第10話 勘違いされた?

「ツッチー、やっぱり気付いてなかった」


 土田達の横を自転車で通り過ぎてから、那知がボソッと言った。


「そりゃあ、今の那知は制服男子だし、かなりメイク顔と違うし。毎日顔合わしてる私だって、昨日、那知が話すまで気付けなかったし。たまにしか会わない土田君が、那知だって事、気付くわけないよ~!今までだって、誰かに気付かれた事有る?」


 一緒にいるのが那知だと土田に気付かれず、ホッとした澪。


「そう言われてみると......今まで、気付いた人いなかった!」


 ドヤ顔の那知。


「それよりも、問題は......!」


「澪の彼氏だと思われちゃった事だね!」


 土田達に勘違いされ悲観的な澪と違い、那知はケラケラと面白がっていた。


「絶対、誤解されてる~!那知のせいだから!もう、どうしよう!まだ親しくなってないのに、私、どうやって、土田君の誤解を解いたらいいの~!」


 困った様子で、ママチャリ運転中の那知の背中をバシバシ叩く澪。


「危ないから、澪、落ち着いて!」


「だって~、こんな状況で落ち着ける?せっかく、今朝、土田君の方から初めて笑って挨拶してくれたばかりなのに、もうダメだ~!」


「もうツッチーと挨拶し合う仲になったんだ!そういえば、さっきもしてたね、やったじゃん!」


 その進展ぶりを澪と同様に、喜んでいる那知。


「それ、本気で思ってる?ねぇ、聞きたかったんだけど、那知って、土田君の事、どう思ってるの?」


 今朝からずっと、その事が気になっていて、確かめずにはいられなかった澪。


「どうって?フツーにバイト仲間だよ」


 戸惑う事無く、那知が即答すると、まだ疑わし気な澪。


「ホントに?私に協力するって言って、本当は、那知がただ土田君に近付きたいだけなのと違う?」


「まさか~!それは無いって!ツッチーは僕と違ってガタイいいから、バイトの時に重い荷物とか持ってくれたりして頼れるし、好きか嫌いかって聞かれたら、別に好きな方かも知れないけど」


 特に気持ちを隠していなさそうな那知に、やっと安心した澪。


「それならいいけど!バイトの時、さり気なく、そういう話題になったら、さっきの誤解を絶対に解いておいてね!だって、那知のせいなんだから!」


「了解!でも、どういう設定にしておく?」


 思い付く無難な路線は1つくらいしかなかった。


「ホントは、弟って設定が良かったけど、もう妹って事になっているし、その上、弟もいるっていうのは、バレた時に厄介だから、近所に住んでいる同い年の従弟って事にしておこう」


 土田の前で、もしもの時にボロが出ないよう、那知と口裏を合わせる事にした。


(従弟って事にしたものの、土田君の誤解が解けるまでは、憂うつ~)


 自分のこんな気持ちなど知る由も無く、原因を作った能天気な様子の那知を恨めしく感じた澪。


 家に着くと、いつも通り、すぐパソコンを起動し【mio】でTwitterにログインした。


『同日に第4次接近するも、挨拶と大誤解で、とても哀しい......』


 ツイート後に、すぐ【mokk】の方でログインし【クモノスケ】のツイートをチェックするが、昨日から何も更新されてなかった。


(私も昨日から今日にかけて、信じられないくらいの急進展と驚きの連続だから、アップセットしてたし、土田君も雲をチェックしてる心境じゃないのかも?......やっぱり、私達って、そういうところもシンクロしてそうだし、相性良さそう!だって名前も、土田君は空で、私は海っぽくて、お互い自然系同士だもん!土田澪になっても違和感なんて全く無いし、自然な感じ!)


 そう妄想が進みつつも、やはり先刻の土田達の誤解が重く心にのしかかる澪。


(それより......問題はアレよ!)


那知と2人乗り自転車で、土田達の横を通り過ぎたシーンが、澪の頭の中で何度も再生される。

 感情を抑え切れず、近くにあった、パンダのぬいぐるみを那知の代わりにバシバシと両手で叩きまくる澪。


(土田君、絶対、那知が彼氏だって誤解している~!せっかく、向こうから普通に声かけてくれるようになったのに~!よく分からない那知の好奇心のせいで、台無しになってしまった~!)


 澪は、着替え終えてから、今日もまた勉強する気力も無くベッドに平伏した。

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