第2話 弟、那知の趣向

 土田が高校を3日も欠席し心配していたが、土田自身が病気でも怪我でもなく、愛媛の親戚宅で法要中だったという情報に安堵した澪。

 ワンピースが見付からず、帰宅時のセーラー服のままでいる事をふと思い出し、那知の部屋へワンピース探しに向かった。


 那知も澪と同様に帰宅部ではあったが、澪とは違う理由が有った。

 高校入学後から、那知は近所のファミリーレストランでアルバイトを始めていた。

 その件で、澪は仲良しの女友達と食事に行き難くなったと、当初困っていたが、気付いた時には、澪の周りには食事やお茶に行くような友達は、いつの間にかいなくなっていた。


(あ~あ、自由な那知と違って、友達もいなく、勉強に追われまくる私の青春って、一体なんだろう?)


......と沈んでいた日々も有ったが、Twitterで土田と相互フォローを達成して以来、それまでとは違いポジティブ思考が出来るようになった澪。


 那知は、休日や学校帰りにそのままバイトへ行く事が多い。

 今日は、玄関に那知の靴が有るから、バイトは休みらしい。

 那知が部屋にいると思い、一応ドアをノックをしたものの、那知に返事をする隙を与えずにドアを開けた澪。


「那知、入るね。ねえ、私のワンピース知らない?」


 那知のベッドに腰かけていたのは、澪のワンピースを着た、同じ年頃のビックリ眼顔をした女子だった。


(えっ、誰? 私のワンピースを着ているんだけど......)


 澪が少しぽっちゃり気味なのに対し、その女子はスラリと細身なせいか、同じワンピースを着ているとは思えない印象だった。

 シンプルなワンピースを着ていても映える、ナチュラルなメイクの目鼻立ちの整った美少女で、澪を見て、まだ戸惑っている様子。


「びっくりした~! 那知がまさか女の子を連れ込んでいたとは! しかも、こんな可愛い子! どうして私のワンピース着てるのか、すごく疑問だけど......」


 土田との相互フォロー達成以来、ネガティブ思考を卒業したつもりでいた澪だが、この有様を目にし、かなり那知に対し苛立ちを覚えた。


 こんな美少女を放っておいて、那知は、どこへ行ったのか?

 見回しても、狭い部屋に那知の姿は確認出来ず、廊下に出た。


(トイレ? シャワー? そんなわけないか......でも、私のワンピースを、彼女に着せていたし......女の子を連れ込んで、まさかと思うけど、ここでいかがわしい事をしてた......?)


 那知が見つからないうちに、どんどん想像だけ膨らむ澪。


(トイレにもお風呂場にもいない......もしや、彼女を残して1人で、いかがわしい物を買いに行っているところ......? ヤバイでしょ! 私達、まだ高1なのに! あの彼女だって、私と違って随分と化粧は上手だけど、多分、同い年くらいだよね......)


 澪と那知は二卵性双生児で、性別も違うが、外見も性格も全く似てない双子。

 澪と違い、那知は社交的で友達も多く、運動神経も良く、眉目秀麗で女子からも人気が高く、高校生生活を大いに謳歌した。

 澪は、随分以前から、そんな那知が羨ましく思える事が多々有った。

 那知もまた、自分に無いものを持つ澪を羨ましいとは、よく言っていたが、社交辞令で言っていると、その時までは思っていた。


 そう、その時までは......

 

「さっきから、すごい剣幕で、どうしたの、澪?」


(えっ、那知の声......?)


 その聞き慣れた声は、階段の上から澪を見下ろしているワンピース姿の美少女が発していた。


「まさか、那知......なの?」


 薄化粧しているが、その美少女をよく見ると、顔のパーツといい、背格好といい、確かに、那知と一致していると気付いた澪。


「やっぱり、澪、気付かなかったんだ~! 良かった~!」


 してやったりの上機嫌な顔で、手を叩いている那知。


「驚かさないでよ! いきなり、彼女連れ込んで、どこかに買い物に行っちゃっていたのかと思った! ......で、何なの、それ? 学校祭とか、ハロウィンの変装用の予行練習していたとか?」


 那知が女の子を連れ込んで無かったと知り、ホッとしたものの、考えてみると、那知が女装し、女子の澪ですらしていない化粧をしている事が、かなり衝撃的に思えた澪。


「あれっ、一昨日の夕食の時に話したけどな。澪、聞いてなかったの?」


 那知が意外そうに言い、その時の事をしきりに思い出そうとする澪。

 父親は数か月前から、宮城県に単身赴任中であり、家族は揃っていたとしても3人だけ。

 その日は、那知のバイトが休みで、仕事を早く終えた母親と久しぶりに3人で食卓を囲っていたのは思い出したが、肝心の話の内容までは思い出せない。

 というのも、その日から土田が学校を欠席していた事が頭の中の大半を占め、残りは空腹ゆえ食べる事に集中していたのだった。


「ゴメン、頑張って思い出そうとしてみたけど、やっぱり思い出せない! 何だったの、那知?」


「そういえば、お母さんは卒倒しかけたけど、あの時、澪はスルーしてたもんな~。せっかく、勇気奮って、カミングアウトしたのに!」

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