第24話 バイト先にて ⑵

 澪の気持ちも知らず、そんな言葉を何の気無しに口にした土田の鈍感さに、苛立ちを覚える那知。


「思春期の女子に好きな人がいないって事の方が、よっぽど珍しいと思うけど」


 つい棘の有るような言い方しか出来なくなった。


「そうかも知れないな。僕は、あまり意識して自分の周りを見ている事が無いから。なっちゃん、あっ、違った!この前、自転車で園内と一緒にいるのを見かけて、最初、相手が園内だって知らなかった時には、2人は付き合っているのかと思ったよ」


 まだ言い慣れない那知の苗字に呼び難そうに言い直した土田。


「澪とは双子といっても、全然似てないからね」


「えっ、2人は双子だったんだ~!そうか、考えてみたら同学年の姉弟だったら、双子だよな。二卵性の男女だと、外見がこんなに違うんだな」


 双子と聞いて、信じられない様子の土田。


「ツッチーは、マジで、人に対して関心薄いよね~。僕とはクラスは違ったけど、同じ中学に3年も通っていたのに。女装しても、全然バレて無くて面白かった~!」


 澪と違い、土田に対して遠慮なく思った事を言って笑った那知。


「僕は、元々、あまり人の顔とか名前とか覚えるのが苦手なんだ」


 少し恥ずかしそうに下を向いて言った土田。


「勉強とかで覚えるのは得意なのにね。あっ、そうか、ツッチー、空ばっか見ているもんね」


「気付かれていたんだね......なんて言うかな~、空は、本当に面白いんだよ!時間が経つのをつい忘れて見入ってしまうくらいに」


 空の話になった途端、急に生き生きした目をして話す土田の方を笑みを浮かべて見ていた那知。


「そうなんだろうね。僕の身近にも、そういう空好きな人がいるから」


 その那知の言葉と表情に、今までの女装の那知の姿が重なって見えてしまい、ドキッとする土田。

 そんな自分の衝動を隠しながら、ずっと気になっていた事を尋ねた。


「園内は......誰か好きな女子とかって、やっぱりいるのか?あっ、もしかすると、女子じゃないのかな?」


 関心は有るが、内容が内容なだけに聞き難そうに土田が尋ねると、それまで笑っていた那知の顔からサッと笑みが引いていった。

 土田は自分の発言が失言だった事に気付き、慌てて前言撤回の言葉を発しかけたが、それよりも那知の声の方が早かった。


「地雷踏まれた!はい、今日はここまで!」


 先刻までとは打って変わってキツイ口調に変わり、土田から離れて客席へ行き、食べ終えた食器を慣れた様子で食事客に声をかけて片付けた那知。

 那知の地雷を踏んだ事を後悔しつつも、そんな那知を遠目で追い続ける土田。

 遠目からでも、男子姿の那知は人目を引きやすい端正な容姿をしているのが分かる。

 今までは男性客の視線を集めていた女装姿の那知は、今や客席の若い女性客の視線を一身に集めていた。


 そんな那知としばらく近い位置で雑談していた土田だが、まだ那知を男子として気持ち的に受け止められずにいる自分に気付いた。

 何も知らずに、男子として接している周囲のように、自分も那知をいつか男子として意識せずに話せる日が来るのか?

 そんな悶々とした気持ちが、自分の中で疼いているのを感じずにいられない土田だった。

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