第48話 ランチタイムの女子バナ

「このところ、美依、付き合い悪かったじゃん! 新しい男でも出来た?」


 美依のクラスメイト達で友人の、間野まの英恵はなえが、美依の肘を突きながら尋ねて来た。


 平日の昼下がりの喫茶店に3人で集まり、遅めのランチ定食を食べていた美依と、英恵と、もう1人の友人の木幡こはた紗千さち


「そうそう! 冬休み前、一緒にいた盟東高校のイケメンとは、どうなったの~、美依?」


 以前、3人で下校途中、那知を見かけた美依が、声をかけ自転車で自分だけ拾ってもらっていた事が、ずっと気になっていた紗千。


「その後、色々有ってね~。でも、今は丸く収まっている感じ~」


 友人達の前で、那知がゲイという発言は出来ず、言葉を濁した美依。


「ふーん、良かったじゃん!」


「で、どこまで進んだの~?」


 興味津々に探りを入れて来た紗千。


「えっ......それは......」


 那知が自分の元カレとして認識されている土田に横恋慕中とは言えずに、2人への返答に詰まる美依。


「紗千、ダメだよ~! 美依は、お嬢様だから、傷物されたら大変じゃん!」


「あっ、そうか、あたしら庶民とは違うもんね~」


 自分達とは別扱いして考えようとする友人達の言葉が、たまに不快になる事も有るが、今回は助け船のように感じる美依。


「そうなの~! 彼も、正式に婚約するまではプラトニックでいようって言ってくれているし~!」


「「プラトニック?」」


 聞き慣れない言葉を耳にして、キョトンとする2人。


「肉体よりも精神を重要視する、神聖な感じの愛の事よ!」


 昨夜、覚えたての言葉を得意気に使った美依。


「へぇ~! そんなの提案してくる男子なんて、なかなかいなくね!」


「よっぽど、美依の事を大切にしているんじゃん! その彼」


 友人達に感心されて、事実を少し歪めてはいるものの、悪い気はしない美依。


「でしょ? 昨日も、家に泊ったんだけど、彼ったら、私に指一本、触れて来ないの~!」


「えっ、マジで......? それって、大切にっていうよか......」


「無関心っぽくね?」


 思わずポロッと口から出てしまった紗千の言葉に、狼狽うろたえる美依。


「あっ、ううん、指一本触れてないっていうのは、間違ってた! 2人でベッドで寝ていて、狭かったから寝返り打った時に、私、ベッドから落ちちゃったの! そしたら、彼、お姫様抱っこで、ベッドに戻してくれたの~!」


 那知の寝ていたソファーベッドの下の場所に布団を用意して寝ていたつもりが、今朝方、なぜか気付くと自分のベッドに戻されていた美依。

 その経緯を自分なりに想像し、バイトで那知が早々に退出後も、何度も思い出しては1人で赤面していた。


「え~っ、お姫様抱っこで、落ちた美依をベッドに戻したの~?」


「あの細身のイケメン君が~? やるじゃん!」


 美依に言われるまま、想像し、羨ましそうな2人。


「でしょ? 今は、私にプレゼント買う為にバイト中なんだけど~、終わったら、また今夜も泊まっていくの~!」


 バイトの理由を自分に都合良く伝える美依。


「マジで~? 親も公認なの?」


「うん、昨日、紹介したばかりだけどね~! ママもパパも、気に入ったみたい!」


 そこは、偽らずに話した美依。

 

「それだったら、もう婚約してるも同然じゃん!」


「でもさ、高1で、もう婚約なんて、早くね? まだ、他の出逢いも有るかも知れないじゃん?」


 英恵の否定的な言い方も、今の美依には影響しない。


「早過ぎるなんて事無いよ~! イケメンから相手どんどん決まって行くし! 気付くと周り雑魚ばっかになってしまうじゃん!」


「美依の言う事も一理有る!」


「あたし達もガチで決めとかないと!」


 美依に刺激を受け、英恵と紗千も焦り出した。

 そんな2人の様子を余裕の態度で見ながら、ランチのパスタを食べ続けた美依。


「そういえば、その前まで付き合っていた、土田氏とはどうなったの?」


 ふと、食べている手を休めて、美依に尋ねた英恵。


「土田君なら、別れたよ~。私が、二股なんてするわけないじゃん!」


「こう見えて、美依は一途だもんね~!」


 当然のように言い放った美依を冷やかす紗千。


「って事は、土田氏はフリーじゃん! 頭良いから、試験勉強の時、頼れそうだし~。美依が別れたっていうなら、あたし、狙おうかな~?」


 下心見え見えの英恵の言葉を聞き過ごせない美依。


「えっ、土田君はダメだよ~! ボッチとか......」


 言いかけて口籠った美依。


「ボッチって......? うちのクラスの園内さんだっけ......?」


「園内さんも、土田君狙いなの......?」


 2人が意外そうに追及してきた。


「うん、多分、そんな感じに見える......」


「で、まさか、土田氏も、満更でもない感じとか?」


「私の目からは何とも言えないけど......けっこう仲良くしているんじゃないかな?」


 先日の那知と喫茶店に入った時点で、土田と澪が既に2人でいた事を思い出した美依。


「え~っ、ボッチのくせに~!」


「我らが土田氏に手を出すは、図々しい!」


 英恵と紗千は騒いでいたが、その2人が交際する事によって、那知が土田への想いを諦めてくれるというなら、それに加勢したい心積もりの美依。


「でも、まあ本人達の気持ちが大事だから、そこはそれでいいじゃん!」


「美依は、自分に婚約者がいて、心の余裕が有るから、そんな事言えるんだ~!」


「そうそう、一人身の私達の身にもなってよ~!」

 

(心の余裕なんて私にも無いけど......) 


 ブーイングせずにいられなかった2人に、心の中で言い返した美依。

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