6.朝倉さんと帰り道

 すっかり日が暮れてしまった。空を見上げればいくらかの星が見えた。


「送る」

「えっ?」

「さすがに一人で帰すのもな。可愛いんだろ?」

「……うわぁ、なにその嫌な言い方」

「散々嫌な言い方をしてきたのは誰だよ」

「事実しか言ってないんだけど?」

「そうかい」


 このまま言い争っても勝てる気がしないので、この辺りでやめておく。

 朝倉は満足そうに歩く。俺はその少し後ろをついて歩く。歩幅が違うから、少しだけ歩きにくい。


「いろいろ言ったけど、楽しかったのは本当」

「ならよかった」

「だからさ、また付き合ってくれたら個人的には助かる」

「気が向いたらな」

「まあ、彼女とかできたら誘わないからさ。気が向いた時くらいでいいよ」


 非常識だと思っていたわけではないが、からかう様子もなくそんなことを言われて少しだけ戸惑ってしまう。


「んー? わたしがこんなときでも『童貞くんはわたしみたいな可愛い子と遊べることないもんねー?』なんて言うとでも思った?」

「思った。つかそこまで考えてたなら言う予定だったんだろ」

「まあ、途中までは。でも、付き合ってくれた三上くんにそんなこと言ったら最低だなって」


 別に、完全に付き合っていたというわけでもない。俺もなんだかんだで楽しむことはできたし、朝倉のことを少しだけではあるが知ることができた。


「でも、なんで俺を誘ったんだ?」

「えっ? だから、わたしの素を知ってるのが君だから……」

「んなわけあるか。よく知らない奴と遊園地なんか気を遣うばっかりだろうが」


 実際、俺の高所恐怖症のせいで朝倉の時間を使わせてしまった。肩を貸すことにもなってしまったし、朝倉にとってはとても楽しい時間とは言えるものではない。


「うっさい。そんなのどうでもいいの」


 不機嫌そうに、けれどどこか照れたようにそっぽを向いてしまった朝倉に、俺は首を傾げることしかできない。どうやら、なにか隠しているらしい。

 別に無理に聞き出すつもりはない。本当に朝倉が今日を楽しんでくれたならそれでいい。


「あー、ここまででいいよ。君はここから駅に戻らなきゃなんだし」

「一人で大丈夫か? この辺、出るぞ?」

「……えっ」

「冗談だよ」

「だよね、この辺のことはわたしの方が知ってるからね……えっ、出ないよね」

「出ない」


 どうやらかなり苦手ならしい。いつかホラー映画でも見せてやりたいと思いながらも、表向きは優等生の朝倉が寝られなくなったりしては大変なのでやめておこうと踏みとどまっておく。


「また明日な」

「うん、また明日。まあ、そのときはみんなの朝倉さんだけどね」

「どっちも朝倉だよ」

「深いね」

「浅いわ。事実だろ」


 くすりと笑って、朝倉は横断歩道を早足で渡って行った。

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