窓側の後ろの席。教室にいる生徒を見渡すことができる席。教師からの目が行き届かないため、授業そっちのけで外をぼんやり眺めていても、注意されることは少ない。最も、優越感に浸れる場所。一番のお気に入りの席を、数日前の席替えで手に入れた。窓枠の埃が少し気になるが、僕はいつもそこに頬杖を付いて、窓から見える校庭を眺めていた。

 呆然と外の景色を眺めていたら、自分が思っていたよりも空が暗くなっていることに気付いた。まるで地上を支配するかのように広がる分厚い雲が太陽の光を遮断し、鈍色に濁って見える。そのせいで、教室の雰囲気も暗くどんよりとしている。少し冷えるのは、立て付けの悪い窓枠の隙間から、僅かに外気が流れてくるからだ。冬も深まり、春の訪れを早々に待ち焦がれる季節。乾燥した空気に吹き込む風はより冷たく感じる。そのせいか、年配の教師陣は皆、教室に入るとまず暖房のスイッチを入れる。しかも、なかなか高い温度に設定するため、その度に、教室に拘束される生徒達は地獄のような睡魔と戦う羽目になる。適度に教室を動き回り、適度に口を動かしている教師には丁度良いのかもしれないが、ただ椅子に座り、机に向かって只管ペンを動かす生徒からしたらたまったものではない。僕のクラスにあるエアコンは、廊下側後方の天井に取り付けられているため、圧縮された高温の熱エネルギーは、集中的に廊下側に座る生徒を直撃する。リモコンの主導権を握る教師は、教室内をうろつく以外は中央の教壇に立っているため、その違和感には気付かない。熱せられた教室内で涼しい顔をしていられるのは、窓側に座る生徒のみ。狭い教室内で、そんな奇妙な現象が起きていることなど露知らない教師は、いつも通り、自らが快適であると思っている温度に設定してから、黒板に向かい、スラスラと三角形の図形と数式を書き始める。

 授業も後半戦に入り、所々で転寝を始める生徒がいる中で、教室内には教師の声と、黒板にチョークを打ち付ける音が響く。石膏カルシウムを原料としているチョークはタッチが滑らかで、耳に残るハイヒールの足音のような音が響かないため心地良いが、筆圧の強い教師は秒速で折るため、一つの授業で何本ものチョークを無駄にする。しかし僕は、書くにしても折るにしても、チョークが生み出す音が好きだった。チョークの粉が黒板に刻まれる音。コツコツと黒板を叩く音。直線を描く音。受け皿に放り投げる音。全てが心地良いBGMのように聞こえ、それに重なる教師の声が、やや雑音のように感じる。僕は、緩やかに流れる音に耳を馳せながら、窓外に目を向けた。校庭でハードル走をする生徒達を見て、僕は不憫に思った。こんな寒空の中でハードル走をするなど、可哀想でしかない。冷気により筋肉が拘縮している状態では、身体が思うように動かずにハードルを踏み倒す確率が上がるだけではなく、板に脛を打ち付けた時の痛みを倍増させる。つい先日、初挑戦にして弁慶の泣き所を思い切り打ち付け、まるで三途の川さえも脳裏に浮かぶほどの尋常ではない痛みを味わったことを思い出し、僕は苦い顔をした。黙々とハードルに向かう生徒を憐れみの表情で眺めていると、校門に人影を見た。遠目だが、スーツを着た中年のサラリーマンのように見える。リュックサックを背負い、自転車のサドルに手を掛けてじっと校舎がある方向を眺めている。時間からして、お昼休み中だろうか。周囲を歩く人々の中で、まるで時間が止まっているかのように、後者を見上げる男は動かない。何をしているのだろうか? その男を認識してしまったせいか、僕は何となく気になり、男の様子を窺った。その時、校内にウェストミンスターの鐘の音が鳴り響き、教室のあちこちで椅子を引く音が聞こえた。一瞬で騒がしくなる教室に視線を戻すと、黒板に羅列していた数式は綺麗に消されていた。僕は、途中になっていた証明に目を向けて、そのままノートを閉じた。再び窓外に視線を戻すと、先程まで並んでいたハードルは既に片付けられ、生徒達がぞろぞろと教室の方に歩いてくるのが見える。校門からこちらを眺めていた男は、いつの間にかいなくなっていた。


 

まだお昼過ぎだというのに、太陽の光を遮断した店内は薄暗かった。時代を感じさせるアンティーク調の裸電球が、天井からぶら下がっており、木調の店内を暖かく照らしている。こぢんまりとした狭い店内だが、帰宅ラッシュに突入した時間帯であるせいか、数少ない席はジャケットを脱いだサラリーマンの姿で埋まり、溢れた客は、店外に並ぶ椅子へと案内されている。責務を終えた労働者の呼気が充満している店内では、制服姿の僕は少し浮いているように感じる。熱気の立ち込める厨房には、額にタオルを巻いた若い男性店員が、皮膚に滴る汗を拭き上げながら、湯気の立つ寸胴と対峙している。威勢の良い掛け声とともに、筋肉質の太い腕が伸びてカウンターに置かれた器からは、熱した油のような香ばしい香りが漂っている。脹脛まで伸びる前掛けを腰に巻き付けた女性店員が、深みのある器を両手に持ち、こちらに向かって歩いてきた。

「お待たせしました。明太マヨ油そばです 」甲高い声とともに目の前に置かれた器には、明太マヨネーズとネギがふんだんに盛られ、艶のある太麺からは、胡麻油の香りが漂っている。頭上から注がれる照明を受けて光るそれに刺激され、僕は過剰に産生された唾液を飲み込んだ。

「これ、美味しいんだ」正面に座る男が言った。

「美味しそうですね」純粋な感嘆の声が漏れる。

「僕のお気に入りなんだ」男はやや緊張したような面持ちで言った。その表情は何だか嬉しげで、男は照れ笑いを浮かべながら頭を掻いた。その目尻に寄る笑い皺には、どこか見覚えがあるような気がした。

「あの、僕、誘惑に釣られてほいほい付いてきちゃったんですけど…誰ですか?」出来立ての油そばには手を付けずに、僕は正面から男を見つめた。男は何も言わず、僕の視線にも気付いていないような素振りで、割り箸を差し出した。血色の良い、きめの細かい肌に刻まれた目尻の皺が、不純物のように浮かび上がって見える。ある程度の厚みを持って整えられた眉毛は、精悍な顔立ちをさらに際立たせており、深い茶褐色の瞳には、妙に懐かしさを覚える。男は僕の視線を恐れているようで、それが交差すると、はっとしたように視線を逸らしてしまうのは、何故だろう? スーツを着ているということは、サラリーマンなのだろうか。臙脂色のネクタイには、山吹色の狐のような刺繍が施され、その模様が、濃紺のスーツをアンティーク調に仕立て、上品な雰囲気を纏わせている。胸板の厚そうな体躯だが、男から漂う妙な緊張感が、男を小柄に見せているような気がする。

「先に食べようか。ほら、麺が伸びちゃうから」男はぎこちなく笑いながら言った。

「汁、ないですけどね」そう言って、僕は目の前の油そばに視線を戻し、割いた割り箸でぐるぐると混ぜ合わせた。

「僕は、君の父親なんだ」ぽつりと、男が口を開いた。

「…」一瞬、全ての思考が停止した。何の考えも思い浮かばないまま、僕は男を見返した。その言葉が掛けられることを、僕はある程度予想していた。僕の、本当の父親。物心が付く頃には、既にいなかった父親。その姿を、何度想像しただろうか。結局、思い出そうと努力することの無意味さに気付いて、止めてしまったが。離れていても、血の繋がる父親であると、幼な心に思っていた気持ちは、純真で滑稽なものであったと、思っていた。男は視線を机上に落とし、額の汗をハンカチで拭きながら、分かりやすく瞬きを繰り返している。

「…僕の、本当の父親? 本当って何ですか? それでは、僕を今まで育ててくれた父親は、偽物ですか? 冗談じゃない。僕の父親は一人しかいませんし、それはあなたではない。あなたは、僕の父親なんかじゃない」少し、棘のある言い方になってしまった。

「…あ…そうだよね…ごめん」男は泣きそうになりながら、ぎこちなく笑った。

「今更、何の用ですか?」

「あ…あの…」そう言って、男は口を噤んだ。僅かに、唇が震えている。

「あの、特に用がないのなら、これで失礼します…」一早く、ここから逃げ出したいと思った。そうしなければ、どうにかなってしまいそうだった。何故、それほどまでに男から離れたいのかは、分からない。しかし、心底から込み上がる焦燥感が、僕をせき立てているような気がした。

「あっ、ま、待って…あの、謝りたいんだ、君に」語尾を強めて、縋るような視線を向けながら、男は言った。

「は? 謝る? 何をですか?」僕は男を睨んだ。

「あの、本当に、申し訳なかったっ…」そう言って、男は深く頭を垂れた。

「あの時はっ…本当に、本当にっ…すまない…」上擦った声と、鼻を啜る音が響く。

「…何故、謝るんですか? 確かに、僕は幼い時は施設で暮らしましたけど、今は父親にちゃんと育ててもらっています。何の関係もないあなたに、謝られることは何もありません。それに…都合の良いことに、僕には『本当の父親』の記憶はありません。だから、もういいんです。僕には、関係ないんです。父親に本当も何もない。血の繋がりを気にされるのなら結構ですが、僕には関係のないことです。だから、あなたの行為には何の意味もありません。どうぞ、頭を上げてください」意識的に無感情を装ったが、僕は、じわじわと湧き上がる動揺を隠しきれず、胸の鼓動を強く感じていた。

「僕には、関係ない…」そう自分に言い聞かせた。あの頃抱えていた感情を、ぶり返してしまうのが怖かった。今更謝らなくても良いから、僕に関わってほしくなかった。あの頃の記憶は、消した筈なのに。完全に消えていないことは、分かっていた。どうして、今になって、現れたのだろう。これ以上、僕を苦しめることに、何の意味があるのだろう。男は、頭を垂れたまま、唇を強く噛み締めている。

「頭の傷は…その…痛くないかい?」やっと頭を上げた男は、縋るような目を向けながら聞いた。

「頭の傷?ああ、これのことですか?」僕は、左側頭部にある直径三センチほどの起伏部に触れた。これは、僕が赤ちゃんの頃にできた傷で、その理由については、特に聞かされていなかった。

「痕は残ってますけど、特に支障はありません。傷痕も見えないし」

「そうか…」男は深い溜息を吐き、安堵したような表情を見せた。

「その傷は…僕が付けてしまったんだ」重みを持った男の言葉に驚かなかったのは、僕自身の中で、傷跡と父親の存在が、感情を揺らがすほどの存在感を持っていなかったからなのかもしれない。

「そうですか」

「君は、思い出したくもないかもしれないが、何をしても泣き止まない君に向かって、僕は…本を投げ付けてしまったんだ。それで…僕は…一人で君を育てられる自信がなくなってしまったんだ…それで…」

「それで、僕を捨てたと?」

「…いや、そうじゃなくて…」

「そういうことでしょ? どんなに最もな理由を言ったって、やっていることは変わらない。あなたは、僕を捨てた。僕は、捨てられた。僕の父親は、あなたではない。何を今更やってきて、謝りたかったんだって。自分勝手にも程があると思いませんか?」僕は言葉を吐き出すように、一気に捲し立てた。そうでもしないと、涙が溢れてしまいそうだったから。胸が強く締め付けられるような圧迫感を覚える。

「もう、いいです。分かりましたから。僕は、ただ血の繋がりのあるあなたを恨んではないし、今更、傷のことを咎める気もありません。ただ、忘れたいんです。僕の人生から、完全に、取っ払いたいんです。どうせ、会わないのなら。どうせ、父親として一緒に過ごすことがないのなら。いい加減、僕の心の中に居座るのをやめてもらいたいんです。そのための努力を、ずっとしてきた。ずっと、忘れようとしてきた。だけど、できない。どうしても、できないんです。心の中でどんなに願っても叶わないのなら、それは、無意識のうちに、僕が望んでいるということなのかもしれない。こんなにも忘れたいのに。僕の知らないところで、限界までに押し潰した記憶を、僕が探しても見つからないような奥底に、封じ込めようとするんです。だけど、水中に沈められ、水面に出ようと藻掻くようなこの苦しみを、あなたは知らない。この感情が、僕の一方的なものであるのなら、それはどうしようもなく、不憫で、哀れで、滑稽なものだと思いませんか?」狂おしいほどに、目の前に座る男を、睨んでいた。今までの僕の苦しみを、全て、ぶつけてしまいたいという衝動に駆られた。しかし、ここで錯乱した後、僕はどうやって生きていけば良いのだろうという不安も同時に感じた。彼を、気の済むまで罵った後、彼の精一杯の謝罪と後悔の念を聞いた後、僕の感情は果たして無くなるのだろうか。

 確か、小学校低学年の時、塗り絵をしていた僕は、隣の子にクレヨンを取られて泣いてしまったことがある。話を聞いた担任の先生は、僕からクレヨンを奪った子に謝罪を、僕に海容を強要した。許すことを渋った僕を、先生は叱った。謝罪を拒否することを、悪いこととして教えたのだ。本当にそうだろうか? 謝罪をすることなど簡単だ。それを許すことの方が遥かに難しいのに。あまりに浅はかな対応に、僕は幼な心ながらに驚いたことを覚えている。謝って、許したら終了。僕がその時に覚えた教訓だ。根に持つタイプの僕は、そのことを暫く恨んでいたが、僕からクレヨンを奪った子は、素知らぬ顔で僕の前を通り過ぎる。僕の恨みが続いたとしても、一度解決したのであれば、相手の罪は一掃され、僕の恨みのみが残る。今回も、そうなってしまうのだろうか。あの時のように。もし、そうなってしまったら、僕はもう、生きていけない気がした。僕が今まで生きてこられたのは、僕の中に父親に対する遺恨の念があったからなのかもしれない。そして、これからも僕が生きていくためには、その陳謝を、受け入れてはいけない。決して、許してはいけない。

「もし、君がお兄ちゃんだったら、いいよって許してあげるよ?」僕が頑なに首を振り続けていた時、先生は僕にそう言った。子供ながらに大人になろうとした、僕の矜持を底なでして。なんて、ずるいのだろう。少し大人になった今、そう思う。

 僕はあの時のように、子供染みているのだろうか。僕が大人だったら、父親のことを許し、新しい人生を生きていけるのだろうか。いや、多分、そうではない。僕が恐れているのは、父親を許すことではなく、父親が、僕の存在を忘れてしまうことのような気がした。幼い頃に築いた教訓によれば、僕が許しを与えることで、父親は僕に対する罪悪感から解放されることになる。則ちそれは、僕の存在をなかったことにできるということになるのではないか。もし、そうなった場合に、僕の存在意義がなくなってしまうことを、恐れているのではないだろうか。今まで、少なからず父親の懺悔対象であった僕は、もう誰からも必要とされなくなってしまうかもしれない。世界で、誰も、僕の存在を認識しない。感情的な対象としてではなく、視覚的な対象としてでしか認識しない。そんな世界で、僕は生きることなどできない。

「あなたのことは、微塵も興味はない。だけど一つだけ、聞きたいことがあるんです 」一語一句噛み締めるように、僕は言った。

「…うん」男は俯き、目尻に溜まった涙を掬いながら頷いた。

「…僕のお母さんは、僕を愛してくれていましたか?」その言葉を聞いた瞬間、男ははっとしたように僕を見つめた。記憶の中に、微かに存在する母親の記憶。長い年月を経て、徐々に薄らいでいく記憶の中に、確かに残る大切な記憶。僕の、母親。太陽のように眩い笑顔。瞼の間から覗く、色素の薄い瞳。母親は、僕を愛してくれていたのだろうか? なぜ、母親は僕の前からいなくなってしまったのだろう? なぜ、家族は崩落してしまったのだろう? なぜ、僕には家族がいないのだろう? なぜ、離れなければならなかったのだろう? そんな疑問はとうに捨て去り、過去のどこかに置いてきた。今、僕が聞きたいのは、純粋な疑問だ。お腹を痛めて僕を産んでくれた母親。多くの時間を共に過ごすことはできなかった。しかし、確かに僕の中に存在する母親の記憶。暖かい記憶。母親は、僕のことを、少しの時間だけでも、愛してくれていたのだろうか? それとも、僕を産んだことを後悔していたのだろうか? 後者でも良いと思っていた。でも、僕と過ごした時間の中で、ほんの一瞬でも、刹那にでも、愛情を注いでくれたのではないかと信じたかった。記憶に残る、母親の瞳。あの眼差しだけは、温かなものであったと信じたかった。

「母親は、事故で亡くなったと聞きました。まだ僕が幼い時に。でも、確かに覚えているんです。鮮明ではないけれど…」

「そうか…」真っ直ぐに、男の瞳を見つめた。これまで、避けていたその瞳に、僕が映る。あれは、紛れもなく母親の記憶。決して、自分の中で塗り固められた幻想でも、都合良く作り出された虚像でもない。胸が、熱くなった。唇が、震えている。涙で滲ませた瞳に映る男が、歪んで見える。

「…お母さんは、自殺したんだ。原因は、産後鬱だった。丁度、遙が三歳の時だった。あの頃、僕は仕事に慣れてきた頃で、忙しくて…遙と、お母さんを守るために、必死に働いていたつもりだった。でも、そのせいで、彼女の心の変化に、気付いてあげられなかったんだ。彼女は…君のことを、心から愛していたよ…それだけは、確かな事実だ。決して、嘘などではない。揺らぐことのない、真実だ」男はゆっくり、噛み締めるように言った。僕を捉えて離さない瞳に僕の視線が交差した時、何か、感じるものがあった。あの瞳は、見たことがある。懐かしいような、憎いような瞳。その色。母親の瞳よりも、黒と赤と渋みを足したような、茶褐色の瞳。優しさよりも、強さを感じる瞳を、鏡の中で何度も見た。僕があれほど感情的になったのは、あの時、僕は、彼に何かを感じていたからなのかもしれない。その雰囲気や、仕草や、瞳の色に、僕の身体が、僕の精神とは別のところで、親近感を覚えていたのかもしれない。彼が、僕と同じ瞳を持つのは、なぜだろう? その答えを、あの時、彼の瞳を見つめた瞬間、僕は無意識のうちに、分かっていたのだろう。

 そういえば、彼に声を掛けられた時、どこかで見た顔だと思った。今思うと、あの時、僅かに侵入した外気を心地良く感じていた時、集中力を欠いた授業を放棄して、ぼんやりと窓外を眺めていた時、校門の隣に見えたサラリーマンのような男が、彼だったのかもしれない。僕が彼の姿を捉えたのは、その視線に反応した身体が、無意識に視線の先を追ったからなのかもしれない。僕が彼を見つけた時、彼もこちらを見ているような気がしたのは、強ち間違いではなかったのだろう。何百メートル先のぼやけた顔からは、彼の表情を認識することはできず、ただ、校舎の奥に広がる空を眺めているのだろうと思っていた。しかし、今思うと、彼は確かに僕を認識して、僕のことを見つめていたのだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る