第9話-愛する人へ-

 スーパーの帰り道、私は見てしまった。母を。私と同じ顔の母のことを間違えるはずがない。そして足が動かない。私は逃げることができなくなったのだ。目が合う。その瞬間、私の方へと走ってきた。怖い。足が動かない。逃げられない。私、またあの生活に戻るの?そんなのやだ。やだよ、ヤダヤダヤダヤダヤダヤダ!ヤダ。そう思っていると、私の目の前に竜胆さんがいた。そして私の手首を掴むと走り出した。そのうち母はいなくなっていた。私の息は荒々しくなり、今にでも倒れそうだ。そんな私を見ている竜胆さんは口を開いていった。

 

「なぜ逃げなかった!なぜ動かなかったんだ。もしかして母の元へ帰りたいのか?」

 

 怒っていた。それと共に瞳は涙目となり、でもよかった。そう言った。私の瞳も涙目となり下を向く。あれ、こう言う時って上だっけ。涙がこぼれ落ちる。ポツッポツッその音だけがコンクリートに響き渡る。空はとても清々しい青空。雨なんて降らない天気だ。だから、泣いていることが丸見えだな。そう思う。しばらくすると竜胆さんは背後から私を抱きしめた。その体温はとても温かく落ち着く。こんなことされたらなおさら涙が止まらないじゃん。だけど、この時間が安心できた。それから時間が経ち、私と竜胆さんは川の綺麗な公園にへときた。川には鴎などが泳いでおり、周りには小さな子供たちや犬の散歩の人々がいた。特に私がビックリしたのは、ミーアキャットの散歩をしている方がいたことだ。楽しいな。私はそう思った。ベンチに座っている私たちはなんなのだろう。隣の竜胆さんはものすごく注目を浴びている。その隣にいる私はモブ?だろう。少し羨ましいと思います。そんな中三人組の女子高校生たちが竜胆さんに話しかけてきたのです。

 

「あの、この後お茶しませんか?♡」

 

 見ているだけで吐き気がしそうだ。パンツが見えそうなスカートの短さ。胸元は派手に見せやがっている。これが最近の女子高校生なのだなと思った。竜胆さんは言った。

 

「ムリ、こいつ俺の連れだから」

 

 セリフまでイケメンとか悔しいんだけど。私はただ隣で見ているだけ。悲しくなってくる。女子高校生たちは私を睨みつけてくる。隣の方が何かを言えば全て私にくるのね。そう理解した。懲り懲りだな。こんな面倒なことに絡まれるのとか。そして女子高校生たちは私の荷物を蹴り飛ばし地面へと叩きつけた。その行動に一緒目を疑ったが、再確認をし取りに行った。その間に女子高校生のリーダー?的な女が私の席を座った。私はもうどうでもいいや。そうなりカバンの中身を拾うと立ち上がり歩き出した。

 

「おい、待て!」

 

 竜胆さんは言うが、私はそこまで心の強い人で無いんです。見た目とは比べ物にならないほどの弱虫なんです。この見た目は鶴野家の顔だからこそ強く見えるだけ。私は例え鶴野家の娘だろうと心は強くならないよ。お婆ちゃんのようにはね。

 

「あっれー?おねーさん意外と弱虫なんだね。見た目とは比べ物にならないほど。」

 

 女子高校生たちが笑っている。その声を聞きつけた周囲の人々が私たちを囲む。私の弱虫な姿がここにいる人たちに見られちゃうな。私は気づけば鶴野家の髪を切っていた。長く白く美しい髪は顎ほどまで切れており、切れた髪はヒラヒラとそこらじゅうに散らばっている。周囲の人も、女子高校生も、竜胆さんも驚いている。もういっそうどうにでもなれ。一度自分を切ってしまった私の手は止まらなかった。嫌いな顔の頬をハサミで切り裂いたり、鶴野家だからこそ受け継いだところ全てを切り裂く。だけど、なんでだろ。なんで私は痛みを感じないのだろ。どれだけ切っても、自分を傷つけても痛みがわからない。私は泣き叫ぶ。自分が自分でないことに気付いたから。そんな私をいいことに、女子高校生は腐った根性からやり始めた行動とは、カバンからハサミを出し自分で切ったのだ。それを大声で切られた。と叫び始めた。その状況は全て私が犯人。そう思うほどの現場。竜胆さんは女子高校生の元から私の方へと走り始めた。そして私の前へと立つと口笛を鳴らした。その口笛はどこまでも聞こえるほどの響きようであった。それからすぐに一人の少女がバイクに乗り私たちの前へと止まった。その少女はとても可愛い顔であったため周囲の人々も思わず見惚れていた。そして竜胆さんは乗れっと言うとそのまま少女を置いて逃げた。

 

「彼の方はいいの?」

 

 私がそう聞くと小さく頷き走り続ける。そのまま病院へと行き、治療も終わった。そしてバイクへと乗り家まで送ってもらった。そしてマンションの前まできた私を下ろした竜胆さんは、私の唇にぬるく生暖かい唇をつけた。私はそれに驚き竜胆さんに言った。

 

「あの、それ私のファースト、ト、キ、キ、キスだったんですけど。」

 

 私がそう申し訳なさかさそうに言うと竜胆さんも顔を赤くしそのままバイクへと乗っていった。私はあのぬるく暖かいキスが忘れられないまま家へと入った。今日仕事が休みである椿さんにただいま。と声をかけるが返事がない。私、何かしたかな?そう思いつつも夜ご飯の準備を始める。それからはテレビもつけず本を読み続ける椿さんがいる。帰ってきてから一言も喋っていない。私、何かやったのかな。そう心配へとなる。それから夜ご飯の肉じゃがを作り終えるとお皿に盛りテーブルへと置いた。

 

「いただきます」

 

 その言葉さえも合わなかった。無言の食事。それはあの家にいた頃と一つも変わらない。私は息を飲み込むと共に、なぜ何も喋らないのか。何故、無視をするのかを聞いた。だが何も喋ろうとはしてくれなかった。私の瞳には涙が溜まり、今にでも溢れ出しそうだ。だからこそ涙を見せたくなかった私はご飯を早く食べ終わると食器を片付けその場をさろうとした。

 

「だれとキスしてたの?」

 

 その言葉が聞こえた。私は背後を振り向くと椿さんがこちらを向いていた。私は喉から言葉が出てこなくなり椿さんがあきれたかのようなこちらへと歩いてくる。そのまま私の唇に竜胆さんとはまた違う、暖かくトロげそうなキスだった。他に触られたとことかないよな。そう言うと私の体を抱きしめた。強く暖かいハグだ。

 

「他のやつに取られたくない。俺だけを見てろ」

 

 そう言われ私の顔は真っ赤へと変わる。椿さんは今ホストをやめ警察官へとなろうと努力をしていた。そんな彼を私は応援していました。それから椿さんは私の体を次から次へと触る。暖かい手が私の胸に当たるだけでドキッとするこの気持ち。

 

「この髪、変じゃないですか?」

 

 私がそう聞くと椿さんは言った。

 

「似合ってる」

 

 またもやドキッとした。この気持ちどう隠せば良いのでしょうか。そして我を取り戻した私たちは自分たちの部屋へと戻り眠るのでした。それから二年後、私は二十歳。椿さんは二十三歳となった時には念願の警察官へとなっていた。そのせいでホストの仕事の時よりも一緒にいられる時間は減りましたが、椿さんがやりたいことを叶えられたのならばそれでも叶いませんでした。また、竜胆さんとはラインをしておりちょくちょく話は聞いている。それよりも今日は椿さんの誕生日だ。そのため早く帰ってくると聞いていた私はご馳走を作ろうと思う。それに今日私は告白をする。二年間五ヶ月ほどが経ち私の心は前よりもドキッとすることが多い。考えているだけで顔が赤くなる。それよりも準備。私はそう思いがんばった。テーブルにはからあげ、エビフライ、ハンバーグ。椿さんの好きなものだけを集めた。プレゼントはネックレスだ。私に初めてくれた時と同じく、私もネックレスをあげるのです。それから約束の時間へとなっても帰ってきませんでした。それから深夜十二時を回ってしまった頃から疲れが出て眠ってしまった。それから数分経った頃椿さんが帰ってきた。扉を開くとそこには眠った私と冷め切った料理だけだった。足音で起きた私は椿さんの方を見ながら言った。

 

「1日遅れてしまいましたが、お誕生日おめでとうございます」

 

 そう言うと椿さんは私のジャージの胸元を締めた。何でだ?そう考えている時思い出した。動きやすいかっこがいいからジャージにしようと着た後、暑くなり胸の部分を開きっぱなしだったことを。私は顔が赤くなり一気に目が覚めた。椿さんの顔も私と同じく真っ赤だ。そしてご飯を温め直すと席に座った。そしてしばらく食べながらワイワイ話した後、私は言う決意をした。

 

「あの、椿さん。これ、誕生日プレゼントです。後、私。椿さんのことが好きです。二年前に助けてもらってことがきっかけですけど、私本当なんです。」

 

 ぎこちないが私は気持ちを伝えた。これで何を言われようと怖くない。心の覚悟はできたからだ。目を閉じている。そして耳から聞こえてきた言葉は、ゴメン。それだけであった。私は泣きそうになった。だが、違ったのだ。

 

「ゴメン。先に言わせて。俺彩芽が好きだ。お前の全てが好きだ。だから、彩芽の全てを俺にくれ」

 

 椿さんはそう言ったのだ。私はキョトンとなりながら泣いた。小さな子供のように泣き崩れた。そして椿さんに、バカバカ、そう言いながら叩く。その時私の唇に暖かくトロケルキスがやってきた。静かな部屋にチュッと音が響き渡り恥ずかしい。そして終わった後椿さん言った。

 

「暴行罪の罰だ」

 

 椿さんの誕生日。今日は二人にとって幸せな日となりました。それから何度もキスを繰り返しベッドへと行く。地肌に椿さんの手が当たるたびにビクッとなる。恥ずかしい。椿さんは普段から意地悪だが、このようなラブラブな空気へとなるとドSへと変身する。この経験を何度もしたことがあるからなおさらわかるのだ。だけど、それを嫌だと思わない私はなんなんだろう。逆に嬉しい。私を求めているように感じられるから。そして私は今日、椿さんと一つになりました。

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