第2話「日銭を稼ごう!」
勇者たちと別れた俺は……ギャンブルをしていた。闘技場でモンスターを戦わせてどれが勝つかに賭けるシンプルなものだ。
今回はオオトカゲ対キラービーだ。籠状になった舞台でどちらかが死ぬまで戦わせるというルールになっている。
今回俺が賭けたのはキラービー、一回で成功させる気は無いのでべつにどちらが勝ってもいい。
トカゲが下を伸ばしてハチを捕らえようとする、それをかわしてキラービーは針を胴体に向けて突き立てる。トカゲの固い鱗に阻まれて針が刺さることはなかった。
獲物が近づいたチャンスを逃さず、トカゲは大きく開けた口で蜂の胴体を切り離す。
勝負は付いた、そこから離れてスキルを使用した。
『リバース』
すべてのモノが逆方向に進んでいき、死んでいた蜂は控え室に戻っていく。
時間が投票可能時間まで戻った。俺は何食わぬ顔でコロシアムの受付に所持金の九割を出してオオトカゲの方に賭けた。
そのとき受付の周囲の人が下卑た笑みを浮かべていた。大方連中が吹聴して回ったのだろう、暇な連中だ。
「はい、オオトカゲに金貨二十枚ですね……本当によろしいんですか?」
「構わない、投票権をくれ」
「はい、承りました」
俺はオオトカゲが勝つことを知っている。『時間遡行』を繰り返して分かったことだが、時間をリピートしても俺が積極的に関わらなければ結果はまず変わらない。要するに俺が観戦しているかどうかはこの勝負に影響を与えない、ここで待っているだけで金が増える。気楽な錬金術だ。
幸い王都では俺がケチな賭け金を積んだくらいで倍率は変わらない。そのおかげで罪の意識も何も無い、注目の試合でもないので誰かの人生に関わることも無い、だからまあ気楽なものだ。
舞台の方から歓声が聞こえてきた、時間遡行前に一度聞いた決着の声だ。すべては俺の予定通り、未来が俺の手でころがっている。
『うおーーーー!!!』
悲喜こもごもの声を聞きながら俺は払い戻しの受付に行って券を差し出す。レートが極端に高いわけでもないので係の人も無関心に券が偽物でないことを確認して、認証魔法のチェックが済んだらあっさりレートの通り賭け金の倍が戻ってきた。
金貨四十枚が手に入ったので収納魔法で亜空間に突っ込んでおいた。スキルで金に困ることは無いのでしばらくは王都で稼がせてもらうとしよう。
宿を確保して今日は幸せに寝るとするか。一から十まで面倒をみる必要のある連中がいないというのは気楽なものだ。
さて、せっかくの新しい門出なのだから少し贅沢をしようじゃないか。
少しくらい高めの宿に行っても文句は言われない、丁度いいし飯が美味しいと評判の所にするか。
確かこの辺に……あったあった。
見上げると看板に『銀の泊まり木』と書かれている。王都でも評判の宿だ。ここのシチューは朝から煮込んでいると有名なメニューになっている。
ドアを開けて一晩泊まることを伝える。
「いらっしゃいませ、一晩金貨一枚になります」
受付がそう言う。金を持っている相手には後払いを認めていることは知っている。つまりは俺に信用が無いというわけだ。
収納魔法で金貨を一枚出す。
「これで問題は無いか」
金貨をカウンターの金庫に入れてようやく俺に笑顔を見せた。
「はい! 確かに受け取りました」
部屋に入ってベッドに倒れ込む。ふかふかの布団で天日干しにしているのだろう、いい香りが鼻をつく。
このままベッドに意識ごと沈み込んでしまいたかったが、名物料理を食べるという使命があるので重い体を起こして食堂へ向かった。
椅子に座ると給仕が注文を取りに来た。
「シチューとパンを」
「かしこまりました」
そう言って厨房へ引っ込んでいった。
しばし待つと湯気の立つシチューと焼きたてのパンが出てきた。
薫り高いパンを一口囓ってシチューを掬って口に入れる。香ばしいパンと肉の味がしっかりしたシチューが混ざり合って舌が満足しているのを心に伝えてくる。
誰かに気兼ねすることのない食事を楽しんだ。
その後、部屋の窓から綺麗な星を見て、自由という状況を楽しみながらカーテンを閉めて眠りに就いた。
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