第14話《ランク:SS》
地面に当たるほどの
否、この
出会った幼女が真の幼女である確率は、まさに宇宙全体の中の地球ほど小さい。
真の幼女とは与えられて間も無い身体に、この世界の歴史も知らず、能力もまともに扱えない。
遭遇した大体が変身・擬態した
よって現状、たかが女児だからと言って無警戒で近づくのは、フィンリンやマリスといった普通の
途端、ランドは自分の胃が急激に引き締められるのを感じ、嘔吐感を必死に堪えその場にへたり込む。
ランドが女照を旅し、幼体の
「大丈夫?」
心配そうに駆け寄ろうとする幼女だが、その行く手を身体を割ってアイリスが阻んだ。
「アイリス!」
ランドが驚く中、しかし、その行動はもっともであったと言って良いだろう。
一見普通の幼女、だがその小さい手から垂れ下がっているのは、カリム・ダン・クロットの3人分の頭だった。もちろん首から下は無い。
「ッッッッッッッッッッッッッッ!!!」
さらなる追撃に、耐えきれず嘔吐してしまったランド。
しかしやはりか、本番と訓練ではレベルが違いすぎ、元々使えないランドがもっと使えなくなってしまった。
「ソレは、どうしたの?」
警戒心全開で、幼女に問うアイリス。『ソレ』が3人の頭なのは、言うまでも無い。
しかし尋ねられた本人は事の重要性を理解していないのか、何の
「おっきい建物から助けてあげたの。体探してる最中にお婆ちゃんとはぐれちゃって、お姉ちゃん達のお友達?」
まさに、悪気ゼロ。この子が3人を殺したとは考えられないくらい、幼女は純粋そのものに見えた。
すると今度は体調が少し回復してきたランドが、ひとまず誰が殺したのかは置いといて、胸の痛みを押し殺しながら幼女へと告げた。
「その3人は、もう死んでる。体を探して何をしようとしてるのかは知らないけど、静かに弔ってあげよ」
「?、まだ死んでないよ」
さすがのランドも、その幼女の返答には怒りを覚えた。首から下はキレイに無くなっており、血が固まっている事から切断されてからかなりの時間が経っている。
確実に、死んでいると言える。
それでも尚生きていると明言するのは、それは命への
命を元に戻すことは、おそらく人智を超えた
「………いいや、もう死んでるよ」
「嘘だよ!だってお婆ちゃんは首だけでも動けるし喋れるよ?ネモがいつもくっつけてあげてるモン!」
ネモと名乗った幼女は必死に訴えるが、その言葉がさらにランドの神経を逆撫でさせる。
「だからっ!男と女じゃ、身体の造りがとうの昔に違うんだって!」
自分でも情けないと思うほど、ランドは大人気なく怒鳴った。それ程までに、現状の余裕が無いのだ。しかし荒ぶる感情の中で、不思議とこれだけは確信していた。
『この子は、3人を殺していない』
何の証拠も根拠も無いけれど、この世界に溺れていない無垢の心の持ち主だと、ランドは今の僅かの会話の中で悟った。…やがて、
「うあああああああああん!!!何でえええええええええええぇぇぇぇぇ!!!」
洞窟内に大反響するほど、幼女は泣き出した。
「…泣かした」
「ち、違うって!」
アイリスにジト目を向けられながら、ランドは心底
通常アイリスのような《記憶喪失》などのイレギュラーでなければ、女が男の生死にこだわることも無ければ、気に留めることすら絶対にありえない。それほどまでに今や男は、
男が女に、女が男に《良の感情》が芽生えることは決して無い。それがダンディグラムの教えであり、全国民が胸に刻んでいる事だ。ランドも信じてこそいないが、いざ
殺していないのなら、道端に落ちている
その行動の心理をランドは知りたいと思い、ふと思い至る。この子を女図鑑で観れば一発じゃないかと。
純粋無垢な幼女を盗撮するみたいで気は進まないが、最初からこれを使っていればこの子が白か黒なのかは一目で見破ることができるし、その行動原理も知ることができる。
過去のトラウマと衝撃的な出会いで完全に頭から飛んでしまっていたが、女図鑑さえ見れば全て解決なのだ。
そう思い、女図鑑を取り出して幼女をカメラに収めようとしたその時、
「待って…」
それを遮るように、またしても自分のテリトリーに何者かが侵入したアイリスが警戒を強める。今度は正確な位置が特定できるらしく、幼女のいる方とは反対の洞窟後方、アイリスは振り返り暗闇を凝視する。
するとこちらもいきなり襲ってくることも無く、コツコツと響かせるのは不穏な足音。時を重ねるごとに段々と近づき、光に照らされながら姿を現したその人物は……、
「マリスッ!?」
全身血だらけのマリスだった。
今にも死にそうで、立っているだけでやっとの状態。アイリスとの戦闘で氷漬けにされ、ここまでの傷は負っていなかったはずだが、氷が溶け敗北の罰としてゼーナにやられたか、はたまたあの
アイリスとネモが驚く中、敵ながら否応なしに駆け寄っていくランド。
「おい!大丈夫か?」
「…ゼ……」
何かを伝えようとするが、かなり
目を開けるとそこは、さっきまでの
白一色に展開されていた
そしてランド達がこの大広間に瞬間移動してきてから数秒、もはや意識もなく力を使い果たし崩れ落ちていくマリスを尻目に、2人は気に留める余裕も無いほど広間の狂気に浸かっていた。
『ゾワッ』と、
アイリスが発する物理的な寒気ではなく、今まで感じたことの無いような
その発生源は、広間の中央。
刹那、ランドとアイリスは、マリスが何故自分達を此処に連れてきたのかを理解する。マリスが瀕死状態で尚、男を頼ってまでこの場所にテレポートさせた
マリス同様、満身創痍なゼーナの首を鷲掴みにし軽々と持ち上げる老婆が1人。身長180センチのゼーナに対し、その老婆は3メートルを超えている。縦にも横にもデカい巨大な体躯に、
後ろ姿だけで分かる獰猛なオーラは間違いなく、ランド達が一度戦線離脱する直前に見たあの怪物と同一人物だ。
そのまま死んだか否か、流血したまま動かないゼーナをゴミのように投げ捨てると、老婆の標的は次いで新たに現れた2人へと遷移する。
猛る
(ありえない…)
と、ランドは瞠目する。【四姫災】と称されるアイリスでも苦戦したゼーナを、あそこまで圧倒できることに。それはつまり、この世界に厄災を
ランドは足がすくみ、全身が震えてまともに動けなくなる。どうやらそれはアイリスも同じようで、相手から目を離さずしかし無闇に手は出せないと言った感じだった。
老婆が威嚇とばかりに2人を
《テレレレーーーン》。っと、
この空気に似合わぬポップな効果音が広間中に響き渡った。
それは、さっき幼女に当てようとしてそのまんまだった女図鑑。そのレンズの照準が偶然にも老婆に定まり、女図鑑に
間抜けな音に我を取り戻し、その液晶画面に映るデータを覗いて、ランドは千切れんばかりに目をかっ開いた。
「〈ランクSS〉………!!!」
そう、静かに呟いて…。
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