第15話 憧れのバイト

「嫌な感じの女~!あれ、澪のクラスメイト?」


 土田達に聴こえるか聴こえないかくらいの距離まで離れてから、那知が言い、澪は頷いた。

 

「うちのクラスでは、すごく目立つ一軍女子。本当に苦手なタイプだから、土田君と付き合ってなくて安心した~!もしも、あの井上さんと付き合ってたりなんかしたら、私、土田君の神経疑ってしまってた!」


 澪が今のクラスで孤立している事を、土田や那知には知られたくなかったが、土田が井上と付き合っていないという事実を確認出来た事の方が、澪にとって大きな収穫だった。


「ツッチーに限って、あの手の女を相手にするわけないよ!向こうは、かなりご執心そうで、悔しそうだったけど!」


 井上の心模様をしっかりと観察している那知。


「那知があんな風に挑発するから、井上さん、きっと那知の事をライバルだと思ってるよ」


 那知と一緒にいると、井上から見て、澪は同じクラスのボッチ女子としか扱われず、ライバル視されているのは那知というのが不服な澪。


「まあ、勝手に勘違いさせとくのも、面白そうじゃん!どうせ、あの女、他にも男が何人もいそうで、自分の用途で使い分けしてそうなビッチっぽいし」


 那知の言葉に、大きく共感した澪。


「井上さんって、やっぱり、そのイメージだよね!そういうのって、男子から見ても分かるものだよね?」


 だからこそ、土田のように真っ直ぐな男子とは、絶対に付き合って欲しくない澪。

 土田が井上に利用されている姿を見るのだけは御免だった。


「ツッチーだって、寄って来る女の下心くらい、ちゃんとお見通しだよ~!ツッチーは、頭の出来が良いから、苦手教科対策用に利用したいだけって。ツッチーが、あんなの相手にする程度の男だったら想い続けるの止めるように、僕が澪を説得しているから!」


 少し視点はズレてそうだが、土田と同じ男子から見た井上の印象に安心した澪は、久しぶりに、空を見上げる余裕が出来た。


「あっ、ハロが出ている!」


 太陽の周りには、日暈ひがさとも呼ばれる虹色の輪であるハロが現れていて、澪の心は高鳴った。


(キレイな虹色、こんなにキレイにクッキリ出ているの、珍しい!土田君も、今、外に出ているし、気付いているかな?)


 慌ててスマホで写真を撮って、Twitterに【mokk】でログインし


『買い物帰り、お疲れ様のように......』


......とハロの写真を添付したツイートをすると、【クモノスケ】も1時間前にツイートしていた通知が来ていた。


【クモノスケ】のツイート内容もまた、クッキリ虹色が鮮やかなハロの写真が添付されていた。


『塾の窓から見えた、太陽とハロ』


 すぐに『いいね!』のハートマークを付けてから、そのシンクロに感激し、その場で、ピョンピョン跳ねまくった澪。


「良かったね~、澪!」


【クモノスケ】のツイート内容をチラッと見て言った那知。

 土田に対し無関心そうなわりに、土田からは近い位置にいる那知が、澪からすると、妙に余裕を感じさせられて不愉快になる。


「......なんか、那知って、ムカつくんだけど!」


 思いっきり、那知の背中をバシッと叩いた澪。


「痛いな~、急に何?」


「だって、土田君に会うのって、偶然とは思っているけど、何故だか那知といる時が多いし、那知は、この後、バイトでも土田君と一緒とかって!」


 代われる事なら、バイトの時だけでも那知と入れ替わりたい澪だったが、双子とはいえ、残念ながら2人はあまりに似てなく、それはどう考えても不可能だった。


「そんな風に言うなら、澪もあのファミレスでバイトしたらいいじゃん!ツッチー、すごく親切丁寧に教えてくれるよ~!」


(なに、その羨ましい環境!!でも......)


 土田と一緒のファミレスでのバイト生活は、大いに憧れるが、改めて現実的に考えると、不可能の3文字が澪に重くのしかかって来た。


「そりゃあ私だって、出来る事なら今すぐにでも、そこでバイトしたいけど、現実的にはムリ!今でもやっと授業に付いていってるのに、バイトなんかしたら、全教科赤点覚悟になる~!」

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