第47話 寝場所の移動

(......寝ていたのか? ここは.......? そうか、美依の部屋だ......)


 長時間通してのバイト疲れも有ったが、0時を優に回り、那知に抵抗し難い睡魔が襲って来ても無理は無かった。


(美依がお風呂に行ったのは、23時半くらいだったから、30分くらい転寝うたたねしていたんだな......)


 その後も何度となくウトウトしていた那知だったが、そんな時に不意に起こされ、顔を上げると、目の前にターバンを頭に巻いたバスローブ姿の美依がいた。


「あっ、スミマセン! こんな時間なのに、まだ居て......」


 寝ぼけまなこで見た美依の見慣れない姿に、てっきり、美依の母親か、伯母だと勘違いした那知。


「え~っ? 私だけど~! 何よ、急に、他人行儀になって~! 寝ぼけてたの?」


 美依の声がしてきて驚き、改めて顔を見た那知。

 洗髪後の濡れた髪の毛をターバンの中にひとまとめにし、いつもの濃い目の化粧を落としているせいか、改めて見たところで、美依の面影があまり感じられなかった。


「なんか、別人みたいに見えたから......」


「化粧落としたし、髪の毛をアップにしているからでしょう? 自分だって、女装の時とすごく違うのに~!」


 別人と言われて、ムキになって反論した美依。


「化粧落とすと、美依って、わりと地味なんだなって......」


「ヒドイ~っ!! 那知ったら、そんなディスらなくてもいいのに~! そりゃあ、那知もボッチも、元々の目がパッチリしてるから、ナチュラルメイクOKで、化粧落としても、スッピンとあまり変わらないかも知れないけど。奥二重の私は違うもん......」


「別に、あんなゴテゴテとアイメイクしなくていいと思うけどな~。目にゴミ入った時、厄介だし、そんな化粧ばっかしてると、目の周りの肌に負担かけそう......」


 目をやたらと強調させているギャル風アイメイクは、あまり好まない那知。


「だって~、目を大きく見せた方が気合い入るじゃん! 私の周りみんな、そういうメイクしているし......」


「類友だからな~。あっ、シャワーだけ借りていい?」


「うん、タオルと下着やパジャマ、用意しておいたから」


 用意周到な美依の言葉に、躊躇う那知。


「妙に慣れた言い方だけど、男、よく泊まっていくの?」


「えっ、そんな事無いっ!! 私の家、わりと来客多いから、来客セットがいくつも用意されているの!!」


 那知に疑いの眼差しを向けられ、慌てて否定した美依。


「来客って、そんなに多いんだ?」


「そう! 那知は知らないと思うから、言っとくけど、警察とか暴力団系も人達も出入りしてるから。くれぐれも私に対する態度には気を付けてね~!」


(警察に暴力団系......どういう家なんだよ? やっぱ、取扱注意人物だな、美依は!)


 バスルームの場所を聞き、向かっている間、監視カメラの位置を確かめた那知。



 那知がシャワーから戻ると、ネグリジェ姿に着替えた美依がソファーの背もたれ部分を倒し、普通のシングルベッド大のソファーベッドにしてシーツをかけていた。


「ソファーのままでも良かったのに。ありがとう」


「ううん。このソファーベッド、わりと大きいでしょ! 私も、ここに一緒に寝ていい?」


 頭に付けていたターバンを取り、長い髪を垂らし、いつもの姿に少し近付いた美依が上目遣いに尋ねて来た。


「無理だよ! 誰かが横にいると眠れない!」


「空気のように大人しくしてるから~!」


「だから、ダメだって!」


「分かった! 私のベッドに行けばいいんでしょ!」


 那知に強い口調で断られ、渋々、自分のベッドに戻った美依。



 消灯したものの、美依は、那知の事が気になって眠れない。

 しばらく経過して、静まり返った様子に、那知が寝返りもせず爆睡していると思い、自分の枕を持って、那知の寝ているソファーベッドに近寄った。


 ソファーベッドの左右どちらかに、自分が眠れそうなスペースが有ったなら、布団に潜り込むつもりでいたが、右も左もそんな余裕など無く、意図的なほど大の字になって寝ていた那知。

 仕方が無く、別の部屋から布団一組とシーツを用意して、ソファーベッドの横に敷いて寝た美依。

 那知からは、人がそばにいると寝られないと言われていたが、美依は、那知がそばにいる事により、安心して眠る事が出来た。


 一方、先に爆睡していた那知は、やはり、いつもと違う寝床という事で熟睡は出来ず、2時過ぎに一度目覚めた。


 美依の部屋である事に気付くと、反射的に、美依のベッドに視点を移し、いない事に気付き、慌てて警戒し出した那知。

 

(やっぱり、人の家ってだけでも落ち着かないのに、こういう事も有るから、イヤなんだ......)


 眠気も吹っ飛びそうになりながら、美依の姿を探した。

 ソファーベッドの中に忍び込んでいる気配は無くてホッとしたが、足元にいつの間にか布団を用意し、寝息を立てている美依に気付いた。


 気付かなかった事にして、そのまま二度寝しようとした那知だが、すぐ傍に美依がいると知った以上、気になって眠れない。


(面倒な奴だな~!)


 布団から両手を引っ張って出しても、起きる気配が無く、ベッドの所まで引き摺り、そのまま那知がベッドに移動して、美依をベッドに上げた。

 布団が横に有るだけでも落ち着かないから、その布団もまた、ベッドの横に移動させた那知。


 美依から離れた事で、また眠気を取り戻し、落ち着いて寝入った那知。

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