スキル「時間遡行」でPTを救ってきましたが、記憶に残らないので無能扱いされて追い出されました。しょうがないのでスローライフ始めました。誰も知らないチート日記!
スカイレイク
プロローグ
第1話「リトライ」
「ブレイブ! 左からブレスだ!」
俺はリーダーの勇者に指示を出す。この指示を出すのは十二回目だ。
「うるせえ! おいアイゼン! 盾になれ!」
「任せろ!」
『鉄壁!』
タンクのアイゼンが指示を受けてタンクの役目を果たす。目の前のフレイムドラゴンが吐いた炎はアイゼンが使用した盾のバリアに防がれ霧散する。ここから先は数回しか体験していない。
フレイムドラゴンの急所は数回の経験から把握している。
「次! 敵の腹に凍結魔法!」
「おい! ニール! ぶち込め!」
「はいよ!」
ブレイブが俺の言葉を聞いて賢者のニールに指示を出す。
『フリージング!』
無防備だった腹に冷気が直撃し、ドラゴンは姿勢を崩す。
「ブレイブ! あのトカゲの心臓の位置は喉元だ!」
「いちいち命令するんじゃねえ!」
ブレイブがオリハルコン製の剣を動きの鈍ったドラゴンに突き立てる。血が派手に散ってフレイムドラゴンはその巨体を伏した。
今回の戦いで俺以外は二十回は死んでいた。そんなことを言ってやる意味も無いのでいつもの王立ギルドへ向かう。
ギルドへ着くなり横柄な態度でリーダーのブレイブはクエストの完了を告げる。それと共にパーティーメンバーへの賞賛が湧き上がる。
その声はサポート役の俺には届かない。下働きとはえてしてそういうモノだ。
俺は今日、何度あいつらが死んだか考えてみる、初回はブレイブが後先を考えずドラゴンに斬りかかってブレスで丸焼きにされた、そこで俺は『時間遡行』のスキルを使用して少し時間を逆行させた。
二回目はブレスをかわしたものの、ドラゴンの眉間に斬りかかり剣が折れてドラゴンの爪のえじきになっていた。
何回も俺は時間遡行をして死人が出る度にその対処をしてようやく勝利した。
パーティーの皆が話題の中心で騒ぐのを他所に、俺は一人でエールをあおっていた。
俺のスキルは自分以外すべての時間を戻す。俺自身以外は死んでいようとそれを無かったことにできる。
問題は『記憶』まで含めて無かったことになる事だ。表向きには俺が指示を出した事だけが成功体験として残るばかりだ。
「俺たちにももっと使える仲間が欲しいよな!」
「戦力は多い方がいいよなあ?」
「おいおい! 勇者に無能な仲間がいるみたいじゃないか!」
あいつらはわざと俺に聞こえるように声を大きくしている、俺があいつらを生き返らせた回数を考えてそろそろうんざりしていた。
元はといえば王宮の予言士たちが悪い。勝手に俺を見つけて『勇者の器』などと言って俺をパーティーにねじ込んだ。しかし『時間遡行』の特性上何もしていないように思われている、勝手に招聘したくせに一方的に役立たず扱いするのだから困りものだ。
俺が一杯エールを飲み干したところで怒声が飛んできた。
「おい無能! 何とか言ったらどうだ? お情けで勇者パーティーに入ってるんだぞ、礼の一つでも言えよ!」
もう……うんざりだった。毎回敵に考え無しに突っ込んで死ぬ連中のお守りはやりたくない。酒のせいだろうか? 今日はなんだか無性にイラついた。
「だったら俺に頼るなよ……」
「あ!? てめぇ今なんつった?」
「お前らの面倒をみるのはもううんざりなんだよ!」
その一言にブレイブが顔を真っ赤にしてキレた。
「そうかよ! じゃあお前とはここまでだ! せいぜい勝手にのたれ死んでろ!」
周囲を見るとニールもアイゼンも頷いている。俺はさっきの一言を時間遡行で取り消す事もできたが、いいかげん嫌になっていたので自分の食事代を払って建物を出た。
勇者たちと別れて見上げた空は満天の星空で、俺の新しい生き方を祝福してくれているようだった。
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