第7話 未知のルート
-side エリク-
中を開くと、煌びやかな玄関が出迎えてくれた。大粒のダイアモンドがこれでもかと散りばめられたシャンデリアに、高級そうな赤い絨毯、中央には尋常ではない力を感じる剣が飾ってあった。
「うおーー。流石にすごいな。(趣味はちょっと悪いけど)」
「うむ。あやつがすごいと思ってはいたがまさかこれほどの住処を作っていたとは。(まあ、我の趣味にはちょっと合わんが)」
「え?これ、英雄レオンが自分で作ったの?」
「ああ。やつは、自分の住処は自分で作ると言って、わずか3日間くらいでこの建物を作っておった」
「ふーん。(流石は創造神だ)」
「……っと、神器はあれだな」
トールはささっと神器を回収する。
「(これで、身の安全だけではなく、衣食住の確保までできたも同然だ。きっと、屋敷の暗号を解けなくても俺のために衣食住くらいは用意してくれそうな感じではあったが、大義名分は大事だからな。運が良かった。
ところで、さっき創造神がスペシャルなものを用意したと言っていたがなんのことだろうか)」
エリクは、あたりを探してみる。
「……?どうしたエリク。キョロキョロして」
「いや、ね。ここに俺のために英雄レオンが用意したっていうスペシャルなものがあるらしくて」
「ああ?そんなもんこの建物に決まってんだろう」
「えー。それだけかなあ」
「何言ってんだ?建物だぞ、建物。それも動く」
「動く?」
「ああ、この建物は持ち主の意志に合わせて動くのだ。あと、他にも色々な設備があるぞ。
目にかざすと遠くのものがくっきり見える魔道具に、魔物を自動で捕獲する魔道具、さらに捕獲した魔物を肉とそれ以外の素材に分離する魔道具など多種多様だ」
「それはすごい」
「であろう?まあ、我々にはいらないものばかりだから全部お主にあげようというわけだ」
「いらないの?」
「考えてもみろ、移動はこの屋敷で移動するより、飛んだほうがはやい。魔物は自分で捕獲して、肉だけに加工して食べるまでもなく、他の素材ごと火で焼いてかぶりつけばいいだけだ。遠くを見る必要もわざわざないしな、それだったら、近くまで飛んで見たほうがはやい」
どうやら、ドラゴンにとっては本当に要らないらしい。
「じゃあ、遠慮なくもらうね。人族にとっては必要なものばかりだし」
「ああ、ちょっと待ってろ。ほれ、これが操縦の魔道具だ。レオンが使ってたのを何回か見たことがある」
「ほー。……って」
見ると、プロコンがあった。どうやら、プロコンで操縦するらしい。
「ここが、電源か。ほい」
スイッチを押す。すると、『もぐもぐ?ん?あー!トールに転生者!』と、ホログラムで黒髪黒目の美形の人が現れた。性別はわからないが、とにかく美形だ。
「お主。生きておったのか」
『うん、まーね。そこにいるってことはトールが転生者を案内してくれたか。ナイス』
「全てお主の計算通りということか」
『うん。トール、変わり者大好きだし」
「知り合いか?もしかして、創造神とか?」
『正解。私がこの世界の創造神だよ。ちなみに、性別もわからないと思うけど、実際にはないよ』
「お主、創造神だったのか。どうりで……」
「(まあ神だし、確かに性別はないか)」
『話が早くて助かる。ところで、さっき私のこと趣味悪いとか思ってなかった?』
「((……ぎくりっ))」
「「い、いやあ。なんのことかな」だ」
「((あ……。よかったー。どっちも思ってて))」
『ふっふっふ。どーせ私なんて。ふっふっふ』
「(やばい、この感じ、また変な記憶刷り込まれそう……。耐えろ。俺)」
『無駄だよ。神力の前に地上の生物は無力……。ふっふっふ』
「……って。こんなところで貴重な力使うなーー!!」
『た、確かにそうだった。もう遅いけど』
遅かったようだ。エリクに新しい謎のトラウマが埋めつけられた。
『まあ、それはともかく、君には色々言いたいことがあるから来てもらったんだ』
「……?なんだ」
『まずは、通常ルートを外れたことに関してかな。この世界は確かにスローライフで平和だけどそれでも魔王や邪神など倒すべき敵がいる。ただ、それを君はガン無視して我が道を行くもんだから、こういう風な形で会うことにしたのさ。
本来、神が自ら人間の前に顔を出すってことないんだけどね』
「はあ。俺は好きに生きてただけなんだけど」
『そう、それだよ。君は好きに生きていただけだろうけど、平和主義すぎだね。普通は力を持ったら、なんだかんだみんな戦いたくなるものなんだけどさ。ほら、魔法を使えるって嬉しいことだから、冒険者登録して無双したり、冒険者登録する前から、ドラゴンを狩ったりするのが普通なんだよ。
それで、妻や旦那と子供作ってめでたしめでたしってね。少なくとも君以外の転生者はみんなそうだったし、我々もそういうこと想定していた』
「それ、何人くらい?」
『うーん。50人くらいかな』
「サンプル少なすぎないか?」
『いや、50人いれば十分だと思う。話は戻るけど、君この世界に来てから知識無双ばっかりで、戦いも恋愛も興味ありません!みたいな感じでしょ』
「いや、まあ、本当のことだし」
『それだと、困る。せっかく、異世界人の血をこの世界の人たちに取り入れて、多様性を維持しようとしているのに。こんな無人島に来てのんびりしようとしてるとすっごく』
「はあ……?」
『まあ、というわけだからこの屋敷使うなり、トールに頼るなりして、なんとか人間がいる場所に戻って、恋愛頑張って!前払い報酬として、君の好きなスローライフも送れるようにここの屋敷は超快適な作りになってるから。
あと、魔王と邪神も片付けてくれるとすごい助かる。一応、君は未知のルート選択をしたけど、魔王も邪神はいるしね。君が来たのはこの世界を神視点から見れる、観察ルートなんだろうけど、そんなのは関係ない。じゃんじゃん、通常ルートっぽいことやって欲しい。
それが私からのお願い。じゃ!』
プチン--。言うだけ言って、切れた。
「あやつ、相変わらずだな。」
「いつもああなの?(やはり、傍めいわ……『ふっふっふ…どうせ私なん…』うん、考えるのやめるか)」
「ああ、まあ奴の言ってることは大半聞かなくてもいいぞ。どうせ、お主が魔王や邪神を討伐しなくてもあやつが直接やるだろう」
「(なるほど、過去英雄となったのも、もしかして転生者がバッドエンドになってしまったから自ら討伐したのかな。)正直言って、しばらくはスローライフ送りたい。無視しよう。勝手に前払い報酬払われてもって感じだし」
「うむ。それが良い」
「それはともかく、チュートリアル?も終わったことだし、屋敷を操縦してみるか」
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