第10話-守り人-

 ただ平凡な家庭で生まれたかっただけ。幼い頃から警察官になりたかった僕は、両親の言うままであった。警察官ではなくホストの仕事につけ。あなたは顔がいいのだから。そう言った母の顔さえも覚えていない。最低限の生活は出来ていた。朝、昼、晩の基本的な三食のご飯もきちんと食べられていたし、学校も学校で必要な物も買い与えてくれていた。だけど、そこに愛があったか?と言われるとなかったと言えるだろう。母が死んだ。そして父は悲しんでいた。涙を流していた。でも俺は泣かなかった。母の死の原因は、通り魔。そう言われている。だけど違う。本当の事実を僕は知っている。母を刺した犯人は見知らぬ人。そう言われていたが、本当は浮気相手だと言うことを。だから、死んで当然だと思っていた。それに、母は僕を邪魔だとしか思っていなかった。父だけが僕の心の拠り所であった。そして父が再婚することとなった。家へきた新しい母は僕に喋りかける。だけど僕は心を開かない。もう懲り懲りだからだ。愛されないのも嫌われないのも疲れたからだ。そして新しい母が来てから一ヶ月ほどが経った頃、僕が誘拐された。小学校の帰り道、女の人へと車に連れ込まれたのだ。目は白い布で隠されており、何も見えない。目隠しが外された時、僕の視界に入ってきたのはもう使われていない工事内であった。女の人は僕の顔を見て歯を食いしばっている。何か僕にあるように。それから何時間が経っただろうか、女には何もされないし助けも来ない。ただ女性が写真を見て泣いている。その写真の人物とは、母の浮気相手であった。そこから推測できるのは、浮気相手の彼女、または婚約者なのだろう。そして逮捕された彼は僕の母のせいだ。そう言いたいのだろう。しかし、僕が思っていたより、目の前の女性は違ったのだ。つぶやいた。彼が死んだ。母と浮気相手は二人共に死んだのだろう。だから僕は言った。

 

「大切な人は、どれだけ願っても帰ってきません。帰ってくると言うのならば、なぜ他に帰ってきてほしいと願っている人の元へその人は帰ってこないのですか?」

 

 その言葉に女性はこちらに顔を向ける。そしてマジマジと顔を見ているうちに喋りはじめた。

 

「僕すごいね。小さいのに私よりもしっかりしてる。わかってるの。帰ってこないって。でも、諦められないの。彼を愛していたから」

 

 愛している。そんなことないと思っていた。ただ、彼を自殺に追い込んだ母が許せなかったのだろう。その関係者である僕、父にも責任がある。そう言いたいのだろう。僕は女性の目を見る。その目は何か恐れているかのようだ。今さら自分の行動を反省しても意味がない。だってもう行動に出してしまっているから。それから数分後。僕が眠りかけていると、新しい母が入ってきたのだ。その姿はボロボロで今にでも倒れそうだ。僕はなぜここまでしてきたのかが不思議であった。きっと、警察と別れて探している時、この工事を見つけたのだろう。

 

「その子、返してください」

 

 新しい母は言った。先程の話を聞いていると、僕を誘拐した女性は返す。そう推測していたのだ。だが、違った。スッと僕の首にナイフを当てたのだ。その瞬間、僕の頭は真っ白になった。推測が外れた、それ以上に思ってもいなかった展開へとなった。そして女は言う。

 

「このガキさ、さっきうちに説教したわけ。だから、罪償ってもらわないといけないの。お母さんなのかは知らないけど、ババアは黙ってな」

 

 そして女は僕の首に刃を当て、今にでも切れそうだ。それを見た新しい母は焦り走ってきた。そして女の体を蹴り倒すと僕の紐を解いた。そして逃げなさい。そう言った。でも、腰が抜けた僕は倒れたまま動けない。それを理解した新しい母は僕を抱っこした。そして走り始めた瞬間、倒れたのだ。倒れたのにも関わらず新しい母は自分の体をクッションとし、僕を守ったのだ。そして体を起こし僕の視界に入ってきたのは、冷えた工事の地面に広がる赤く赤すぎる血であった。新しい母は最後まで、逃げなさい。そう言った。もう助からない。そう自分で理解しているのだろう。

 

「ママ。ありがとう」

 

 その言葉に母は涙を流し、温もりは消えていった。そして血のついたナイフを持った女はこちらを向く。そして、ニヤッと笑うとこちらに走ってくる。生足だからこそこの工事中に響き渡る音。僕は、いや俺は許せなかった。女も俺も。女は母を殺した。俺は、母は今まで俺がどれだけ酷いことを言おうと諦めず話しかけてくれたのだ。それに、泥だらけの服、破れたズボンも全て直してくれた。それを陰から見ていた俺はなぜ感謝を伝えなかったのか。なぜ、ママ。その言葉を最期まで言わなかったのか。母は俺のために命を落とした。それが俺を強くさせるきっかけとなった。前の母が死に父がおかしくなった。酒に浸る父は昔とは変わってしまった。そのことから俺は喧嘩をするようになっていた。嫌なことがあればそこらへんのイキってるやつとやり合う。そんな日時が出来ていた。だけど、新しい母が来て父は変わった。前の父に戻ったのだ。父の中で新しい母の存在はものすごく必要だったのだ。そのことから喧嘩はやめた。だから、今がどうかはわからない。だけど、許せない。その気持ちが俺の拳にこもる。そして俺は女の腹を思いっきり殴った。小学生の力。そうだとは思えないほどに強かった。この力、なんだ。そう思うほどに。そして女は腹を抱えながら倒れた。殴った直後ゴキっと音がしたことから、骨にヒビが入ったのだろう。俺は泣き母の元へ行く。そして涙が出たのだ。泣き崩れる。そして数分経った頃、警察が到着したのだ。そこには冷えきった母、泣き崩れた俺、倒れた女の三人であった。それから母の葬式は無事に終えた。その日は太陽が出ており雲などひとつもない母にピッタリな日であった。清々しい。顔に笑顔が浮かび上がる。もう俺は一人じゃない。母が一緒にいるから。それから一二年ほどが経ったある日、一人の少女がおじさんに絡まれていた。そしておじさんが手を上げ始めたのだ。いつもの俺なら無視するだろう。だけど、この少女だけは見過ごしてはいけない。そう感じたのだ。そして気づけば俺はおじさんと話していた。そして逃げようとしたおじさんを捕まえると警察の人々に預けた。やっぱり警察官の方々はかっこいい。今でも俺は警察官になると言う夢を諦めていない。ちなみに今俺は、前の母が望んだようにホストで働いている。だけど、そこにいるホストの人は何かしら問題を抱えている人たちが半数だ。そう言っている俺もその半数の一人だ。そう考えていると、隣にいた少女が倒れたのだ。俺は驚きと共に慌てた。そして警察の方々に言おうとしたのだが、既にいなかった。そして家に連れて帰った。そして眠っている。体が傷だらけの少女の状況が少し理解できた。それから警察署から電話がかかってきた。その内容は、おじさんがなぜあのようなことをしたのか、と言う内容だった。それを聞いているうちに、自然に悲しくなった。そして俺は言った。

 

「あの、俺の妹が体傷だらけで、治療お願いします。」

 

 見た感じ未成年だ。だから、このままだと警察の人たちに連れてかれる。この子はきっと逃げてきたのだ。そう思ったのだ。だから、この少女を俺の妹と言い、連れてかれないようにする。それが狙いだったのだ。だから、少女と警察の人たちに事情聴取を受けている間なるべく近くにいた。それから数分後、女の看護師さんが到着した。そして体の治療を終えると俺に言ったのだ。

 

「妹さん。本当に大切にしているんですね。」

 

 そして帰っていった。治療中は他の部屋へと移っていたため、どのような治療をしたのかは分からないが、この子の体はボロボロであったことだけは確信できた。それから二日間少女は目を覚ましませんでした。死んでる?そう思うほどに静かであった。少女が目を覚ました時、一つの水を渡しました。だけどそれを手の中にしまうだけで飲もうとはしてくれない。俺のことを警戒している?そう疑った。俺はこの二日間の話をした。それを聞き終えると少女は玄関へと行き、出て行こうとした。だが、ここで離れればもうこの子は助からない。そう悟ったのだ。だから俺はこの家にいることをすすめた。それからの記憶は曖昧だ。次の記憶は少女とマリーゴールドの花を見つけたとき出あった。オレンジ色に輝くマリーゴールドはとても美しかった。昔の俺のようだ。俺は彩芽と隣の隣を歩く。大きな影と小さな影がある。この子を守りたい。そう思うのでした。それから、彩芽の誕生日がやってきた。同僚に手伝ってもらい、不器用な俺も頑張って誕生日仕様へと変えた。そして彩芽が帰ってくるのを待っている間、同僚の睡蓮が聞いた。

 

「彩芽ちゃんって子のこと好きなの?」

 

 俺は正直そのような気持ちなどひとつもなかった。だから、いや違う。ただの妹だ。と言う。好きな人、そんなものできたことがない。俺に好きな人を作る資格などない。毎晩のようにホストで女を喜ばせ、裏では常連の女を抱く。それだけを毎日続けるからだ。今日はいい日だ。だから暗くなるなど場違いなのだ。俺は笑う。あいつが無理矢理俺の前で笑うように。俺は知っている。彩芽の心にはいつも悲しい花が咲いていることを。その花は何年経っても枯れることがなく、咲き続けることを。だからこそ彩芽を手放してはいけない。今までの俺は嫌なことがあれば全て都合のいいように自分の中で解釈していた。だけど、それも今日でやめようと思う。これからは全てありのままに自分らしくいることを誓うのです。それから彩芽が帰ってくき、ご飯を食べ始めた。そして同僚が寝た頃に俺は誕生日プレゼントのネックレスを渡したのだ。それと共に別で指輪も。それを喜んでくれる彩芽が今までの反応とは違う。そう思った。それからは俺は警察官へとなるため、勉強に励んだ。そして研修に行っている間、彩芽とは会えなかった。その時思ったのは、研修中の間ずっと彩芽のことを考えていた。恋しかったのだ。そして俺は思った。

 

「彩芽が好き」

 

 それから無事研修も終え、試験にも受かった俺は警察官へとなった。これでまた会える。そう思っていたのだが、それは感じがいだった。警察の仕事は思っていたよりは大変ではないが、彩芽といられる時間が少なくなったのだ。その頃には自分でわかるほど彩芽のことを愛していた。だが、彩芽はどうなのか。それが不安だ。告白したい。その気持ちがあったのだ。ちょっと前を遡ると、俺はものすごく馬鹿だ。彩芽の声が聞こえ、玄関のドアを開けた先にいたのは、知らない男とキスしている彩芽だった。俺はそれに自分でも驚くほどショックを受けた。こうだよな、三歳も歳の離れた男を好きになるわけないよな。それに、彩芽はもう十八歳だぞ。彼氏一人いてもおかしくない歳だ。そう自分に言い聞かせた。だが、俺はショックが隠せず彩芽が言うこと全てを無視をした。したくてしているわけでないのに言葉が詰まる。そして彩芽が泣きそうになり逃げようとした。その時やっとの思いで声が出たのだ。

 

「だれとキスしてたの?」

 

 彼氏。そう言われるのが怖かったのだ。何も言わないでほしい。その気持ちがあり俺は彩芽にキスをした。そして抱き締める。他の男に取られたくない。そう思ったからだ。次から次へと体を触る。警察官になろう人が何をしているのか。そう思い我に戻った俺はその場を立ち去った。それから二年後。今日は俺の誕生日だ。だが、その頃には警察官へとなっていた俺は家に帰るのが遅くなった。深夜十二時を回っていたことから、静かに入った。だが、リビングの電気がついていたことから起きてる?と思う。そしてドアを開けた先には美味しそうな料理と眠っている彩芽がいた。彩芽のジャージは胸元が開いており、隙がありすぎだ。そして俺の足音から目覚めた彩芽は俺の方へと寄り添うと、胸元を締める。狂いそうになるからだ。それから料理を温め直すと食べ始めた。とても美味しいからあげ、エビフライ、ハンバーグだ。それから時間は立ち、彩芽が俺に言いたいと言うことがあった。それは、俺に、好き。と言ったのだ。俺は驚きと共に複雑な気持ちへと変わった。なぜなら、好きな人に先に言われてはカッコ悪いから。俺は、ゴメン。そう最初に言った。その瞬間彩芽の顔が暗くなったことがわかった。それに焦った俺はすぐに自分の気持ちを伝えた。それからは幸せであった。彩芽と初めて一つとなれたこと。付き合えること。両思いだったこと。俺は彩芽が大切だ。次こそ大切な人を守り通す。俺と彩芽は自分たちが欠けている部分を埋め合う。それが俺の選んだ道なのだ。それを母も望んでいるだろうから。その時天にいる母は微笑んだのでした。

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