第7話 極秘指令
その翌日のこと。
楓は午後の店舗視察に出る前に、物流倉庫に寄った。
昼休憩の時間を合わせて、ランチを神崎奈々子と一緒に食べる予定だったからだ。
奈々子は明日から有給休暇を取得する。
もともと、奈々子は退職を予定していた月末から逆算して、2週間前に入ったところで有休と特別休暇を消化する予定だった。その予定を聞いていた楓は、休暇に入る前に、と誘ったのだがなかなか予定が合わず今日になったのだ。
昨日連絡を取った時、奈々子は具合が悪そうで、楓は調子が悪いなら病院に行った方が良い、ランチはパスするとは助言したのだが、今日は体調は元に戻ったのことで、一緒にランチをしながら話をした。
普段と変わりなく、しかも別れ際に奈々子からとっておきの秘密を打ち明けられたので、これで良かったのだと、彼女の退社について楓は心に収めた。
奈々子とのランチの後、複数の取引先にちょっとした挨拶をしたあとで本部には予定通り午後4時過ぎに帰ってきた。
問題はその取引先で耳にしたちょっとした情報の方だった。それが、妙に楓のアンテナに引っかかって、楓はすこしだけ過敏になっていた。
課員は、いつもと雰囲気が違う楓を不審に思う。
いつもは「ただいま」と言って簡単に報告してくる楓が黙り込んで帰ってくるときは「何かある」のである。
帰ってきた段階で明らかに何か考え込んでいた。
「平木、宇城、小坂、今井、それから長野、ちょっと顔かしてくれる?」
ピリ、とした雰囲気が起きて彼らが顔を上げ、席を立った。楓が示したのは防音付きのミーティングルームで、楓は呼びつけた5人を中に入れた。
「何かあったんですか?」
ドアが完全にしまったことを確認して、楓は立ったままで良い、と告げた。つまり、長くはならないという話だ。
「ちょっと悪いんだけど、いつも以上にライバル店の動向を気にしてほしい。それも早急に。相手は特定しない、ここ重要ね」
ライバル店の動向に関しては情報が入ればその都度精査して各人から課長や課長補佐へ、そこから室長である藤堂と部長である楓に情報共有されている。だから先日野田が口にしたニコニコドーや影山エステートの動向は不動産に強い宇城チームから報告が入っているし、仕入れ先から情報が入ったと平木チームから報告が上がっている。当然、楓自身のネットワークからも情報が入っていた。
だが、今回呼ばれたメンバーはそれぞれ得意分野や独自のネットワークを持っている、情報収集メンバーたちだった。
「もちろん、このあと藤堂室長はじめ、課長と補佐には声をかけるけど、精査しない情報も含めて挙げてほしい」
「特定の相手ではない、ということですか?」
「特定はしない。今特定するのはリスクがあるから。ニコニコドーとランニングを中心にして情報が動いているのは確かなんだけど、気になるのは、山木町と土地がだぶついている安川地区に関して、複数の会社が動いているという情報が入ったの」
「安川ショッピングセンターのほかに、ですか?」
「そう、土地探ししているという動きがあったらしいの」
「それ、ランニングの出店情報だと思うんですけど。今改修中で、えーと、安川ショッピングセンターの、元は100円ショップのあった場所です。アパレル部門が来るとは聞いていますけど」
長野がそういった。アパレルは彼女の実家関係もあって情報が入りやすい。
「確かに、関西の会社が土地を探しているなんて話はちらちら聞くけど、そのあとの詳しい情報は聞いていないな。俺、確認しますよ」
宇城がうなずく。
「そういうわけで、情報収集をお願いします」
「了解しました」
「報告はその都度私に、精査する必要はない」
みんなが頷いた。それで楓が反応していた理由が分かって、そうだよな、と納得がいく。ライバル店は、いない方がうれしい。
「以上解散」
それで全員が散ってゆく。一度デスクに戻った楓はタブレットとファイルを手に、今度は室長の藤堂、課長の岩根と白鳥、二人の補佐の横山を呼びつけた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます