第3話ダンディグラムのお荷物
国の中は県境のように5分割されており、東西南北の各エリアと、真ん中に四角く設けられた中央エリアで区分されている。
屹立する高い建物達に、騒がしい街並み。
ダンディグラム南エリアの最大都市・【サウス・ダンス】は、今日も人々で賑わっていた。
しかし一見。もうすぐ先の未来だと予想されていた空飛ぶ車や完全AIロボの全域始動など、21世紀時点で期待されていた技術が、しかし200年経った今でもまだ見受けられていない。
その原因は簡単、女の突然の《力》だった。
………しかし、全く路が閉ざされてしまったわけでは無い。
その上で決して忘れていけないのが、その相手が
それ故
「腹が減っては戦はできないッ!沢山食べて
そんな物騒な声が飛び交うサウス・ダンスのメインストリート、行き交う人々に飲まれながら1人の少年はある場所を目指し歩いていた。
天然パーマで全体的に跳ねている黒髪の、一際跳ねているつむじ近くの髪をチョロンと出し、冬場にしては少し心許ない白のロングTシャツと長ズボンにブーツ。そしてマント。
18歳にしては少し童顔で、今にも破裂しそうな限界まで収納されたリュックを背負っている。
人にリュックが当たるたびに「すいません、すいません」と謝り、流されるように辿り着いたのは周囲の建物より一際古びた木造建造物。
俗に、《ギルド》と呼ばれる古風漂う場所だ。
木製で作られた扉の前に数秒立ち尽くし、ランドは一つ深呼吸をするとその扉を開いた。
すると…、
「おい、また来たぞ」「
ギギーッと年季の入った音を立てて中に入るやいなや、ランドは建物中の全員の視線を一身に受け注目の的となる。
しかし『良い』注目で無いことは明らかで、【お荷物】とは、「戦闘力皆無で役に立たない」と、「荷物を運ぶ事しか脳が無い」からかけた、
いつものことだと別段気にする様子の無いランドは、その舐めるような視線とクスクスと響く嘲笑を無視し目的の場所まで一直線に向かう。
古びた木材で作られた、
視線を左へ運べば、掲示板に貼り尽された【ガーデン】のメンバー募集用紙がズラーっと羅列しているが、自分には関係ない事だとすぐに視線を戻し詳しく見ることはない。
そのままカウンターへと向かうと、そこには背筋をピンと伸ばし、一日中崩れない笑みでこちらをジッと見つめる青年。一般的に、受付と言われる男が立っている。
「おはようございます。今日はどういったご用件でしょうか?」
ランドがカウンターの前に来ると、マニュアルに記されたような定型文で迎える受付。ランドは少しはにかんだ
「
と簡素に言う。
「かしこまりました。…恐れ入りますがメンター様、単独での調査は2級メンターから可能となります。ご同伴されるメンター様はいらっしゃいますでしょうか?」
「…いないです」
「では、ランダムでパーティーを組まさせていただきます。少々お待ちください」
この情けない会話も今回で何度目か、受付はメンターカードを受け取るとパソコンに何かを打ち込み始めた。
暫くしてパソコンでのメンターの照合と、A4サイズの用紙がプリントされまず受付がサインした後ランドの方に差し出す。
「ここにメンター様のサインをご署名ください」
これも先の会話と比例して繰り返した作業で、ランドは慣れた手つきでペンを走らせる。内容は、この調査中自身がとった行動がは全て自己責任であることを承認する書類。
書き終わった用紙を受け取ると、今度はそれをパソコンへと記録する受付。
「登録が終了しました。ダンディグラムへ帰還し次第、ギルドへの調査報告をお願いいたします。パーティーの皆様はもう南門前に集まっていますので、そちらで合流をお願いいたします。
ご利用ありがとうございました」
メンターカードを返却され、ランドは終始注目を浴びながらギルドを後にした。
建国当初のダンディグラムは、
小中の学業の課程を修了した15歳以上の全男を対象に、メンターとして戦闘スキルを育成しまともに戦えるようにする対抗手段。だったが、万能の力に敵うはずもなく死者や行方不明者が続出。元々数が少なく繁殖方法も確立していない中で、
それだけは避けたいと考えた国の最高権力者達・
さらに、原則として出撃中の行動は全てメンター本人の自己責任。出撃時は4人以上でなければならない。単独での出撃は、6階級ある0級〜5級(0級が一番高い)の中の2級以上でなければならなくなった。
そしてそこで、生み出されたもう一つの制度が【ガーデン】。結成人数は4人以上、一言で言えば共に戦う『チーム』だ。
こちらは必ずしも強制というわけでは無いが、ガーデンの人数に制限は無くまた出撃するのにも制限はない。やはり数の利点は大きいし、それに寄り添った戦闘力がある。人数が多ければ多いほど、生存率は格段に高くなる。メンターがガーデンに属するのは、昔で言うなら受験生が予備校や塾に通うぐらい重要な事というわけだ。
しかし一方で、どこのガーデンにも属さないソロのメンターも存在する。それは団体戦が得意な者もいれば個人戦が得意な者もいるように、自主的に個人戦を好み属さない者。内気や人見知りなど様々な理由で入りたくても入れない者。
そしてごく稀に、ほとんどのメンターから敬遠され、パーティーを組んでもらえない『真のソロ』がいる。
当然、ランドもその1人だ。
そういった者達は、今のランドのようにギルド側で調整してお互い人数が足りないもの同士で一時的にパーティーを組んで、出撃することができるという仕組みになっている。
「げっ、おいお荷物かよ、最悪じゃん!」
サウス・ダンスの最南端、一際でかく存在感を放つ大門。ギルドと同じくこのダンディグラムの東西南北に設置されており、ダンディグラムと女照を行き来できる唯一の門。
ギルドから南門までの距離はそう遠くはなく、4〜5分でパーティーに合流したランドに開口一番、そんな絶望の声が上げられた。
「だからランダムなんて嫌だったんだよ!ブロッサム達を待てば良かったのに…」
「だって仕方ねえだろ、まさかお荷物に当たるなんて思わねえんだから」
「………終わった」
ランドの到着でパーティー全員が揃ったが、ろくな自己紹介もなくしかも本人を目の前にして口喧嘩を始める友人同士のダンとカリム。もう一人の男に至っては、頭を抱えながら膝から崩れ落ちる。
周囲の人々からは
門を一歩でもくぐればそこは命の保証が無い、血にまみれた
今ならまだ引き返せるとダンとカリムが口論する中、ランドは空気も読まず喋り出した。
「じゃ、ここで今回の調査の方針を決めておこうぜ。今回の目標は、ここ南から南西に位置する地下神殿。知ってると思うけど、調査進行度がかなり低い地下神殿だから無理はせず慎重に調査するってことで。誰か1人でも帰還したいと思ったら、その時は全員で帰還する。
あと最後に一つ、…
未だ行くか行かないかを迷っている3人に、勝手に仕切り出したランドは清々しいほどにスタイルを曲げない提案。
唖然とする3人。一拍置いて青筋を浮かべてキレかけたダンに、カリムが肘を小突いて静止させると、
こうして、メンターに限らずおよそダンディグラムの9割の人口から敬遠されているダンディグラムの【お荷物】は、門番に睨まれながら審査を受け南門を潜り、女照へと進出した。
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