエストボードを観察していると、一人の少女がその依頼をじっと見ている。
おそらくあの少女だと当たりをつけて声をかけた。
「初めまして。プリムちゃんかな?」
少女はビクッと身体を震わせて振り向いた。
「はははははい! そうれしゅ!」
思った以上に頼りない歳だ、冒険者をやるのに年齢制限は無いが、戦闘をまともにこなせるかは怪しいだろう。
この少女が明日の死亡欄に載っていたはずだ、詳細情報までは載っていなかったが名前が一致しているので間違いない。
「そのクエスト、二人で受けないか?」
「へ!?」
「そのクエストを受けようと思ったんだが、クエストを一人で受けるのは心細いんだ。仲間がいた方がいい」
何しろ俺のスキルは自分には効かない、逆を言えば戦闘をしてくれる人がいればその一人が無限に等しい戦力になる。どんな魔物でもどこかに付け入る隙がある。試行回数を無限にすればいつか必ず勝つ事ができる、その薄い確率を引くまでリセットすればいい。
このプリムという年端もいかない少女でも『キラータランチュラ討伐』を可能にできる。何回かは酷い事になるだろうが時間遡行で記憶は消えるので問題無い。
それでも……早めにスキルを使って死亡回数は減らそう……俺も何度も子供が死ぬところは見たくないからな……
「あのー……あなたは誰なんですか? 私の名前を知っていたようですけど?」
「俺はクロノ、前のパーティーを追い出されてな、こうして戦力の足りないパーティーに加勢しようって物好きだよ」
「私はちゃんと強いですよ! 舐めないでください!」
見た目で実力を推し量るのはよくないが、明日の死亡欄を知っているので放っておけないんだよな……
とりあえずの目標はこのプリムを明日の死亡欄に載せないことだ。
「分かった、プリムは強い、だから一緒にクエストを受けたい、ダメか?」
プリムはしばし悩んでいるようだ、依頼自体を諦めるならそれでも構わない。それでも明日が変わることは同じだからな。
「うーん……お兄さんは正直怪しいですけど……協力してくれるんですか?」
「もちろんだ、もしかして、このクエストをプリムは一人で受ける気か? 遠回しな自殺に等しいぞ」
報酬こそ魅力だが大蜘蛛を相手にするには非力すぎる。餌になりにいくようなものだ。
「む……ではあなた……クロノの協力があればできると言いたいんですか?」
「ああ、楽にとは言わないが失敗はしない、少なくとも死体で帰ってくる事はないぞ」
「しれっと私を舐めてませんか? 蜘蛛ごときに後れは取りませんよ」
おっと、プリムは自信家のようだ。しかし困ったな、未来を知っているからと言っても信じてはもらえないしな……しかし放っておくと明日無機質な死亡告知が貼られる事になる。おそらく運命を変えるほどプリムに関われたとは思えない。未来の修正にはもっと直接的に干渉する必要がある。ブレイブ達勇者パーティーには指示が出せたがこの調子では協力というのも無理だ。
仕方ない……妥協するか。
ギルドを出て裏通りに行ってと……
なんだかんだ言ってもあいつらは御しやすかったのかもな……
『リバース』
幸い時間遡行の再実行に制限は無い、俺が存在している範囲で時間遡行は可能だ。
日の出少し前、文句なしの一番乗りにギルドの前で営業開始を待つ。ここはクエストが大量に発注されるので先を争うような事は滅多に無い。
今から行う事には生産性は欠片も無い。しかし死者を一人減らす事はできる。
建物の中から受付の人が出てきて『営業時間外』と刻まれたプレートを『営業中』にすげ替えてから、俺に多少の好奇の目を向けてから建物の中に戻っていった。俺は最速一番乗りでギルドに入る。真っ先に今日のクエスト一覧が貼られた板の前に行き、こっそり隅の方に貼られている『キラータランチュラ討伐』の依頼票をクエストボードの一番目立つ真ん中に移動させた。
資金に余裕はあるので食堂になっているところで芋煮を食べつつクエストボードに目を向ける。屈強な男と手練れであろう魔道士のパーティーが依頼票を剥がしていったのを確認できたら俺は宿に帰った。あのパーティーなら問題無いと思うが、念のため一日を寝て過ごした。
翌日、ギルドに向かい、ギルドの告知箇所に貼られている死亡欄が一行減っているのを確認してその日は飲んで過ごした。
記憶は曖昧だが、一人の少女が受ける依頼を選んでいるのを俺の目がなんとなく記憶していたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます