第12話四姫災(しきさい)
「これはこれは、私の部下をずいぶんと可愛がってくれたな」
ゼーナの表情こそは凛として
その怒りをどうして少しでもあの3人に分けられないのか、ゼーナの正面、ランドは思いっきりガンを飛ばす。そして数瞬ののち、思い出したかのように手に持っていた女図鑑のカメラを向けた。
【〈ランクS〉 名前 ゼーナ・ゴルゴット 年齢:132歳 身長:181センチ 体重:72キロ 武器:ハートルランス 能力:頑強 経歴:長寿で古き時代からこの
ランドが女図鑑の画面を見て最初に気になったのは、ゼーナの〈ランクS〉という評価。〈ランクA〉のマリスを従えるほどだから予想はしていたが、実力はアイリスと同格。マリスの方は難なく無力化し、アイリスの実力がいかほどか証明されたが、これまた骨が折れそうだ。
次いで感じたのは違和感。女図鑑に記された年齢だ。132歳、通常なら息をしているのもやっとの状態にも関わらず、今目の前にいる
一瞬女図鑑の故障を疑うが、ランドはすぐに
忘れていたのだ。この世界の常識や法則など、
人間の平均寿命は80歳から、長くても100歳前後には死んでしまうのが一般的で、長寿というのはそのレベルに使う言葉だ。しかし女照ではそれは語弊であり、当てはまるのはその数倍。
神をも顔負けのチート能力を、自由自在に扱える
個々によって
それが、
「お前からしたら初めましてだったな、
氷漬けになったマリスを丁重に摩りながら、ゼーナはそう口にする。ランドの予想通り、やはりアイリスをあの部屋に監禁していたのはアンダーシフトのボスであった。そしてまたも耳にする、『四災女』という単語。
さっきのマリスよりも多少アイリスを
「その事実を、言うって事は、私の正体を教えるって事?」
「全部では無い。私がお前を回収した時には、お前はもうすでに深い眠りに着いていた。そして約100年程度、やっと目を覚ましたお前は記憶喪失だと言うじゃないか。それではさすがに可哀想だと思ってな」
「なら、私が何者なのか、教えて」
「何者か、という定義は難しいな。お前の身分。どこ生まれでどこ育ち、何が好きで何をやっていたかというのであれば、私はお前の友人ではないから存知はしない。…ただ一つ、お前に与えられた称号:『四災女』の事なら、答えてやることはできる」
「………」
一体何のメリットがあるのかご丁寧にそう提示したゼーナは、アイリスの沈黙を肯定と取り独りでに話し始める。
「『四姫災』というのは文字通り、たった1人でこの世界を大災害たらしめる能力を持った、4人の女に名付けられた二つ名だ。
地震の『地』。津波の『海』。台風の『風』。そして、雪崩の『氷』。この4人が本気を出せば、この世界を大厄災に
「「「っっっ!!!」」」
明かされたアイリスの称号に、広間にいるゼーナ・マリス以外が揃って息を飲んだ。
ランドとアイリスは、そんな強力な
この女照を、大厄災にまでさせるほどの力。その事実が本当であれば、自ずとゼーナの目的は見えてくる。
「最後に一つ。私を、あそこに監禁していた理由は?」
「もう言わずとも分かるだろう。貴様のその力を手に入れるためだ!まだ準備も整っていないし、目覚めるのもその後で良いと考えていたが、どうやら珍妙な王子様のおかげで眠りから醒めたようだな」
ゼーナは背丈ほどある長槍を広間の床に立て、アイリスの言葉通りこれ以上教える気は無いようだ。
「だから安心しろ、お前だけは生かしてやる!」
そして言うと同時、槍を一回転させ先端をランドに合わせると、ダンプカーも顔負けの威圧で突進。
当然、ランドにそれを避けるほどの力量は無い。このままでは呆気なくペシャンコにされ、息絶えるだけだ。しかしそのランドとゼーナの間に、割って入る氷の壁。
構わず突っ込んだゼーナと激突し凄まじい衝撃が轟くが、紙一重で勝ったのは氷壁だった。
やがて氷壁は四散していき、ゼーナとアイリスは顔を見合わせる。まだ話は終わっていないというアイリスからの警告でもあった。
「あなたが何をやりたいか、は、大体理解した。その上で、私はランドを護るため、あなたに敵対する」
《力を手に入れる》という目的が、具体的にどんな手段を使われるのかアイリスは知らないが、自分に何らかのデメリットが生じるという事だけは分かる。第一、ランドを殺すという時点で論外。黙って見過ごすわけにはいかない。
おそらく、ランドには殺さないでと再度難解な要求が来るだろうが、こちらも相当の手練れ。かなり難しいだろう。
「抵抗してくるだろうと思ってはいたが、まさか
しかしアイリスは淡々と、当たり前のようにその言葉を述べた。
「ゴミかどうかは、関係ない。ランドは、私の命の恩人。それに報いるのが、礼儀」
「たまたま通りかかって鎖を千切ってもらっただけで、虫以下の存在に命を賭けるか。どうやら、能力以外は
まあいい、どうせ力で制圧すれば良いことだ」
アイリスの信念を、ゼーナは鼻で嘲笑した。
《力での制圧》。ゼーナの実力がどれほどのものか定かではないが、厄災をもたらす力を持つアイリスに1対1で敵うはずが無かった。…通常ならば。
ゼーナは知っていた。長い年月を経て、深い眠りから覚醒したアイリスが、まだ本来の力を取り戻していないことに。
しかしそれも、時間の問題。ブランクがあるだけで現実に慣れてきたり、また記憶が蘇りでもしたらその力は莫大に跳ね上がる。そうなる前に、ゼーナはアイリスを生け捕りにしなければならない。
「行くぞ」
手に持つハートルランスが
刹那、さきほどと同じ一直線の突進。すかさずアイリスも氷壁で防御を図るが、威力はさきほどを遙かに上回り一瞬で崩壊。
跳躍でその突進を回避すると、足下からの氷庭で動きを封じそこにアイシクル・ジ・マグナムを叩き込んだ。
無数の衝撃音とともに舞う煙。しかしそこに佇んだ1人の
「ッ!」
感情の読み取りにくいポーカーフェイスも、さすがに表情が揺らいだ。いくら本調子で無いとはいえ、攻撃も防御も全く通用しない。
これが、頑強という力。
四姫災に霞んでしまったが、自分も歴とした〈ランクS〉なのだとゼーナが物申しているようだった。
その後も、圧倒的強者2人の攻防は続く。ゼーナの単調だが当たったら最後、相手を一撃で沈めるほどの突進に、アイリスが慎重に回避し氷での追撃。
いくら『頑強』とはいえ、すでにかなりの氷攻撃を食らっている。多少なりともダメージが蓄積しているのは間違いないが、何故かアイリスの方が疲弊しているようにも見えた。
何もできないランドが手に汗握って見守る中、
誰もが、ゼーナさえもが、予想外の
行きに見た熊以上に、大仰な巨体。乱れ揺らめく長髪の白髪達に、夜叉の如きその
もはや心身が完全に
気づけばランドとアイリスの視界は、冷たく薄暗かった地下神殿では無く、緑溢れる山中。もっと正確に言えば、洞窟の入り口前へと
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