第4話 内気な僕、ストロベリーライフを送る



「ルン・ルン・ルルン♪ルン・ルン・ルルン♪チーコはとってもさみしんぼ♡」


「ラン・ラン・ララン♫ラン・ラン・ララン♫チーコはとってもあまえんぼ♡」


 お風呂場からチーコの楽しそうな鼻歌が聞こえてくる。


 僕はそんな心地よい響きをBGMにしてベッドに寝転びながら今度の日曜のデートプランを練っている。


 ゴキゲンなチーコの歌にハミングしながら、僕はスマホでのオシャレスポット探しに指を躍らせる。


 

 僕たちふたりが結ばれてからすでにひと月が経過していた。


 ひと月の間僕たちは幾度となくふたりで愛を確かめ合い、その愛をじっくりと深めて行った。


 ある時はラブホテルで。


 またある時はチーコの外回りの営業車の中で。


 そして、近所の林や牛丼屋のトイレで愛の二重奏を奏でることもあった。


 とにかく僕たちは色々な場所でその愛の形を確認し合ったのであった。


 そうして気がついた時にはもう僕たちはラブラブカップルとなっていた。



 カスミと茶太郎のふたりとはあれ以来学校で顔を会わせても、お互いに会話を交わすことは一切なかった。


 むしろ僕の方が茶太郎に対して何かうしろめたさのようなものを感じ始めていた。


 他に変わったことと言えば、不良のデカ男が僕の姿を見つけるとコソコソと隠れるようになったことぐらいだろうか。



 しかし幼なじみたちとの冷戦が続く一方で、僕は新しい恋人と穏やかな日々を過ごしている。

 

 僕とチーコが恋人同士になってまず最初にしたことは、『ふたりのラブラブ未来ノート』を作ったことだった。


 そのノートに僕たちはたくさんの“やりたいこと”を書き込んで行った。


 ・ペアルックで遊園地に遊びに行く

 ・プリクラでおもしろ写真を撮る

 ・オープンカフェに行きハート型のストローで一緒にクリームソーダを飲む

 ・Tik Takにダンス動画を投稿する


 などなど楽しそうな計画がノートには所狭しと書かれている。

 

 

 さぁ次の日曜はいよいよ待ちに待った遊園地デートの日だ。


 というのも通販サイトで購入したペアルックのトレーナーが昨日ようやく届いたのだ。


 色違いのトレーナーの前面には大きなハートマークがプリントされている。


 僕たちはオプションでハートの真ん中に、それぞれ『チーコLOVE』・『シンくんLOVE』の文字をプリントしてもらった。


 Lサイズのきれいなブルーのトレーナーと4Lサイズの可愛らしいピンクのトレーナーだ。


 トレーナーの背面には『僕たち真剣恋愛中』・『私たち真剣恋愛中』というとてもカッコいいバックプリントが施されている。


 数量限定での割引中ということもあり、僕とチーコは即決でそのトレーナーをポチることにした。


 2枚で5万円のところが半額の2万5千円、しかも今ならオプションのお名前プリントが無料サービス中とあっては即購入以外の選択肢など考えようもなかった。


 売り切れる前にゲットできて本当にラッキーだった……、スマホの画面で注文が確定したあと思わず僕はホッと胸をなで下ろしたのだった。

 

 僕はその真新しいトレーナーを着てメリーゴーランドに乗るふたりの姿を想像しニヤニヤが止められない。


 お風呂から上がってきたばかりのチーコもベッドに寝転びひとりニヤつく僕をみて少しばかり呆れたような表情を浮かべていた。



 ☆☆☆☆☆☆



 そんなただただ平和で楽しいだけの毎日が続いたある日のお昼時。


 僕は学校を早退し、昼食休憩のために一時アパートに帰宅していたチーコと束の間の逢瀬を楽しんでいた。


 玄関をあけてすぐのダイニングでの情事。


 そんな非日常的なシチュエーションが僕たちをさらなる興奮へと誘う。


「シンくぅん、今日はお時間がないから……、〈ぺろりんちょ〉だけでいい?」


 チーコが若干申し訳なさそうな声でささやく。


「もちろん。僕、チーコの〈ぺろりんちょ〉大好き!」


 力強くうなづく僕。


 まあ本音を言えば、〈ぺろりんちょ〉と〈ぷるぷるぷるりんこ〉の合わせ技が一番好きなんだけど……。


 ただ今日は時間があまり無いし、これから仕事に戻るチーコにあまり無理はさせられない。


 そんな僕を見てチーコが安堵の表情を浮かべる。



 昼下がりの部屋で軽く抱き合いながら、ついばむようにキスを交わすふたり。


 

 次の瞬間、


――――ガチャリ。


 玄関の扉がゆっくりと開く。


 扉の向こうにはよく知った金髪ロングのイケメン。


 僕の親友である茶太郎が驚愕に目を見開いて立ち尽くしていた。

 




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