78.親友と恋人

「急に呼び出してごめん! 北条くんも忙しかったよね」

「いーけどよ。んだよ」

「えと……もう十月だから」


 なるほどな、と思いながら俺はため息をついた。それなら俺じゃなくてユーか美希ちゃんの方が適しているだろ。俺の方も朝倉から呼び出されてるとユーに言ったら一瞬だが不快そうな顔をされたし。それでも最後には納得したように頷いてくれたのは、悠斗の誕生日の件だとわかったからだろうけど。


「君なら、何が欲しいかーとかわかるかなって」

「知らねぇよんなもん。だいたい、誕生日なんか毎年来るんだから適当に……」

「駄目。それは、絶対」

「……そうかよ」


 きっぱり言いやがる。朝倉のこういうまっすぐなところは正直なところ少しだけ苦手だ。昔のユーを思い出すから。

 別にあの頃の小倉のことが嫌いだとか、そういうわけじゃない。ただ真っ直ぐに俺なんかのことを好きだと言ってくる小倉に、少しだけ嫉妬していたところはあった。面倒な性格をしているくせに、自分の好きに忠実なところがムカついた。今ではそれが、彼女に対する最低の態度だとわかっている。

 似たような理由で、悠斗のことは本気で嫌いだった。あのお人好しは上辺だけのものだと思い込んでいたから。いつか、こんなことを思ってしまったことを二人に詫びたいと思って、でもそれを伝えたときの二人の態度が怖くて言えずにいる。


「ま、付き合ってやるよ」


 朝倉のためじゃない。悠斗のためだ。そんなことを思いながら、俺はひとまず朝倉に連れ回されてやることにした。

 とりあえず向かったのはショッピングモール。だいたいのものはここで揃うので、基本的にプレゼントなんかを決めていないならここだ。


「なんだかんだで、君も悠斗のこと好きだね」

「あ? んだそれ」

「だって君、わたしのこと嫌いでしょ」

「……お前、わりと図太いよな」

「それでも付き合ってくれるのは悠斗のため。違う?」


 自分が嫌われているかもと思うところは、どこか悠斗に似ている気がしないでもない。あいつはここまで察しはよくないし、気づいた時点で関わるのを避けようとするが。


「あんまり君を拘束するつもりはないから。できるだけ早く選ぶ」

「そーしてくれ。だりぃし」


 見抜かれてしまったから、正直な態度でいることにした。俺は朝倉のことがそんなに好きではない。ただ、嫌いというわけでもない。

 以前の、中学までの俺ならこういう奴は大嫌いだっただろうが、ユーや悠斗と出会って、なにより朝倉が本気で悠斗のことを想っているのを見て、嫌いだとは言えなくなった。


「何がいいかなぁ」

「さあな」

「相談には乗ってほしいんだけど」

「しゃあねぇなぁ」


 さて、あいつが欲しがるもんはなんだろう。あいつのことだ、朝倉が渡せば喜びそうなものだが、多分朝倉の方はそれだと満足ができないから俺を頼ってきたのだろう。なぜユーに言わなかったのかは疑問だが。

 少しは考えてやるかと頭を働かせようとしたところで、朝倉に妨害された。


「とは言っても、ある程度決まってるんだよね」

「んで呼んだんだよマジで」

「男の子の意見も聞いときたいなと思いまして?」

「はぁ……で、何買うんだよ」

「えっとねぇ……」


 小声で俺に耳打ちすると、朝倉は不安そうな顔をした。


「……一応聞いとくけど、それは悠斗が嫌いってのを知った上で渡すんだな?」

「うん。それは半年くらい前に聞いた。聞いた、けどさ。でも、思い出とかそういうのをなにも残せないのって寂しいから」

「……そうかよ」


 きっと悠斗は、朝倉にそう言われたら本当に喜ぶのだろう。それが嬉しくて、少しだけ寂しい。それは俺やユーにはできないことだから。

 同時に、少しだけ迷った。もし朝倉の言葉でも上手く悠斗に伝わらなかったら、きっと朝倉か悠斗かどちらかは嫌な気分のままだ。いや、この二人のことだからどちらかだけが嫌な気持ちをすることはないのだろう。


「いいんじゃねぇか?」


 そう思っていても、言ってしまった。なんとなく、朝倉の気持ちは悠斗に伝わる気がしたから。なにより、朝倉の不安そうな顔はきっと、このプレゼントをすると決めるのに悩んだものだろうから。


「そんだけあいつのこと想ってるんなら、俺にゃ何も言えねぇよ」


 結局のところ、それだけだった。朝倉は悠斗の彼女だから。誰よりも悠斗のことを見ているから、そう思った。


「……ありがと。なんだかんだ言っても君、お人好しだよね。わたしが停学になったときも庇ってくれたみたいだし、今も。こうやって付き合ってくれて」

「そうでもねぇよ」

「そうだよ。君はちょっとひねくれてるけど、優しい」


 ああ、腹が立つ奴だ。嫌いじゃないと思っていたけど、やっぱりわりと嫌いかもしれない。

 でも、やっぱりあいつの彼女だ。そんな感じがした。


「俺も選ぶから、付き合え」

「ん、わかった。付き合う」


 それから俺たちがお互いに贈るものを準備するまで、一時間もかからなかった。

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