18.朝倉さんと本音

 カレーライスを食べ終えると、もう時間はかなり遅くなっていた。

 急いで荷物をまとめて家を出た朝倉の隣を、朝倉の歩幅に合わせて歩く。電車に乗って、のんびりと朝倉の家に向かう。


「あ、やば。わたしが彼女じゃないってちゃんと伝えてないや」

「まあ、いいよ。今度で」

「また行くって言っちゃったしね」


 そういえばそんな約束もしてしまった。そのうえ朝倉は俺の作った料理が食べたいらしい。


「あ、本気にしなくていいよ。次行くときはちょっと妹さんに挨拶して帰るから。三上くんの料理はちょっと気になるけどね」

「あんまり気にならないでほしいけど。まあ、気が向いたらな」

「うんうん、気が向いたらね」


 なぜか若干にやついた朝倉に、俺は呆れてしまう。


「言っとくけど、なんだかんだで作ってやるはないからな」

「どうかなぁ」

「お前は俺をなんだと思ってんだよほんと」

「お人好し」


 おかしそうに笑う朝倉。

 別に、お人好しというわけではない。 確かに朝倉には頼まれて付き合っていることばかりだが、正直なところ朝倉以外から同じことを言われて受けていたかなんてわからない。少なからず、俺も朝倉といるのが楽しいとは思っている。

 そんなことを考えていた俺の頬を、朝倉はつんつんとつつく。


「なんだよ」

「難しいこと考えてるなーって」

「別にそんな難しいことはないから。その指やめろ」

「いやでーす」


 楽しそうに俺の頬をつつく朝倉。痛くもないが、少し鬱陶しい。仕返しをしてやろうかとも思ったが、さすがに女の子の頬を触るのもどうかと思ったので、とりあえず深いため息をついておいた。


「……わたしはね、別に君がどんなこと考えててもいいんだよ」

「ん?」

「なんでもいいんだ。実はわたしのこと鬱陶しいと思ってるとか、ほんとはわたしのことが好きだったりとか。まあ、後のはないか」

「別に、鬱陶しいとは思ってないよ」


 たまにそう思うことはあるが。でも、見方を変えればそれも少しだけだが可愛げのある行動にも思えた。

 そんなことを朝倉に伝えるつもりはさらさらないが。


「そっか。それならまあ、よかった」

「お前こそ、難しいこと考えるんだな」

「そんなことないよ。わたしは嫌われるの……っていうか、嫌われてるってわかるのが嫌だから、三上くんにだけは嫌われてないって思いたいだけ」

「難しいな」

「シンプルだよ」


 普通に他者の嫌味に耐えられるような性格をしてたら、確かに『朝倉さん』は必要ないものだったのだろう。楽だからなんて言っていたが、本当はそんな単純な理由でもないのはなんとなくわかっている。

 難儀な性格をしてるな、なんて思いながら、未だに頬をつついている朝倉の手を掴む。


「しつこい」

「あははっ、ごめんって」

「そういうところ、もっと見せてもいいと思うぞ」

「えっ?」

「そういう子どもみたいなところは、朝倉の魅力って言えるんじゃないのか?」

「なんそれ。そう思うの三上くんくらいだって」


 そう言って朝倉は、俺の手を振りほどいた。


「でも、三上くんがそう言ってくれるのはちょっとだけ嬉しいかも。ありがとね」


 屈託のない笑みに、思わず俺はため息をつく。これはただの照れ隠しだと気づいた朝倉は、珍しく何も言わずに足を進める。

 もう車も少なくなった時間帯。街灯に照らされた道では、俺と朝倉の声くらいしか聞こえない。


「あ、着いちゃった。送ってくれてありがと」

「こっちこそ、遅くまで付き合わせて悪かった。おかげで助かったよ」

「それならよかった。テスト、お互い頑張ろうね」

「ん。じゃあ、また」

「またね」


 手を振った朝倉が家に入るのを見届けてから、俺は回れ右をして帰ることにした。

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