第23話 バイト先にて ⑴

「何?さっきから、ツッチー、こっちに視線向け過ぎじゃね?」


 にわか雨の下校時の翌日、バイト先で、男性用の制服を初めて着て働いている那知に対し、まだ困惑状態が続き、目線が落ち付かない様子の土田。


「いや......どうしても、何だか信じられなくて、なっちゃんがその......」


「僕が、女装趣味の変態野郎ってこと?」


 濁した言葉の部分を那知なりに解釈して言うと、返答に困る土田。

 そんな土田の困惑の様子などお構いなしに、来客に笑顔を振りまく那知。


「これからは、なっちゃん目当ての男性客が少なくなるかも知れないけど、男子の姿でも、女性客からのウケが良いから、お店としては大歓迎だ!」


 既に、那知側の事情を把握し、店のバイトを止めさせられるどころか、ホクホクした上機嫌で話しかけて来た店長。


「店長には、女装していたのは、仲間内での罰ゲーム期間だったって事にしてあるから、ツッチーも話合わせて」


 店長がドアを開けて入って来た来客を案内しようと離れた隙に、ボソッと土田の耳元で告げた那知。


「分かった......」


 男性用制服の那知に、今までの自分が思い続けていた女装時の那知の姿が重なり、那知の一挙一動で、まだ戸惑っている土田。


「店長にカミングアウトした時点で、ぶっちゃけバイト辞めさせられなかったとしても、辞めようと思っていたけど......今まで、お世話になった人達に申し訳無いし、この姿の状態でも、雇ってもらえるなら続けるのも有りかと思って......」


 本来の姿なだけに、女装の時より気を遣わずに話せている那知とは対照的なほど、今までの姿からの違和感に慣れず、口が重い状態になっている土田。


「......僕のせいで辞められたらとしたら、なっちゃんは人気者だから、僕は、なっちゃん目当てで来ていた皆に恨まれてたよ」


「もう那知でいいよ、ツッチー。なっちゃん呼びされていると、自分が今、まだ女装しているかと混乱してしまうから」


そう言われても、土田の方は、なっちゃん呼びから那知へと、すぐに変換出来る自信が無かった。


「僕は元々、名前の呼び捨ては苦手だから......」


「そっか~。じゃあ、周りの男子に対してするように、苗字の呼び捨てにしなよ。ツッチーが、澪を呼ぶ時って、さん付けで園内さんだから、そこと間違えないし」


「園内......うん、その呼び方がしっくりくる。店長には罰ゲームという事にしてあるって事は、本当は罰ゲームではないのか......?」


 その辺の事情も気になる土田。


「だから、さっきから言ってるだろ。僕は、だだの女装趣味のキモイ奴だって。ツッチーは、ちゃんとした女子の彼女を見付けなよ~」


 男同士という事で、遠慮無く那知は土田と肩を組んで言ったが、土田の方はまだこの状況に慣れずにぎくしゃくしている。


「そうだな......でも、肩......」


 肩を組んだ時から、身体がガチガチにこわばっている土田に気付き、組むのを止めた那知。


「あっ、もしかしてツッチーって、スキンシップ苦手な人だった?ゴメン、僕はお父さん以外とは、普通にハグするから」


 那知の言葉に驚かずにいられなかった土田。


「えっ、それじゃあ、園内さんや、お母さんにも?」


「うん、するよ。そんなの別に意識せず、小さい時から習慣的にして来たから。さすがに、欧米並みにキスとかはしないけどね」


 男兄弟しかいない土田からすると、家族とはいえ、母親や姉に抱き付くなどというのは、抵抗しか無い。

 那知がスキンシップを習慣としていた事に対し、意外さしかなかった土田。


「お母さんはともかくとして、思春期くらいになったら、園内さんはハグされるのとか、嫌がらなかった?」


「確かにね......中2の頃、澪に好きな男子が出来てからは、普通にハグ出来なくなったよ。今は、バックハグしかしてないけど、澪は背中も柔くて安心感が有るから♪」


 そう言いながら、ぽっちゃり体形の澪の感触を思い浮かべた那知。


「園内さんって、好きな男子がいるんだ?」


 那知の言葉で、那知と同様に澪の後ろ姿を思い浮かべ、初めて澪に対し関心を示した土田。

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