第9話 まさかのライバル

 思いがけない土田からの挨拶と笑顔で、夢見心地の状態で学校の玄関に入ると、リュックからスマホを取り出し、【mio】の方でTwitterにログインした。


『初挨拶と初笑顔で始まる最高の朝かな~!昨日の第二次接近記念日に続き、今日は、第三次接近記念日なのであ~る、やったね~!』


 それだけ入力すると、すぐにTwitterからログアウトし、スマホをリュックに戻した澪。

 皆成高校は、他の高校よりも規律に厳しく、教室に入った時点で風紀委員が麻袋にスマホを集めた後、職員室の担任に渡して、そのまま職員室の中で保管され、下校時になると戻される。


 那知の通う盟東高校は、授業中と集会や行事など以外は自由にスマホを使えるようで、いつも昼休みを1人で暇にしている澪にとっては、羨ましい環境だった。


(那知のおかげで、予想外に今朝、土田君の挨拶と笑顔を貰えて良かったけど......那知って、土田君の事をどう思っているのかなって、何となく気になるんだけど)


 昼休みは、弁当を食べ終えると、いつもなら暇を持て余し、1人でガリ勉状態になって机に向かっている澪。

 今日も、いつも通り教科書とノートを机に広げつつも、今朝の土田との遭遇時の興奮や余韻が続いている状態で、頭の中は妄想で占拠されていた。


(那知は、私の為に接近したって言ってたけど......考えてみれば、那知って、バイって事をカミングアウトしてたし......バイっていうと、那知が土田君を想っている可能性も有るってわけで......もしも、そうだったら、私、那知とライバルって事になるの?)


 一瞬そんな事が脳裏を掠めたが、朝の土田の笑顔の挨拶の破壊力が、全ての悪しき妄想を良き方向へと促していた。


 その日の放課後は、担任に呼ばれ、職員室で提出書類の書き漏れを訂正させられていた澪。

 いつもの下校時刻から遅れた事も有り、嬉しい偶然はそう長く続かず、下校している生徒達の中には、既に土田の姿は無かった。


(まあ、急展開しまくったから、ちょっとくらいは心の休憩の有る方が、私にはほど好い感じかも。あんなドキドキする事ばかり続いたら、私の心と身が持たないもんね!)


 ガッカリな気持ちと、安堵の気持ちが入り混じりながら歩いていると、背後から自転車の急ブレーキ音がして振り返った。


「澪~、乗ってく?」


 皆成高校より2㎞ほど遠い、盟東高校の紺ブレザー姿でママチャリに乗っている那知。

 こうして、たまに那知のバイトが無い時の下校中に、澪は拾ってもらっていた。


「あっ、那知、良かった~!今日は、やけにリュック重かったから助かる~!」


 那知のリュックが既に入っている大き目のカゴに自分のリュックも無理やり詰めてから、後部の荷台に横座りした澪。


「なんか重くてチャリが進まないんだけど、澪、また太った?」


「だから、荷物が重いんだって~!そんなデリカシーに欠ける事を女子に向かって言ったらダメなんだから!」


 姉らしく、那知を叱った澪。


「あっ!」


 上り坂道でもなかったというのに、自転車の速度がまた一段と遅くなったのと、那知の叫び声で、何か異変を感じずにいられない澪。


「どうしたの、那知?」


 5mほど前方の学生服姿の3人が、土田と友人達という事に気付いた2人。


「えっ、土田君達だ~!マズイよ~、那知。私、降りる!」


「いいよ、降りなくて」


 那知は、澪が降られないように、わざとスピードを上げ、土田達に向かって、挑発的にベルを鳴らして、通りやすいように退けさせようとした。

 

(えっ、何考えてるの、那知!今、男子の姿しているのに!ベル鳴らすとか、ヤバ過ぎ!)


 ベルの音で、土田達は一斉に振り返り、澪と那知を見た。


「あっ、園内さん、さよなら」


「ごめんなさい、さよなら」


 土田は、男子用の制服姿の那知に気付く事なく、澪にだけ挨拶し、澪もベルを鳴らして通り過ぎる件を申し訳なさそうに挨拶を返した。


「あれっ、土田、今のって、今朝の女子じゃん!」


「他校生の彼氏かよ~」


 土田の友人の声が背中に聞こえてきて、ハッとなった澪。

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