第11話 洋服選び
いつもの癖で、しばらく布団の上で膝下をバタつかせていた澪だったが、ふと考えが沸き起こり、足の動きが止まった。
(よくよく考えてみたら、土田君が昨日からツイート更新してないのは......もしかして、私の事を意識してるせいなんじゃないかな?だって、タイミング的に考えたって、私と第二次接近してから更新が止まっているって事で、ピッタリな気がする~!土田君も、バイトで知り合った那知の姉が、まさか私とは知らないまま、昨日たまたま家に来て、思いがけず遭遇したんだもの!土田君の頭の中でも、私と同じように、きっとファンファーレが鳴りまくっていたに違いないの!高校でもクラス違うのに、ちゃんと私の事を見かけていて気付いてくれていたようだし、土田君も私をずっと気にしていたに違いない!)
......と自分に都合良く妄想が膨らみつつも、一瞬、首を傾げた澪。
(......あれっ、だとしたら、初対面の中2の時の出来事は、どうなるの?私は、しっかり鮮明に一字一句暗唱出来るくらいに覚えてるし、あれが初恋として揺るぎようのないポジションを占めてるのに!もしかして、土田君の方は、そのWクモの出来事は忘れてしまってる......?それって、かなりショックなんだけど......)
悲観的になりかけたが、首をブンブン横振りした澪。
(過去が何よ~!例え、その中2の初対面の事を土田君が忘れてしまっているとしても、今、この瞬間の一つ一つこそが大事なの!今、こうして、大きなチャンスの波が私に押し寄せてる今こそ、勝負時なんだから!幸い土田君も、私の事をしっかり意識してくれてる!向こうからの笑顔での挨拶が、その証拠!この機会に、私、園内澪は、土田澪に向けて、一歩ずつ着実に前進せねば!)
すっかり気持ちを取り直し、【mio】で、再びTwitterにログインした澪。
『もしかして、私達って、同じ想い~?』
そうツイートした時には十分満足していた澪だったが、まだまだ物足りなく、今後の進行についての妄想も不可欠だった。
(土田君も私を好きだとしたら、さっきの那知と自転車2人乗りのシチュエーションは、絶対にショックだったはず!私だって、もし土田君が彼女と歩いていたら、そんなの哀し過ぎるもん!人知れず想っていた女子に、もちろんそれは私の事だけど、急接近した後で、あんな不意打ちに遭ってしまうなんて、いくら土田君でも、メンタルもつかな~?Twitterも何も更新されてないし......)
土田に同情し、那知の悪巧みに乗せられた事を申し訳なく思わずにいられない澪だったが、すぐに考え直した。
(いやいや、土田君に限って、私と同じヤワな精神構造しているわけない!......あんな爽やか少年が、それしきの事くらいでウジウジしていたら、私が引いちゃう!私には都合良く、一緒のバイト先に那知という私の身内がいるんだから、まずは、那知に確認するはず。那知とは、従弟という事で話はついているから、苗字も一緒のままで違和感も無いし。バイト先で、土田君は真相を確かめて、那知が私の彼氏という疑惑は解決して、また、あの爽やか笑顔で、私に登下校時に挨拶をしてくれる日々が始まるの~!めでたしめでたし......っと!)
『スッキリしたし、勉強頑張るか~!はぁ~っ、恋する乙女は辛いわ~!』
【mio】で呟いた後、予定より随分遅れたが、宿題にとりかかった澪。
その週末の土曜。
いつもなら、ノンビリしているはずの午前9時過ぎに、那知の部屋をノックして入った澪。
寝息を立てて爆睡している那知を起こそうとして、羽根布団を引っ張った。
「那知、まだ寝てたの~?今日、洋服買いに行くって、約束してたのに!」
「昨日、遅くまで動画見てたから、眠い~。面倒臭いから、服なら、澪のでいいよ~」
眠そうに、羽根布団を澪から奪い返して、寝続けようとする那知。
「私の室内着なんて、ダメだよ~!そもそも、那知とはサイズ違うんだし。私が、那知に似合うの見立ててあげるから、任せなさい!」
既に前夜のうちに母親と交渉し、那知の分の洋服代を貰っていた澪。
「......分かったよ、眠くて怠いけど。これから起きて準備するから、澪の部屋で待ってて。女装は30分くらい支度にかかるから!」
那知の返事で、那知のあの仕上がりまで30分ほど要する事を知った澪。
(30分って......化粧込みの女装なのに、那知って、意外と時間かからないんだ......起きてからの支度で、私なんて、別に化粧とかしなくても、30分以上はかかるんだけど)
澪が時間をかけるのは、那知とは少し事情が違っていた。
どれがいいか、何度も着替えたり、髪型変えたり、髪型変えると、また洋服との相性を考えて着替えたり、食事を食べ過ぎていてウエストが苦しくなっていたら、別のスカートにしたりして、ただ洋服を選ぶだけでも時間が同じくらいかかるのだった。
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