13.三上くんはむかつく?
「ごめんね、送らせちゃって」
「いいよ別に。安静にしてろよ」
「うん。ありがと」
家まで送ってくれた三上くんに手を振って、わたしは家に入る。手を洗って、うがいをして、自室に戻って、そしてベッドに顔を埋めた。
「ああああああああ…………」
いろいろとやらかしている。まず、男女二人で見る映画ではなかった。でもそこはいいとしよう。誘ったものの見る映画なんかなかったのだ。なぜか三上くんと出かけたくなってしまったのだ。理由はいまいちわからないけど、気兼ねなく話せる三上くんと出かけるのは普通に楽しい。
「でもそれで迷惑かけてちゃ駄目でしょうが……!」
今までだって多分散々嫌な思いはさせている。それに加えて、今日は物理的な迷惑をかけてしまった。でも、これまたなぜか三上くんの前では見栄を張っていたかったから。少しでもかわいいと思ってほしかったから、背伸びをしてしまった。
でも、それであんなに密着すると思っていなかった。普通にわたしの心拍数もおかしくなっていたし、胸を押し付けるとかいうやばい女ぶりを発揮するだけしてしまった。これで痴女だとか思われたらどうしよう。ものすごく気まずい。
「はぁ……」
なにより、自分がこんなにも三上くんを意識していることが理解できない。わたしにとって三上くんは、受験のときに助けてくれた優しい人で、朝倉玲奈の秘密を知っている唯一の人だ。それだけに過ぎない。心から感謝もしているし、言いふらしたりしないことには好感も持っている。でも、それだけ。
それだけのはずなのに、見栄は張りたくなるし、後からめちゃくちゃ恥ずかしくならなきゃいけないし、もうなんか意味がわからない。
そのうえ、駄々をこねて服を見に行きたいとか言って。わたしの心配をしている三上くんに、恥ばかり晒してしまった。
「でも……三上くんもすっごいどきどきしてたなぁ……」
三上くんはわたしの心拍数なんて気にしてもいなかったけど、ちょうど腕を絡めたときにわたしの方は伝わってきた。そもそも男性と女性ではなぜとは言わないけど伝わりやすさが違うのだから、当然と言えば当然だ。
そもそも、三上くんが女の子慣れしていないことくらいわかっていることだ。そう、だから、わたしにどきどきしてたわけじゃない。女の子と距離が近いことにどきどきしてただけ。きっとそれだけ。
「……むかつく」
かわいいと思ってるくせに、わたし以外の女の子にもときめいているのか。いや、別にどうだっていいけど。
「何考えてんだろ、わたし」
勝手に三上くんの考えていることを想像して、無意味にむかついて。自分でももう何がしたいのかわからない。
でも、わたしはちゃんと三上くんなら恋人にしてもいいと言ったことはあるのだから、もう少しくらい特別に思ってくれてもいいのではないだろうか。いや別に、そう思われたいわけではないけれど。もし本当に三上くんがわたしを彼女にしたいとか言うのであれば、考えてあげないでもないのに。
「……んなわけないか」
カレンダーの、少し先の日曜日。そこに書かれた『三上くんと出かける』という文字に、わたしは少しだけ緩みそうになる頬をひっぱたいてため息をついた。この厄介な感情の正体には、今はまだ蓋をしておきたい。
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