第40話 2度目の晩餐 ⑶
母と居間で後片付けをしていると、澪はテーブルの上に忘れた土田の手袋に気付き、慌てて玄関に向かった。
まだ那知が戻って来てないという事は、土田とのシフトの話が長引き、2人とも玄関先にいるはず。
土田に、手袋を手渡せる事で上機嫌になる澪。
(また土田君に会えるチャンスが到来した~!手袋を渡す時、もしかしたら土田君の手と触れてしまう可能性も有るかも~!)
土田が忘れた手袋を見付けた事に幸運を感じ、一応、自分も話に加わって、しばらく外にいても良いように上着を着てから、入口のドアを開けた澪。
その瞬間、澪の目に飛び込んできたのは、雪に倒れている土田と那知。
それも、ただ倒れているだけではなく、土田の身体の上に那知が乗り、ちょうど土田が那知を引き寄せ、2人の唇が合わさったタイミングだった。
(えっ......何?それって、どういう事......?)
その光景が正視するに堪えられず、思わず手渡すはずだった手袋を雪の上に落とし、その場から立ち去った澪。
(もうっ、ショック過ぎて、頭がマヒしそう!那知と土田君が、男同士でキスって!......BLなんていうものは、マンガや小説とか自分とは直接的に関係無い、遠い設定の産物だと思ってた!まさか、そんな事が自分の身近で起きるなんて、思いもしなかった!そりゃあ、私だって、土田君が今でも、那知を意識してるのくらいは気付いてたけど......隠しているから那知の本心は分からないけど......男同士だし、時間が解決してくれると思っていた......あの状況って、誰の方からしかけたの......?土田君の方から......?那知の方から......?まさか、2人同時に......?ああ~っ、考えようとすると、さっきのキスシーンが蘇って来て、もうムリなんだけど~!)
ドアをパタンと乱暴に開閉して戻った澪に、母が何か話しかけて来たのは気付いたが、無視して部屋に直行した。
キスしているところを澪に見られていた事に気付いた那知は、力尽くで土田の手を振り払い、土田を雪に残し、先に立ち上がった。
「そのままだと風邪引から、早くツッチーも起きなよ」
背面が冷たくなっていた事にやっと気付かされた土田がのっそりと起き上がり、身体の裏側に付いていた雪を素手で払った。
「園内、唐突にこんな事をして悪かった。僕は今まで、男を好きになった事は無くて、まだ本当は自分の気持ちもよく理解出来て無いんだけど......例え、園内が男でも、やっぱり好きなんだ!」
突然のキスの時点でも十分に困惑していたが、土田の告白により、余計に返答に困る那知。
「僕の試行錯誤のせいで......ツッチーに誤解させてしまっていたとしたら、謝るよ、ゴメン。ツッチーの気持ちは嬉しいよ、ありがとう。ただ、今更だけど、正直言うと、僕はノンケだから、ツッチーの事は、男友達として以上には思えない......」
先刻、澪が落としていった土田の手袋の雪を払ってから、土田に手渡した那知。
「あっ、手袋有ったんだ、ありがとう」
素手で雪を払い、すっかり手が冷たくなってしまった状態で、土田は手袋を受け取った。
「ツッチーの手袋は、家に忘れていたみたいだよ。さっき、澪が届けてくれていたんだけど、驚いて落としていた......」
「もしかして、さっきの......澪ちゃんに、見られてしまってたのか......」
家の前で軽率な行動に出てしまった事を今になって反省する土田。
「初詣も、他の行事も、男友達としてなら、僕はいつでもツッチーと一緒に行くから。今まで通りでいいかな?」
土田の気持ちを踏まえ、これからもバイト仲間としてベストな関係性でいられるには、どう返答するのが最適なのかをよく考えながら答えた那知。
「男友達で十分だよ、園内。ごめん、さっきのは忘れてくれ」
那知の困惑している表情を見て、感情が先走った言動を悔やんで俯いた土田。
「僕は、ツッチーの事は大好きだよ!」
後悔している様子が伺える土田に那知の方から抱き付いた。
「園内......だから、そういうのが誤解を招くって......」
理性を取り戻した土田が身体を硬直させ抵抗しようとした。
「前にも言ったけど、僕はスキンシップは、恋愛感情は抜きで誰とでも出来るから。もし僕のハグとかで役に立てるなら、気兼ねしないでいいよ」
離れようとする土田を一層力強く抱き締めた那知。
「うん、分かった.......なんか安心する。僕は、ハグっていうのも初めてで、緊張してつい身構えてしまうな......よく分からないんだけど、何だか園内のハグって、癒しのようなパワーが有るのかな?ありがとう、園内......」
那知に抱き締められているうちに、初対面の父との緊張する会話や、那知の悪態をついてきた父に対しての反論、那知への想いを抑え切れずに告白した事やその性急な言動への反省など、ずっと張り詰めた感情から解放され、思わず目頭が熱くなった土田。
「ツッチーとは、いつまでも良い友達でいたいんだ。だから、これからもよろしく」
土田とは良き男友達のまま、ゆくゆくは澪のパートナーとして、今まで通り近い位置にいてもらいたかった那知。
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