第12話 女性衣料の売り場にて

 那知は予告通り、30分経過しそうな頃、この前のようなとびっきりの美少女に変身して現れた。


(スゴイ、那知。30分で、ちゃんと仕上がっている!)


 2人ともワンピース姿の自転車2人乗りで中心街まで行くのはきつく、電車で行っく事にした。


(まだ那知の女装って、私は見慣れないけど、周りの人達からはそうでもないみたい.....私が身内びいきでヨイショしたいわけではないんだよね。人目を引く美少女なのは誰が見ても確かみたいで、さっきから周りの男の人達の目線が、那知に向けられているのが気になる~!男の人だけでなく、女の人達もつい見てしまってる......人間って、同性でも異性でも、本能的に美しいものに吸い寄せられてしまうものなんだよね~。私なんて、ずっと女として生きて来たのに、こんな風に注目される事なんて、ただの1度も無かったのに。何だか、私が並ぶと、哀しいくらい引き立て役になっているような......)


 そんな澪の気持ちには気付かない様子で、周囲の視線など気にせず、眠いのに起こされた事でアクビを連発している那知。


(こんなアクビしている姿まで、可愛いなんて、那知って、ずる過ぎ......)


「もしかして、何か変かな......?」


 あまり周りを意識していなかった那知も、だんだんと周囲の自分に集中している視線には気付いてきたようで、澪に確認してきた。


「ううん、大丈夫、変なんかじゃないよ......」


(変だから視線集めているわけじゃなくて、周りは男も女も、那知に見惚れているだけ。でも、それ言ったら、那知がつけあがりそうだし、女として悔しいし......だから、私からは言いたくない!私、いつからこんなヤキモチ焼きになったんだろう?男の那知に、こんなにヤキモチ焼く日が来るなんて思わなかった!)


 電車がトンネルに入る度に、窓ガラスが暗くなって、鏡のように映る2人の姿に、溜め息をついてしまう澪。


(あ~あ、ホントに那知を引き立てているような感じしかしない!これじゃあ、土田君は、那知の方を好きになってしまいそう!)


 そう思って、ハッとなった澪。


(気付かなかったけど、よくよく考えてみたら、その線も有るかも!だって、那知は女装して、「なっちゃん」なんて、ちゃん付けで土田君に呼ばれているし、私は、苗字+さん付け呼びで、那知との差が既に有るし......土田君が法事で3日間も学校を休んでいたのに、家にまで那知の雑誌の忘れ物をわざわざ届けてくれたり......)


 一度考えだすと、どんどん可能性が濃く思えて来た澪。


(ううん、土田君は、私と同じように、高校で毎日、私の方を見ていてくれたはず!現に、第二次接近日以降は、土田君から私に笑顔で挨拶してくれるようになったんだから、そう思って大丈夫なはず!)


「澪、顔ヤバいよ!」


 妄想して百面相のようになっていた澪の顔が、トンネルの時に、暗くなったガラスに浮かび上がり、那知は笑いながら忠告せずにいられなかった。


「あっ、ホントだ!」


 窓ガラスに映る自分の変顔を見た澪は、両手で自分の頬を叩いた。


(私って、妄想している時とか、本当に感情が顔にすぐ出てしまうんだ~!こんなニヤケ顔していたら、周りにも怪しまれてしまう!気を付けなくちゃ!)


「ツッチーの事、考えていた?」


 ニヤニヤしながら澪の腕を肘で突く那知。


「そんな事ないからっ!」


 那知に頭の中を見透かされたようで悔しくて、澪は口を尖らせた。


 デパートの女性服売り場は、休日だがまだ午前中は空いていた。

 澪は自分の体形隠し向いてそうなフェミニンなロング丈の花柄ワンピースを那知の前で合わせてみた。


「それって、いかにも、澪の趣味って感じ」


(私の趣味だけど、こうして合わせて見ると、那知の方が似合いそうなのが悔しい!同じ系統の服を着て、那知に横に並ばれたら、断然、私が不利になる!)


 自分の好きな路線の衣類でも、那知の方がキレイに着こなせて複雑な気持ちになり、カジュアルな服の店に入ってみた。


「そうそう、こんな感じ~!バイトの時、ママチャリ使うから、動きやすいタイプがいいんだよね~」


(那知がその路線で選んでくれて良かった~!私と趣味かぶるのだけは、どうしても避けたかったから!)


 長袖Tシャツ、ポロシャツ、パーカー、ガウチョ、タートルワンピース、膝丈スカート、スパッツなど、4日分買い込むと、かなりの量になり、紙袋4つを2人で分けて持った。


「服って、けっこう重いな~!」


「あれっ、那知って、女装の時には、女口調で女声じゃなかったけ?」


「重過ぎて、女装してるのをすっかり忘れてた!」


「歩き方も、大股過ぎる!」


「そっか~、気を付けないと」


 慌てて歩幅を狭めた那知。


(こんな調子だと、私がうっかり口走ってしまう前に、那知の方からボロが出て、男子だって事がバレそう!)


「もっと、女装している自覚持たなきゃ!せっかく、今はお母さんも、応援してくれている感じなんだから!」

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