第14話 予期せぬ苦手な対面

「それよりさ、あっち見て、澪!」


 急に大声を出して、目を輝かせる那知。

 このような那知の好奇心丸出しな素振りは、何か良からぬ気配がするのを否めない澪だった。


「土田君.....」


 思った通り、進行方向側に、土田がいた。

 それも、1人で歩いていたわけではなく、その横には、大人びた私服姿だが明らかに見覚えの有る女子が寄り添っていた。


(あれは、私服姿だから、誰かと思ったら、井上さん......)


 その女子は澪のクラスメートで、派手メイクで目立つ一軍女子の井上美依いのうえみよりで、以前、苗字を呼ばれたと勘違いし、思わず振り向いた澪を罵ったグループの1人だった。


(土田君、どうして、休みの日なのに井上さんと一緒なの......?まさか、この2人って......)


「那知、あっちから行こうよ!」


 もう数歩ほど歩くと交差点という所で、澪が那知の腕を引っ張って、無理矢理右折させようとした。


「何言ってんの、澪!ここは、ハッキリさせるところだから!」


 容易く形勢を変え、那知が澪の腕を引っ張り、グングンと真っ直ぐに進ませようと歩いて行った。


「イヤ!だから、土田君達と鉢合わせはムリだって~、那知~!」


(土田君が、井上さんと歩いてるのを見るのも、2人がどういう間柄なのか、その真相を知るのも、今はまだ覚悟出来てないのに!どうして、こういう時になると、那知って、いつも挑発的な行動に出るの~!信じられない!私の方が体重は有りそうなのに、馬鹿力だし!)


 外見上は、女でも十分通用する華奢な体つきの那知だが、元々は体育会系で、澪は力では叶わず、ずるずると直進させられていた。

 土田達に近付くと、さすがにその時点では抵抗するのを諦め、動きが不自然にならないよう、那知と並んで歩いた澪。

 先刻まで、那知に向けられていた嫉妬心が、まさか次の瞬間には井上に向くようになるとは想定外だったが、彼らの前では極力、自分の気持ちを顔に出さないように気を付けた。


「あれっ、園内さん、よく会うね。今朝は、なっちゃんと?」


 そう言われ、前回、土田と会った時の男子高校生姿の那知と一緒にママチャリに乗っていた情景が、また澪の頭で再現された。


「うんっ、そうなの!朝早く起きて、買い物行ったの~!ツッチーは、もしてして、デートなの?」


 自分に聞かれたかのように、キャビキャビとした声で答えた那知。


(ちょっと、那知、今のは私が土田君に聞かれていたのに!おまけに、そんな事をいきなり土田君にストレートに尋ねるとは......これで、もし答えがYesだったら、もう私、どんな顔でいればいいの?)


 澪の気持ちも考えず、土田達を冷やかした那知。


「違うよ!今、一緒の塾の帰りで、井上さんに数学の分からない所を聞かれていただけだから」


 誤解されないようにキッパリと言い切った土田。


(......なんだ、そうだったんだ。一緒の塾の帰りだったんだ~。良かった~!)


「ツッチー、頭いいもんね~!でも、ホントに、それだけなのかな~?」


 探りを入れるかのように、しつこく土田と井上の顔をチラチラ見た那知。


「土田君、誰なの、この子?」


「僕のバイト仲間で、園内さんの妹さんのなっちゃん」


 土田のその言葉で、やっと那知の隣にいる澪の存在に気付いた井上は、急に、声高に笑い出した。


「な~んだ、園内さんって、私のクラスのボッチじゃん!」


(あ~、土田君の前で「ボッチ」って言われた、ショック......あの一番知られたくない苗字のトラウマも、この後、知られてしまう流れになりそう......)


 井上に嘲られた澪は、悔しくて顔を上げられずにいたが、そんな澪の様子を見兼ねた那知と土田が、井上を睨み付けた。 


「井上さん、そういう言い方は止せよ」


(土田君、私の事を庇ってくれたんだ!嬉しい~!)


「何よ、2人とも?あっ、それより、さっき土田君が言っていたバイト仲間先の可愛い子って、もしかして、この子の事なの?ふん、何よ~、ちょっとくらい可愛いからって、そんなイイ気にならないで!土田君と私、確かに今は、塾が一緒なだけの関係かも知れないけど、この先は違うから!しっかり覚えてて!」


 敵対心むき出しで、那知を睨み返した井上。


「そういう事ですか~?はいはい、頑張って下さいね~!」


 妹と紹介された以上、年下風に「ですます」口調で明るく返した那知に、イライラしながら、そっぽを向いた井上。


(那知は、スゴイ......井上さんの嫌味に、へっちゃらで嫌味を返せて。私なんて、何か言われたら、いつも困って言葉を詰まらせてしまうだけなのに......)


「2人とも、何だかゴメンな。したっけ......」


 井上の剣幕に申し訳無さそうな声で、頭を下げて土田が言った。


「うん、またこの後のバイトでね~、ツッチー!」


 井上を挑発するように、わざとバイトという言葉を大きく言ってから、土田を愛称で呼んだ那知。

 そんな那知を睨んでプイッと顔を背け、わざと土田にさっきより近付いて歩いた井上。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る