第5話
別れられないのは自分の弱さからなのだと自覚はしていたが、 翌朝も私は彼から届いた「おはよう」のLINEに返信をしようとした。 しかし昨夜の梓さんとの会話を思い出す。 このままじゃ、私はいつまでも変わることができないままだ。 彼はプライドが高いから、私から振ったらきっと怒るだろうけれど、私は彼を振らなければいけない。
30分ほどどんなメッセージを送ればいいか考えていたが、 何も細かいことは言わず、「今度会ったら、話したいことがある」とだけ送った。 そのメッセージにはすぐに既読がついたが、返信はしばらく来なかった。
やっと彼から連絡が返ってきたのはその日の夜だった。 「別れ話なら本当は聞きたくないけど、まあいいや。会おう」という返事だった。まあいいやってなんだよ、と心の中で何度目か分からない違和感を持ちながら、 待ち合わせ場所と日時を決める。
彼はこの返事を送るまでに何をしていて、何を考えていたのだろう。彼はいつも、私の心のど真ん中を嵐のように通り過ぎて、乱していく。それなのに、自分には何の罪もないような顔をして、笑いかけてくる。
彼と会うのは明後日の夕方、彼の最寄り駅にあるカフェで会うことになった。 大事な話だというのは相手も気づいているのに、自分の地元まで来いというのか。私に会うためのお金や時間を省エネされている気がして、今度は違和感に加えて不快感がやってきて私を苦しめる。 私たちの1年記念日まではあと1週間くらいだ。 この気持ちのまま記念日を迎えるのだとしたら、あまりにも辛すぎる。
夜ご飯の材料を買うためにスーパーに行った後、家に帰って来てからふと梓さんに連絡先をもらっていたことを思い出した。一応連絡しておこうと思い、梓さんにメールを打つ。
「昨日はありがとうございました。私、彼に会って話すことにしました」
そういえば、昨日彼女に自分の名前を伝えるのを忘れていたけれど、 この文面だけできっと私だと分かるだろうと思ったので、短いメッセージをそのまま送信した。
すると1時間後には彼女から返信があった。
「負けちゃダメよ。彼にも、自分にもね」
シンプルな言葉ではあったが、そのメッセージは私の心をあたたかい感情でじわじわと満たしてくれた。 誰か1人でも自分の背中を押してくれる人がいるだけで、何かを頑張る理由になることがある。
彼にどう伝えればいいか悩んでいるうちに、あっという間に彼と約束した日付になった。前日からあまりよく眠れないまま、朝になった。 きっと今日が彼と恋人として会う最後の日になるのだろう。それなら、思いっきり可愛い彼女として会おう、と思った。彼に後悔してほしい、私を手放さなければならないことを。
お気に入りのワンピースを着て、髪も丁寧に巻いた。唇には1番似合う色をのせ、以前彼が褒めてくれたパンプスを履いて、外に出る。最後まで、彼の彼女として魅力的な女でありたい。
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