11.朝倉さんとショッピング

 喫茶店で軽い昼食を済ませた後、俺たちはまた映画館のあるフロアに戻ってきた。


「じゃあ、行こっか」

「ん。ポップコーンとかは?」

「気まずいからほしい」

「わかった。買ってくるよ」

「行くからいいのに」


 くすくすと笑った朝倉は「じゃあ、お願い」と言って隅っこの方で今から見る映画のパンフレットを見始めた。


「あ、やべ。味聞くの忘れてた」


 こういうとき、気の利かせ方を俺は知らない。朝倉の味の好みなんて知らないし、そういえば飲み物がいるのかどうかも聞いていない。

 しばらく悩んだ末に、俺はコーラとカフェオレ、そして塩とキャラメルが半分ずつになったポップコーンを注文した。

 朝倉のところへ戻ると、壁にもたれかかって俺の方を見ていた。


「悪い、これでいいか?」

「大丈夫、ありがと」

「一応飲み物。コーラとカフェオレ」

「なんか悪いなぁ……じゃあ、カフェオレ。炭酸苦手なんだよね」

「そっか。覚えとく」

「別に覚えとかなくていいけど」


 今日の朝倉はよく笑う。その笑顔は文句のつけようがないくらいにかわいくて、それがやっぱり少しだけ悔しい。朝倉にかわいいなんて感情を抱いてしまうのが、何かに負けてしまっているような気がして仕方ない。

 そんな俺の隣で、朝倉はチケットの準備をしている。


「なんかさ、こうしてるとマジの恋人みたいだよね」

「そうか?」

「そうだよ。せっかくだし手でも繋ぐ?」

「繋がない」

「かぁ……」


 手を何度か握って開いてを繰り返して、朝倉はまた俺の隣に歩いてきた。

 少しだけ、不自然な様子だった。

 よく思い返してみれば、今日は朝から少しおかしい。元から少しおかしな奴ではあると思っているが、なんだかんだで相手をしてしまっている俺も多分おかしいのだろう。

 けれど、今日の様子はどこか無理をしているようだった。


「……ああ」


 少しだけ背伸びをしているんだと、もう少しだけ早く気づいてやればよかったと思った。原因はなんとなくそれだけじゃない気もしたけど、ただからかってそんなことを言ったというわけでもないのだろう。

 コーラを飲み干す。急な行動に朝倉は驚いたような表情をしていたが、すぐに俺がしていることの意味を理解したようで、呆れたように笑った。

 容器をゴミ箱に捨てて、朝倉が持っていたポップコーンを預かる。互いに空いた手を繋ごうと俺が手を伸ばすと、朝倉はその腕に腕を絡めるようにしてきた。


「……まあいいけど」

「ありがと」


 慣れない靴を履いた朝倉は少しだけいつもより柔らかく微笑んで、俺の腕にもたれかかってきた。

 別に俺が相手なのだから、今日はそんなに身だしなみに気を遣うという必要もなかったはずだ。それでも無理をしてそんな靴を履いてきたのは、きっと俺をからかうためなのだろう。

 たとえそうだとしても、今は素直に朝倉が頼ってくれることだけは少しだけ、ほんの少しだけ嬉しかった。


「三上くん?」

「なんでも。行こう」

「うん」


 それから映画を見てなんとも微妙な雰囲気なったことによって、当然のように俺は朝倉にからかい続けられた。

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