第39話 どんな拠点にしたいか
-side エリク-
城作り--それは、国家にとって一大イベントである。自らの権力を国内外に誇示するために権力者が、世界屈指の有名なデザイナーや建築士を雇い、圧倒的な美を追求して、建設する公共事業。
エリクシア王であるエリクにとっては、失敗できない作業である。必然的に、城を建てるための、計画会議は非常に盛り上がる。
『なんか、どうせなら、圧倒的なもの作りたいよね。アトラニア王国みたいな。行き当たりばったりで、作って見る気はない?』
「いやいや、あんな凄い王国、人間業では普通に無理だのう。まずは、他の国のお城を見て回って、決めるべきだろうて」
「マーチャルトにいる僕の知り合いで、世界的に有名な建築士がいるよ、彼に頼んでみるのとかは、どうかな、エリク?」
「俺は、割とデザインはどうでも良い」
『「「よくない!!」」』
「もう、お前らが代わりに王やれよ」
「だって、僕は王子だし」
『私は創造神だから無理』
「わしも既に竜王ぞ」
“我も群れの長なので出来ぬ”
「確かにそうだった」
……正確にいうと、外野が勝手に盛り上がっているだけで、芸術的な作品というものに、エリク自身はとてつもなく興味がない。
極めてリアリストな少年であった。
それでも、エリク自身にも、城を建てる上での、ここだけは外せないだろうという要素はある。美的な事ではなく、実用的な面において、エリクは城に以下の3つの機能を付けたいとも考えている。
①高い壁、塀、塔などを建て、外敵から国を守る。
②役所や裁判所の機能を作る。
③市場、宮廷、劇場、美術館などを城内に作り、文化や商業の中心地としての機能を作るために行う。
この事を、城が持つべき基本的な外せない機能は絶対に抑えるべきだという事をその場にいる他の人たちに伝える。
『防衛施設や役所は当然として、商業の中心としての城かー、考えた事無かったね』
「城下町がある国とかはないのか?」
「城下町?なんだい、それは。王子として、様々な国にいたけれど、城下町という言葉は、聞いた事ないね。大きい城がある周りの地域が栄える事があるけれど、そういう意味かい?」
「大体そんな感じ。だけど、その栄えさせるのを、自然に行うのではなくて、意図的に栄えさせるという方法を取るんだ。税金を他のところよりも下げたり、規制を取っ払ったりする」
「ほーう。よく考えられている政策だのう。確かに人が集まるということは、経済的には、とても効率が良いからのう。意図的に城下町に人を集める事によって、産業や技術、文化を発展させる。地方は都市が発展していれば、それに伴って、自然に発展するからのう。実に効率が良い方法だ」
「流石、トール。やりたい事はまさにそういうことだ。一般的な、政策だと、人を分散させる事にシフトしがちではあるが、経済的には、むしろ非効率になりがちだからやめた方が良い。その分、技術力や生産性を上げることによって、都市に流入した労働者の分の労働力を補うという作戦だ」
『まだ、人口の少ないエリクシアにとっては労働力を分散することは悪手ではあるからね。少ない労働力をいかに活かせるかを考えたわけだ』
「ああ。先のことは分からないが、ある程度都市が発達したら、地方へ難民も受け入れやすくなる。今は人を受け入れる前の土台づくりということだ」
セシルに聞いた話だと、リンハルト同盟に所属している各国は難民を受け入れるために、準備しているそうだ。しかし、難民を受け入れることはそれ相応のお金もかかるし、受け入れすぎると、国内からの反発も大きくなる。マスク王国は腐っても歴史のある国なので、人口は少なくない。全ての難民を受け入れる事は現実的ではないだろう。
そんな時にエリクシアが手を貸せば、リンハルト同盟に恩を売れるし、足りない人手を確保しながら勢力も伸ばせる。エリクにとっては良い事ずくめである。
『なるほどね。まあ、エリクの考えている事はよく分かったよ。それはそれとして、デザインはどうする?昨日、色々な城を参考にしてきたんだけれど』
「我はこれが良いのう。出来上がった時、一番美しそうだのう。左右対称--シンメトリーの作品が一番美しいのう」
「僕は、デザイン的には華美すぎないこれが良いかな。攻めすぎた建物は逆に他国から反感を買う恐れもあるからね。華美すぎないでちょうど良い」
“なら、我の趣味は--”
『いやいや、だったら--」
「いやいやいや、だったら--」
……あ、これは長くなるやつだと悟ったエリクはその場から去るのであった。
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